2025.12.17
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イエナプラン校から特別支援級へーオランダの転校文化を体験してー

長男はイエナプラン校に通い始めたものの、言葉の壁に苦労し、私たち家族は「転校」という選択肢と向き合うことになりました。
そこで出会ったのは、日本で想像していた「転校」とはまったく違う文化。

合わなければ変えていい。
選び直しは失敗ではなく、自然なプロセス。

オランダで体験した、そんな教育のあり方について書きました。

合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員 川崎 知子

小さく始まる集団生活とプレスクールの文化

前回は、5歳半でオランダに移住し、イエナプランスクールで苦労した長男のことを書きました。
今回はその続きです。
その前に、少し次男の話を。

次男は3歳3ヶ月でオランダに行きました。オランダでは、2歳から4歳までプレスクールに通います。プレスクールは、朝8時半から11時半まで、週に2回。移民家庭の子どもは、オランダ語習得を目的として週4回通うことができます。

この「原則は週2回・昼まで」という仕組みは、親と離れて集団生活に慣れるためのステップとして、とても良いバランスだと感じました。

プレスクールでは、2〜4歳児が2つの部屋に分かれ、部屋の中にはままごと、お店屋さん、ブロック、工作など、さまざまな遊びのコーナーがあります。夏にはテントが出て、キャンプごっこも楽しめます。
印象的だったのは、先生たちがとても自然体で働いていたこと。ジーンズでもミニスカートでも良く、エプロンもつけません。先生が子どもに「遊びを与える」よりも、子ども同士が遊ぶのを見守るスタイル。棚には常にホットコーヒーと紅茶。ゆったりとした空気が流れていました。

通い始めて間もない頃、次男が泣いて離れられない時、若い先生がこう声をかけてくれました。

「しばらく一緒に座って遊んで。落ち着いたら、少しずつ離れてね」

その言い方がとても自然で、揺らぎがなく、自信に満ちていて、思わず「かっこいい」と思いました。私は教員を始めた頃、こんなふうに保護者へ声をかける余裕はなかったなあと、少し照れくさい気持ちになったのを覚えています。
次男はそのプレスクールで、穏やかに数ヶ月を過ごしました。

「最初から、ここにすればよかった」

次男が4歳になる5月。長男と同じ小学校に通わせようとした時、こんな提案がありました。

「長男さんは9月(新年度)に6歳児クラスに入り、読み書きが始まる。でも、まだオランダ語の理解が難しいから、“特別クラス”を一度見に行ってみるのはどう?」

少しずつ聞いて理解することはできていたようですが、学校で話すことはほとんどないようで心配していました。
そこで、さっそく特別クラスを見学することに。
提案された翌々日には見学、というスピード感が、今思えば本当にオランダらしい。

長男が学校、次男がプレスクールに行っている間に、私が一人で見学に行きました。校長先生にあいさつし、4・5歳児のクラスを見せてもらいました。

補足になりますが、オランダでは1985年に幼稚園と小学校が統合され、4歳から小学校に通います。義務教育は5歳からですが、入学時期は一律ではなく、5歳児のクラスに4歳児が徐々に加わる形です。
見学したクラスでは、サークル対話が行われ、YouTubeや多様な教材を使い、遊びながらオランダ語を学んでいました。

「最初から、ここにすればよかった。」

そう思ってしまいました。

たった一言で終わる転校手続き

校長先生に転校希望を伝えると、返ってきた言葉は衝撃でした。
「では、来週。火曜と木曜の午前中だけ、こちらの学校に来て。月・水・金は元の学校に行って。元の学校には私から電話しておくわ」
その瞬間、転校手続きが終了。笑
なぜこんなに簡単かというと、オランダでは家庭が学校を選ぶ権利が前提になっているからです。
街には一般的な学校、宗教系、私学、そして、シュタイナー・モンテッソーリ・イエナプランなど教育方針の違う学校が並びます。
約7割は私立校ですが学費の負担はなく、教材費もかかりません。
合わなければ転校できる。
その柔軟さが、不登校の深刻化を防いでいる面もあります。

支援を選ぶ権利と選択を支える仕組み

 

校庭で遊ぶ次男たち

長男の転校は、日本で言えば
「通常学級が難しいので、特別支援学級に」
と言われたのと似ているのかもしれません。

日本では、診断があっても、通常学級を選ぶと十分な支援が受けられないことがあります。

でも、オランダでは違いました。

「息子さんにとってベストな選択をする権利はあなたにある」
そう言われ続けました。
そして、決めた後は、十分な支援を受けることができます。
車いすの子も、補聴器をつける子も、ダウン症の子も、ADHDの子も、自閉スペクトラム症の子も。
どんな子も、親と本人が選んだ学校で、生き生きと学んでいました。

次期学習指導要領の柱に「多様性の包摂」が掲げられています。
すべての子どもが、安心して学べる学校が広がることを願ってやみません。

川崎 知子(かわさき ともこ)

合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員


元公立小学校教員。東京・広島の小学校で約20年勤務。
2017年からは家族とともにオランダに渡り、イエナプラン教育を学ぶ。日蘭イエナプラン専門教員資格を取得し、現地のイエナプランスクールでアシスタントとして2年間勤務。20校以上の小中学校を視察した。
帰国後は、広島県福山市立のイエナプランスクール開校に携わり、現在は日本イエナプラン教育協会理事。
不登校支援や特別支援教育、保護者との関係づくり、対話・探究・遊びを通して、子どもも大人も、安心できる学びの場づくりに取り組んでいる。

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