試行錯誤の世界史探究~日々の授業実践のなかで、具体的に考えていること~(1)
「先生たち、どういう授業を行っているのだろう?」
「他の先生たちはこういう時、どうしているのだろう?」
新任教員の頃も、10年目の今も、私は年間を通じてこの疑問を何度も抱いています。
しかし、なかなかそれを共有し、答えを得る場面は少ないように思います(私のコミュニケーション不足かもしれませんが)。
神奈川県立伊勢原高等学校 教諭 朝倉 由真
365日の授業構想
心の中で大きな教育目標を掲げていても、毎日毎日つくり重ねる授業に、それを落とし込んでいくのは簡単ではありません。毎日のことである割には、先生たちは孤軍奮闘しているように感じています。
私はテレビや映画を観ても、本や雑誌を読んでも、動画サイトを視聴しても、旅行先でも美術館でも。365日、常に授業のネタ、授業構成や表現のヒントを探しています。先生方には共感して頂けるのではないでしょうか。
私個人の経験ではありますが、等身大の日常だからこそ、僭越ながら同じように疑問を抱く先生方のヒントになるかもしれませんし、共有知になったらいいなとの思いで、複数回にわたり、私の試行錯誤を具体的につづってみようと思います。
教職以外の方々からも、私の周辺では、みなさん教育現場の話には興味津々です。そうした皆様にも、知見としてお役に立てれば幸いです。
記憶定着度
人は新たな知識を学ぶとき、「話を聞く」のみでは定着度は10%にとどまり、「読む」と20%、「見ながら聞く」と40%、「言うor書く」と70%、「人に教える」と90%まで上昇すると言われています。
この数値は、20世紀のアメリカ人教育者エドガー・デールの「経験の円錐」をもとに後年、第三者が定着率の目安として加えたものとされています。たしかに、実感として納得できる方が多いのではないでしょうか。
すると、黒板に用語や図式を書きながら講義するだけの授業では、たとえどんなに話し方が巧みだとしても、生徒に定着するのは講義内容のわずか10%ということになります。
高校現場において、「社会科目の授業は、やはり肝はチョークアンドトークである」と根強く言われます。私も否定はしません。「教え込む」授業ではなく、生徒自身に「考えさせる」授業を、ということは言われて久しいですし、考察をさせた時の方がいきいきとし、記憶定着度が高いことも実感しています。
しかし一方で、知識なくして考察することは不可能だ、とも実感しているからです。単語レベルでも分からないことだらけのテーマについて、考察する、というのは大人でも厳しいですよね。
さらに、自学自習のHow to、自己認識の中に物事の概念を構成する力、などから育んでいかねばならないのが大半の高校授業のスタートラインだと思います。となれば、知識を伝達する講義というスタイルは、やはり核になります。
カリキュラムとのせめぎ合い
令和4年度からの新カリキュラムでは、以前の日本史A・世界史Aが、新たに「歴史総合」となりました。学校によるものの、それぞれ2単位、合わせて4単位という時間をかけて学んでいましたが、歴史総合では標準単位が2単位となり、歴史学習の時間は半減しています。
その分、扱われる知識量も減り、代わりに「近代化」「大衆化」「グローバル化」という3つキーワードを柱にして、おおよそ18世紀以降の世界と日本の歴史を合わせて学んでいます。考察する、というミッションは大幅に増えました。私は生徒たちに、年号や用語を覚えることが歴史を学ぶゴールではない。過去の社会の選択と結果を知り、その知識を活用して現在や未来を分析し、考える力を身につけることがゴールだと伝えています。その意味で、この新カリキュラムはとても良いと感じています。
一方、その後に学ぶ日本史探究や世界史探究は、旧カリキュラムから扱う知識量はあまり変わっていないのです。単位数は学校によりかなり差が出ていますが、私は現在、50分授業を週3コマで、1年間で正味、70回ほどで授業を計画しています。
この回数で、A4サイズ、1ページあたり600字ほどの文量の教科書を350ページ分、終えねばなりません。ここが、授業者にとっての壁です。
生徒に「読ませたり」「言ったり書かせたり」「教え合いをさせたり」するには時間を要します。講義であれば15分で済む量に、50分(またはそれ以上)かかるようになる、というのが体感値です。これでは、すべてを授業で扱いきることはできません。
ゆえに、教科書全頁を授業で取り上げる必要はない、という手法もあります。骨子のみを取り上げ、残りは自学させるのだ、と。私もこの手法で1年間実施した経験がありますが、今のところ、生徒にかなりの自習能力があることが前提になると思っています。
世界史は特に、世界各地の歴史というピースが揃わねば、パズルの全体像が見えてきません。考察が意義あるものになってくるのは、ある程度、ピースの組み合わせが像を浮かび上がらせてきてからです。
ということで、私は今まさに、授業の大半を「チョークアンドトーク」で進めているのですが、生徒の記憶定着度は10%でしかない、という点で、パズルピースの構成に行き詰まっています…。講義を望む生徒も多いですし…。
「学習の最初段階は講義スタイルでないと難しいが、少ない時間で多くの知識を定着させると同時に、自学自習能力を伸ばす」ことは、どういう授業を実施したら可能なのか。1学期中間試験を終えたところです。再開する授業での試行錯誤を、次回以降、共有していきたいと思います。

朝倉 由真(あさくら ゆま)
神奈川県立伊勢原高等学校 教諭
神奈川で高校教員として働き始めて10年ほどになります。教壇に立ち始めた頃、地歴科の大先輩に、「10年授業をして、納得できる授業なんてそのうち2~3あるかだ」と教わり、驚きましたが、まさにそうだなぁと実感している日々です。史学科を出ているわけではありませんが、専門は世界史です。
生徒がそれぞれに生きやすい社会をつくりたい、自分の力でのびのびと生きていく力を身につけてもらいたい、少しでも世界平和に貢献したい、と思って教員を務めています。
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