試行錯誤の世界史探究~日々の授業実践のなかで、具体的に考えていること~(第2回)
「自己調整学習」(自由進度学習)に挑戦してみました。
手ごたえは半々、といったところでしょうか...。
歴史総合での実践と、世界史探究での実践を、具体的にお届けします。
神奈川県立伊勢原高等学校 教諭 朝倉 由真
自己調整学習とは
自己調整学習は、アメリカの教育心理学者、バリー・ジマーマンらを中心に提唱されている理論です。生徒が自分の意志を持って学習に取り組み、学習内容について自ら見通しや計画を立て、調整していくことで、学びの主人公になれるように授業を設計する手法であるともいえます。
私も、教員向けの情報誌などで読みかじり、見様見真似で始めたところなので、まだまだ初歩段階ですが、その奮闘をお届けできればと思います。
歴史総合での実践
3名の教員で担当している歴史総合の授業においては、「問いに答える」という作業と、「振り返りシート」を個人的に導入してみました。
問いというのは、その時間に学習した内容について、いくつかの知識や視点を組み合わせて考察する必要のあるもの、文でまとめ直す必要のあるものなどを設定しています。問いは毎回の授業のたびに、ロイロノートで出してもらいます。
振り返りシートは小単元ごとに課し、小単元で学んだことのうち、何に興味を持ったか、興味を持ったことについて、自ら調べたりしたかどうかを書き、学期末に提出してもらいます。
この2つの取り組みを導入することは、個人的にも難しくなく、導入前よりも生徒が見通しを持って学ぶようになってくれた実感があります。問いに対する回答やその出来具合からは、生徒の着眼点や思考内容、知識の定着度や疑問点が見えてくるので、私も次の講義内容や資料作りの参考に取り入れることができています。こうした点において手応えを感じており、2学期以降も継続しようと思っています。
取り組みを始めてから感じていることは、社会科目においては、こうして生徒の思考や定着度を図る機会が他教科に比べると少ないのではないか、私のこれまでの授業は、生徒と一緒に歩みを進めていく姿勢が足りなかったのではないか、ということです。
英語や数学の授業では、例題や演習問題に取り組むという作業があります。生徒はそこで自分の理解度を自覚するし、教員は生徒の実力を知ることができます。
社会科目では、そういう機会が少なくなりがちではないでしょうか。しかし、講義で理解した内容を、一度自分で使ってみる、ということは必要不可欠なように思います。学んだ知識を使いこなし、考察する力というのは、この「自分で使ってみる」が第一歩になると思うからです。
歴史や異文化、政治経済について関心の強い生徒は、目の前の教科書や資料集に書かれていることや教員の講義について、自分が知っている世の中の出来事と結びつけながらどんどん思考することができます。
しかし、関心の低い生徒は、知識の“使い方”や”使いどころ”があいまいなまま、「聞くだけでは記憶定着度は10%」というチョークアンドトークの弊害に埋もれたままで、授業が重ねられていってしまいます。これでは、あまりに生徒の自学自習に負うところが大きいのではないでしょうか(試験前の暗記勉強に終始してしまうなど)。
しかし、社会科目でもしっかり「演習」をすることができれば、授業内でも生徒の社会科的思考力を鍛錬することができます。興味関心の低い生徒の力こそ、授業内で伸ばしたいものです。それで実力の伸びを実感したり、知識の使いどころが分かって、学習目的を見出せれば、生徒は自ら学ぶようになりますから…。教員による授業は、そこにこそ価値があると考えています。
と大言壮語を述べましたが、現在の私は、学力レベルや関心度合いを問わずに取り組める「授業内で社会科的思考力を鍛錬する具体的な手法」をようやく一つ見つけられた、と感じているところです。生徒の実力を知ることができる作業を毎回実践する授業も、初めて継続実施できています。比べてこれまでの私の授業は、生徒に伴走するよりも、先頭から無理やりけん引するというイメージに近いスタイルのほうが多かったなぁと、反省しています。
世界史探究での実践
歴史総合では手ごたえを感じている一方で、世界史探究の授業において自己調整学習を取り入れることは、1学期はうまくできませんでした。
はじめは、「プリントの穴埋めを、教科書を読んで自力で埋める」、その後、「教科書読解と穴埋め作業で得られた知識を用い、問いに答える」という授業手法に挑戦しました。しかし、教科書読解と穴埋め作業にかなり時間がかかったこと、生徒別に、進度に大きなバラつきが出たことから、継続が難しいと感じました。
また、私が設定していた問いも難しすぎたのか、生徒が自力で解くに至らず、結局私が解説して終わってしまいました。回数を重ねれば生徒も慣れて改善したかもしれません。しかし、その次の学習項目は、教科書読解で生徒が歴史の流れを理解するにはかなりややこしいと判断してチョークアンドトークに戻してしまい、結局、再度自己調整学習に戻すことができないままでした。
振り返りシートの導入も、学習内容の切りのいいところで書いてもらう、という作業を授業内で習慣化できずじまいでした。
学習内容の要点がかなり絞られている歴史総合と比較すると、伝えたい知識が多いことが原因かな、と分析しています。どうしても進度を気にしてしまい、回数を重ねて生徒が慣れるのを待つこと、スモールステップの問答を重ね、生徒の思考を導くことができなかったな、とも思います。
また、私が思い描いている「世界史理解のためには、これが必要」という設定が過剰なのでしょう。知識量の多い世界史だからこそ、生徒が自由進度で学ぶ幅を広げるべきかもしれません。
小単元ごとに、ワークシートの中で3つほど疑問点を提示して、生徒は自ら選んだ疑問点に対する答えを教科書読解を通じて見つける、といった手法がいいかな、AIテキストマイニングを使うと、授業への生徒の積極参加を促しやすいかな、などと検討中です。
世界史は知識の構築が難しい科目です。生徒が自力で暗記学習することに負っているだけでは、面白さも伝わりにくい。だからこそ、時代や地域を貫いて知識を構築していく方法や、世界史思考力を鍛錬する授業を行いたいのですが、こうした点では私はまだ暗闇を抜け出せずにいます。
夏休みに入るまでの残る授業を通じて、試行錯誤した結果を、また次回お伝えできればと思っています。

朝倉 由真(あさくら ゆま)
神奈川県立伊勢原高等学校 教諭
神奈川で高校教員として働き始めて10年ほどになります。教壇に立ち始めた頃、地歴科の大先輩に、「10年授業をして、納得できる授業なんてそのうち2~3あるかだ」と教わり、驚きましたが、まさにそうだなぁと実感している日々です。史学科を出ているわけではありませんが、専門は世界史です。
生徒がそれぞれに生きやすい社会をつくりたい、自分の力でのびのびと生きていく力を身につけてもらいたい、少しでも世界平和に貢献したい、と思って教員を務めています。
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)
この記事に関連するおススメ記事

「教育エッセイ」の最新記事
