試行錯誤の世界史探究~古代ギリシアの民主政治をKCJ法で授業実践~(4)
2学期が本格始動し、知識構成型ジグソー法(KCJ法/Knowledge-Co-construction Jigsaw)にて、日常授業を実施しました。
手応えと改善点と半々ですが、さまざまな学校で実践可能なのではないかと思えるようになってきました。
神奈川県立伊勢原高等学校 教諭 朝倉 由真
資料の用意が難しい知識構成型ジグソー法
前回の連載で「次回は実践編をお届けできたら」とチャレンジ宣言しましたが、旧カリキュラムの世界史Bでいうところの、古代ギリシアの単元を知識構成型ジグソー法(以下、KCJ法)で行いました。
私にとって、KCJ法の授業をつくるにあたり最大の難点は、生徒が知識を自ら獲得し、班で複数の視点を組み合わせ、全体像を構築していくための「読解資料」を用意することでした。生徒の実力や興味関心に対して、資料が難しすぎたり簡単すぎたり、または多すぎたり少なすぎたりすると、KCJ法は成立しません。生徒が資料を読み解き切れず、よく分からないまま終わってしまったり、逆に物足りなくて「つまらない」「くだらない」という状況になってしまうからです。特に量や難易度が過剰な場合は、授業そのものが成立しない事態になりかねません。
教師が設定したメインクエスチョンに向かって、答えを導き出すのにぴったりな資料を探し、その量や難易度を調整するのは至難の業です。「KCJ法を実施したいけれど、その資料の準備が大変なのだよな…」という先生も多いのではないでしょうか。また、「進学校やトップ校ならできるけれど…」と逡巡する気持ちも、非常によく分かります。
古代ギリシア世界(地中海周辺の国家形成)をテーマに、教科書を資料として最大活用する手法で
そこで私は現実的に、日常的に用意でき、そして勤務校の生徒の実力に即した資料として、教科書を最大限に活用するKCJ法を試すことにしました。
今回の単元では、メインクエスチョンを「民主政治とは、人類社会にとってベストな形だろうか?」と設定しました。さらに、答えを出すためのステップとして、サブ・メインクエスチョンを設け、「①アテネが築き上げた民主政治とは、どのようなものであったか? ②アテネの民主政治はどうなったのか?」としました。サブ・メインクエスチョンのほうが、より高校世界史の教科書知識に直結しています。
この3つの問いに向かうためのエキスパート課題は次のとおりです。
Q1「ペルシア戦争とは何だろう?」
Q2「クレイステネスの改革のあと、アテネ民主政はどうなったの?」
Q3「ペロポネソス戦争とは何だろう?」
これらの課題は、教科書の小タイトル区分から作成しました。
各課題を担当する生徒(Q1担当、Q2担当、Q3担当)には、第一資料として該当する箇所の教科書本文と、加えてそれぞれに3つほどの資料を掲載しました。使用したのは、山川出版社の『詳説世界史探究』と、第一学習社の『グローバルワイド最新世界史図表』(新課程版、濃紺色の表紙)です。分量や言葉遣いは生徒に合わせて調整しました。
さらに、エキスパート課題で導き出した答えを共有する「ジグソー活動」の後には、教師が解答例を解説する時間を設けました。これにより、生徒間の到達点のばらつきや、「自分の答えは合っているのだろうか」という不安を解消できるようにしました。
実施してみて
メインクエスチョンに答えを導き出すまで、3コマを要しました。ですが、生徒がこの授業方式に慣れてくれること、そして次回以降、私がエキスパート課題の問題数や、資料の文章量を減らせば、2コマで終わるのではないか、と見込んでいます(つまり今回は、資料は少し多すぎ、エキスパート課題と、それを導き出すスモールクエスチョンとの間に飛躍があり、生徒に苦戦を強いてしまったわけです)。
時間がかかっているようにも見えますが、同じ内容を講義してもやはり2~3コマを要します。しかしKCJ法なら、読解訓練もできるうえ、今回私は机間指導しながら、生徒一人ひとりの理解度や着眼点をより把握することができました。これは講義とは比べ物になりません。生徒と話し、ほめる機会も圧倒的に多くなりました。講義スタイルに比べて、生徒の記憶定着度が高まったことも実感しました。言語化、文章化に苦しむ生徒も多かったですが、それだけ思考ができているということでもあると思います。
教科書を主要資料とし、その他の資料も無理のない範囲から用意するという今回の方式なら、私自身も続けていけるなと思っています。今年度いっぱいはこのKCJ法を日常の授業スタイルとして貫けるように、引き続き取り組むつもりです。

朝倉 由真(あさくら ゆま)
神奈川県立伊勢原高等学校 教諭
神奈川で高校教員として働き始めて10年ほどになります。教壇に立ち始めた頃、地歴科の大先輩に、「10年授業をして、納得できる授業なんてそのうち2~3あるかだ」と教わり、驚きましたが、まさにそうだなぁと実感している日々です。史学科を出ているわけではありませんが、専門は世界史です。
生徒がそれぞれに生きやすい社会をつくりたい、自分の力でのびのびと生きていく力を身につけてもらいたい、少しでも世界平和に貢献したい、と思って教員を務めています。
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