卒業生と共創する学校の未来:ICT活用で広がる「恒常的同窓会」という新たな学びの場
これまでのGIGAスクール構想によって整備されたICT環境は、今や教育活動の隅々にまで浸透し、学びのあり方を根底から変えつつあります。その中で筆者が、従来以上に大切にして取り組みを進めている考え方の一つが、学校が持つ最も貴重な「財産」とも言うべき「卒業生」との関係性の再構築です。かつては物理的な距離や時間の制約を受けた在校生と卒業生の関係性は、SNSやICTを介することで、より深く、持続的で、双方向なものへと進化を遂げられると考えています。
今回は、この「卒業生」という存在を、単なる「支援を寄せるOB・OG」として捉えるだけではなく、「未来の教育を共に創造するパートナー」と捉え直し、彼らと恒常的につながり、共に学校をアップデートしていく新しい教育の仕組みづくりの可能性について、具体的な実践を交えながら論じます。
花園中学高等学校 社会科教諭 伏木 陽介
すべての始まりは在学中に。卒業後も母校に関わる「当事者意識」の醸成

プレゼン大会は「縦のつながり」を意識して開催
卒業生が母校に愛着を持ち、積極的に関与してくれるコミュニティーは、一朝一夕には生まれません。その土台は、生徒が在校生である間に築かれます。重要なのは、母校の独自の教育に対するアイデンティティーを育むことです。単に「楽しかった」という思い出だけでなく、「自分もこの学校の歴史と文化を創る一員なのだ」という当事者意識を在校中から育ていくことが求められます。
探究学習の成果発表会(プレゼン大会)や体育祭、文化祭などの学校行事の取り組みとそのプロセスの中で、上級生が下級生と交流し、アドバイスを送り、共に創り上げる。あるいは部活動で先輩が後輩の指導にあたるといった、ごく自然な縦のつながり。これこそが、当事者意識の「原点」です。先輩に助けられた経験や、一体感を持って行事や探究活動に取り組んだ経験が、自然と「次は自分が」という循環を生む。このささやかな経験の連鎖が、「卒業しても、何らかの形で後輩や母校の力になりたい」という「恩送りの文化」ともいえるマインドセットを無意識のうちに形成していきます。
学校や教師は、この自発的な「文化」を意図的にデザインし、支援し、維持していくことが大切だと思います。生徒たちが卒業する際に、「これで終わり」ではなく、「ここからが学校や後輩たちとの”新しい関係”の始まりだ」と感じられるような働きかけこそが、持続的なパートナーシップの第一歩となるのです。この関係性のさらなる展開のために、筆者はICTの利活用を意識し、実践を探ってきました。
ICTが可能にする、卒業生との多層的・持続的な連携モデル
かつて卒業生との接点は、年に一度の同窓会総会や、不定期に行われる進路講演会に特定の卒業生(学校が「成功した」と認識している方)を招くなど、「点」の活動が中心でした。
しかしICTを併用することで、これらの関係をより日常的で多層的な「線」、そして「面」へと展開させることが可能になります。
現在の勤務校、中でも自身が所属する中高一貫コースでは、そのハブとして機能する複数のデジタルツールを戦略的に活用しています。
知のアーカイブとしての「探究ポータルサイト」の活用

