2026.02.01
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Whyから問い直す学級経営  ― 使命を起点に考える教室づくり

教室には物語があります。
子どもたちは、選べない出会いから始まります。
学級経営とは、管理なのでしょうか。
それとも、関係を育てる営みでしょうか。
使命から教室を見直します。

目黒区立不動小学校 主幹教諭 小清水 孝

使命から始まる学級経営の考え方

四月の朝、教室の扉を開けると、空気がわずかに張りつめていました。期待と不安が入り混じった子どもたちの視線が、静かに注がれます。次の担任はどんな人なのか。その一挙手一投足を、子どもたちは見逃していません。学級経営は、この一瞬から始まります。黒板に何を書くかよりも先に、どんな関係を紡ぐのかが問われているのです。

私はこれまで、学級経営とは何かを問い続けてきました。学級経営という言葉は頻繁に使われます。しかし、小学校学習指導要領に明確な定義はありません。それでも、行間を読み解いていくと、一つの思想が浮かび上がってきます。
学習指導要領的に言えば、学級経営とは集団としての質を高めることです。よりよい人間関係を形成することです。

選択できない出会いから始まる生活集団を、認め合い、励まし合い、支え合える場へと育てる営みです。管理ではなく、関係。成果ではなく、過程。ここに、学級経営の本質があります。

京セラ元会長の稲盛和夫氏は、「経営とは人として正しいことを貫く営みだ」と語りました。パナソニック創業者の松下幸之助氏は、「企業は社会の公器である」と言いました。経営とは、利益を追う技術ではありません。価値を社会に実装する行為なのです。

エーザイに学ぶ「使命先行」の経営思想

製薬企業エーザイの実践は、私の価値観を大きく揺さぶりました。エーザイは「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」を掲げ、患者や生活者を経営の中心に据えています。
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同社は、利益を第一の目的とはしていません。使命を果たした結果として、売上や利益が生まれると考えています。この「使命が先、結果が後」という順序を、定款にまで明記しています。ここに、理念を掲げる覚悟があります。

エーザイの社員は、患者とその家族の喜怒哀楽に向き合います。言葉にならない憂慮に、時間をかけて寄り添います。そのために、患者と共に過ごす時間が制度として保障されています。薬は目的ではありません。使命を果たすための、数ある手段の一つに過ぎないのです。

エーザイは、経営学者・野中郁次郎氏の知識創造理論を経営に生かしています。暗黙知と形式知を往還させながら、イノベーションを生み出しています。価格ゼロで薬を提供するという決断も、「患者様のため」という一点から導かれました。使命が判断基準になるとき、選択は揺らがないのです。

Whyから問い直す学級経営の視点

教育技術のTreeモデル

筆者作成

学級経営でも、Whyが先にあります。ICT活用は目的でしょうか。深い学びは目的でしょうか。ウェルビーイングは目的でしょうか。それとも、すべて手段なのでしょうか。読者の皆さんは、自分だけのWhyを語れるでしょうか。私は、正月から教育サークルの仲間とWhyを語り合いました。

私は「教育技術のTreeモデル」(2025,小清水)を用い、自らの価値観を見つめ直してきました。根にある思想が幹となり、幹が枝葉として実践を支えます。価値観を欠いた技術は、やがて枯れてしまいます。

派手な実践に憧れ、接ぎ木だけを重ねてしまった経験はないでしょうか。著名な教育実践をなぞりながら、どこか肚に落ちない感覚を覚えたことはありませんか。まず必要なのは、根を深く下ろすことです。

他者の人生に触れる。未知の世界に身を置く。五感を使って、暗黙知を耕します。その上で、自分の価値観に合う実践を選び取るのです。

いま、社会は大きな転換点にあります。デジタル革命、生成AIの進展により、説明や発問という教師の特権は揺らいでいます。では、教師にしかできない仕事とは何でしょうか。

私は、二人称の関係が生む知に希望を見ています。子どもと向き合い、共に考える時間です。理解を超え、創造へと踏み出す瞬間です。精神科医のヴィクトール・フランクルは、人は問われたときにのみ考える存在だと言いました。だからこそ、教師は答える人ではありません。問いを共に生きる存在でありたいのです。

学級経営とは、管理ではありません。関係を紡ぎ、意味を育てる営みです。その中心にあるのは、教師一人ひとりの価値観です。私の軸は、差別を許さないこと。誰一人取り残さないこと。人間の可能性を信じることです。

不確実な時代だからこそ、確かな軸が求められます。学級という小さな社会で、使命を起点に人間の可能性を信じ続けること。それこそが、これからの学級経営の核心だと、私は考えています。

小清水 孝(こしみず たかし)

目黒区立不動小学校 主幹教諭


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現場で使える技術、できる実践、リアルな指導法を日々追究しています。
現場の先生方、共に考え、指導法の選択肢を増やしていきましょう! 
NPO教育サークル「GROW5th」代表。

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