「探究ポータルサイト」を生徒主体で毎年作成
本校では、生徒一人ひとりの探究活動の軌跡と成果をデジタル化し、蓄積する「探究ポータルサイト」を構築、運用しています。これは単なるドメスティックな成果発表の場に留めないことが大切です。卒業生の探究テーマ、研究プロセス、その探究がどのような進路選択につながったのかというデータを蓄積し、学校独自の「知のアーカイブ」を構築していきます。
ここで大切なのは、完成された論文だけでなく、試行錯誤のプロセスや苦労した点も共有されやすいサイトや成果物を意識することです。そのために本校の探究ポータルサイトでは、成果に至るまでの「悩んだ経過」や「失敗」といったトライ・アンド・エラーの記録も掲載しています。そうした等身大の姿を発信することで、閲覧する卒業生にも、自身の経験と重ね合わせた共感が自然な形で生まれるよう意識しています。それにより、在校生も親近感を持ち、卒業生に相談しやすくなります。
在校生は、興味関心に近いテーマをキーワード検索することで、過去に同じような問いを立てた先輩の存在を知ることができます。そして、その先輩が現在どのような大学で何を学び、どのようなキャリアを歩んでいるのかを把握し、コンタクトを取るための第一歩を踏み出せるよう工夫をしています。2020年度から本校でも毎年作成してきました。これは、在校生と卒業生を「興味関心」軸でつなぐ、「知のバトンをつなぐ仕組み」(マッチングシステム)としてのねらいも含まれています。
日常的な交流を生む「SNSオープンチャット」の開設
探究ポータルサイトが、必要に応じて情報を引き出す静的なデータベースであるならば、SNS上に開設した卒業生限定のコミュニティーは、学校の「今」を届け続ける動的な情報発信拠点です。その目的は、卒業生と母校との心理的な距離を縮め、一体感を醸成すること。現在進行系の情報を提供し、いつでも母校の教育活動に接点を持ち、参画できるようにする点にあります。
このSNSでは、学校公式ホームページのような対外的、公式的な情報とは異なり、よりインサイダー向けの情報を発信します。例えば、卒業生も参観可能な学校行事の案内、在校生の日常が垣間見える共有可能なレベルでの学校だよりの記事紹介、探究活動の進捗などです。卒業生が「後輩たち、頑張っているな」「母校はこんなに進化しているのか」と感じられるような、血の通った情報です。
このSNSの特性を活かし、「カジュアルな近況報告」や「母校の息づかい」といったことを発信します。いわば「卒業生に送る週報」のような形で細やかな発信を重ねることで、卒業生は常に母校の現状をキャッチし、当事者として見守ることができます。
そして、この情報提供は、オンラインでのつながりに留まりません。最大の狙いは、卒業生が実際に母校へ足を運ぶきっかけを創出し、「卒業生がいつでも訪問しやすい学校」という物理的な環境と文化を育むことにあります。
運用の上では、主に卒業式の際にSNS招待の案内をします。同意の上、登録の際には実名と期生を明記することなどの「ルール」を示します。また、教員側も負担にならない程度での発信の量と内容に努める工夫も必要です。
SNSは、後述する双方向型の関わりへと自然に移行するための、信頼関係を築く大切な環境整備なのです。
「招待」から「伴走」へ:探究学習における連携の深化
こうした仕組みを通じて、母校とのつながりを再認識した卒業生との連携は、より深いステージへと進みます。例えば、探究ポータルサイトで興味深い研究を見つけた卒業生や、SNSの発信に触発されて来校した卒業生が、在校生との対話を通じて、自らの経験を伝えたいという思いを抱く。こうした自然発生的な出会いを、具体的な教育活動へとつなげていきます。
特に卒業生講演会などでは、華々しいキャリアを歩む卒業生だけでなく、等身大の悩みを持つ若手社会人や大学生の存在が、在校生にとっては「少し先の未来」としてリアルに響くことにも意識を向けています。
では、その実践手法ですが、在校生は、メンターとなってくれる卒業生を、探究活動を進めるGoogle Classroomといった学習プラットフォームに招待します。あるいは先述の「ポータルサイト」の内容を卒業生と共有します。卒業生は、時間や場所を選ばずに、在校生が作成したレポートやポスターセッションの内容に目を通し、専門的な見地から具体的なアドバイスをコメント機能で送ることができます。そのための双方向型の情報集約の手段としてGoogleフォームを用いています。
そして、対面での取り組みです。年間の探究活動の集大成である「探究プレゼン大会」には、コメンテーターとして卒業生を招待します。オンライン参加を可能にすることで、海外留学中や地方で活躍する卒業生も参画できる機会を設けたこともありました。これは在校生にとって目標となるだけでなく、卒業生にとっても母校の教育の進化や後輩の成長を実感し、刺激を受ける貴重な機会となります。
学校を核とした「恒常的同窓会」
卒業生を招待してのイベントを開催
これらの実践が目指すのは、単発の連携の集合体ではありません。学校をハブとして、在校生、教員、そして卒業生が有機的につながり、互いに学び合い、成長し続ける関係をつくることです。こうした関係性を筆者は、「恒常的同窓会」と捉えています。
このシステムの中では、卒業生はもはや「教える側」という一方的な存在ではありません。母校の新たな挑戦を知り、来校して在校生の斬新な問いや仮説、バイタリティーに触れることは、卒業生自身の知的好奇心を刺激し、学びや仕事を振り返るきっかけとなります。この双方向性こそが、コミュニティーを持続的に活性化させる鍵です。
また、卒業生にとって母校に関わることは、多忙な日常の中で「自分の原点」を見つめ直し、純粋な好奇心を取り戻すリカレント教育(学び直し)としての側面も持っています。このリカレント的な側面は、イベントに参加した卒業生の感想からも多く聞かれる部分です。これが卒業生にとって会に参加する大きな「報酬」になっているようです。
そして、この循環の中で、「〇〇高校卒業生」「◎◎中等教育学校卒業生」というアイデンティティーは、単なる”懐かしい所属意識”から、「母校の教育を、現役世代と共に創り上げていく」という誇り高い”当事者意識”へと深化していきます。卒業生が母校の教育改革に主体的に参画し、その成果が在校生の成長につながり、成長した在校生がやがて卒業生としてコミュニティに貢献する。
この好循環が確立されたとき、学校は卒業生が立ち寄り、学び、貢献できる「知のプラットフォーム」となるのです。
卒業生との継続的なつながりを基盤としたこの体制は、在校生への伴走に留まりません。卒業生同士がこのネットワークを通じてつながり、互いのキャリアを支援し合う。就職、転職、起業といった人生のさまざまなステージで、母校のコミュニティーがセーフティーネットとなり、新たな挑戦へのスプリングボードとなる。そんな大きなスケールでの「伴走」体制を築くこと。それこそが、変化の激しい時代において、学校が卒業生に提供できる最も価値ある財産なのかもしれません。
卒業生は、学校のアドミッションポリシーを体現する、大変貴重な存在です。ICTを駆使してその物語を紡ぎ直し、在校生と卒業生が共に新たな物語を創造していく。教員や学校が勇気を持って新しい息吹を迎え入れる、そのダイナミックな営みの中にこそ、共に創り上げる学校それぞれの新たな「伝統」の可能性があるのだと感じています。

伏木 陽介(ふせぎ ようすけ)
花園中学高等学校 社会科教諭/中高一貫(ディスカバリー)コース統括・ICT担当、東西探究交流会代表
長年にわたり、探究学習のプログラム策定や実践に携わってきました。
学校や授業の改革には何が必要かを考え、現場でのチーム作りや実践を重ねております。
また、大学などの「学術知」を中高の教科指導とどう結びつけるかを追求し、共通テストの分析やICTとの接続等の教材開発に取り組んでおります。
こうした経験を活かし、未来の学びの創造に貢献したいと考えています。
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