長男はイエナプラン校に通い始めたものの、言葉の壁に苦労し、私たち家族は「転校」という選択肢と向き合うことになりました。
そこで出会ったのは、日本で想像していた「転校」とはまったく違う文化。
合わなければ変えていい。
選び直しは失敗ではなく、自然なプロセス。
オランダで体験した、そんな教育のあり方について書きました。

教育エッセイ

教育つれづれ日誌
前回は、5歳半でオランダに移住し、イエナプランスクールで苦労した長男のことを書きました。
今回はその続きです。
その前に、少し次男の話を。
次男は3歳3ヶ月でオランダに行きました。オランダでは、2歳から4歳までプレスクールに通います。プレスクールは、朝8時半から11時半まで、週に2回。移民家庭の子どもは、オランダ語習得を目的として週4回通うことができます。
この「原則は週2回・昼まで」という仕組みは、親と離れて集団生活に慣れるためのステップとして、とても良いバランスだと感じました。
プレスクールでは、2〜4歳児が2つの部屋に分かれ、部屋の中にはままごと、お店屋さん、ブロック、工作など、さまざまな遊びのコーナーがあります。夏にはテントが出て、キャンプごっこも楽しめます。
印象的だったのは、先生たちがとても自然体で働いていたこと。ジーンズでもミニスカートでも良く、エプロンもつけません。先生が子どもに「遊びを与える」よりも、子ども同士が遊ぶのを見守るスタイル。棚には常にホットコーヒーと紅茶。ゆったりとした空気が流れていました。
通い始めて間もない頃、次男が泣いて離れられない時、若い先生がこう声をかけてくれました。
「しばらく一緒に座って遊んで。落ち着いたら、少しずつ離れてね」
その言い方がとても自然で、揺らぎがなく、自信に満ちていて、思わず「かっこいい」と思いました。私は教員を始めた頃、こんなふうに保護者へ声をかける余裕はなかったなあと、少し照れくさい気持ちになったのを覚えています。
次男はそのプレスクールで、穏やかに数ヶ月を過ごしました。
次男が4歳になる5月。長男と同じ小学校に通わせようとした時、こんな提案がありました。
「長男さんは9月(新年度)に6歳児クラスに入り、読み書きが始まる。でも、まだオランダ語の理解が難しいから、“特別クラス”を一度見に行ってみるのはどう?」
少しずつ聞いて理解することはできていたようですが、学校で話すことはほとんどないようで心配していました。
そこで、さっそく特別クラスを見学することに。
提案された翌々日には見学、というスピード感が、今思えば本当にオランダらしい。
長男が学校、次男がプレスクールに行っている間に、私が一人で見学に行きました。校長先生にあいさつし、4・5歳児のクラスを見せてもらいました。
補足になりますが、オランダでは1985年に幼稚園と小学校が統合され、4歳から小学校に通います。義務教育は5歳からですが、入学時期は一律ではなく、5歳児のクラスに4歳児が徐々に加わる形です。
見学したクラスでは、サークル対話が行われ、YouTubeや多様な教材を使い、遊びながらオランダ語を学んでいました。
「最初から、ここにすればよかった。」
そう思ってしまいました。
校長先生に転校希望を伝えると、返ってきた言葉は衝撃でした。
「では、来週。火曜と木曜の午前中だけ、こちらの学校に来て。月・水・金は元の学校に行って。元の学校には私から電話しておくわ」
その瞬間、転校手続きが終了。笑
なぜこんなに簡単かというと、オランダでは家庭が学校を選ぶ権利が前提になっているからです。
街には一般的な学校、宗教系、私学、そして、シュタイナー・モンテッソーリ・イエナプランなど教育方針の違う学校が並びます。
約7割は私立校ですが学費の負担はなく、教材費もかかりません。
合わなければ転校できる。
その柔軟さが、不登校の深刻化を防いでいる面もあります。

校庭で遊ぶ次男たち
長男の転校は、日本で言えば
「通常学級が難しいので、特別支援学級に」
と言われたのと似ているのかもしれません。
日本では、診断があっても、通常学級を選ぶと十分な支援が受けられないことがあります。
でも、オランダでは違いました。
「息子さんにとってベストな選択をする権利はあなたにある」
そう言われ続けました。
そして、決めた後は、十分な支援を受けることができます。
車いすの子も、補聴器をつける子も、ダウン症の子も、ADHDの子も、自閉スペクトラム症の子も。
どんな子も、親と本人が選んだ学校で、生き生きと学んでいました。
次期学習指導要領の柱に「多様性の包摂」が掲げられています。
すべての子どもが、安心して学べる学校が広がることを願ってやみません。

川崎 知子(かわさき ともこ)
合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員
元公立小学校教員。東京・広島の小学校で約20年勤務。
2017年からは家族とともにオランダに渡り、イエナプラン教育を学ぶ。日蘭イエナプラン専門教員資格を取得し、現地のイエナプランスクールでアシスタントとして2年間勤務。20校以上の小中学校を視察した。
帰国後は、広島県福山市立のイエナプランスクール開校に携わり、現在は日本イエナプラン教育協会理事。
不登校支援や特別支援教育、保護者との関係づくり、対話・探究・遊びを通して、子どもも大人も、安心できる学びの場づくりに取り組んでいる。
兵庫県神戸市立桜の宮小学校 特別支援教育士スーパーバイザー(S.E.N.S-SV)
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
兵庫県姫路市立坊勢小学校 教諭
岡山県教育委員会津山教育事務所教職員課 主任
福岡市立千早西小学校 教頭 今林義勝
前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭
山形県立米沢東高等学校 教諭
大阪市立堀江小学校 主幹教諭
(大阪教育大学大学院 教育学研究科 保健体育 修士課程 2年)
戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表
静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
佛教大学大学院博士後期課程1年
小平市立小平第五中学校 主幹教諭
東京都内公立学校教諭
札幌大学地域共創学群日本語・日本文化専攻 教授
明石市立高丘西小学校 教諭
ユタ日本語補習校 小学部担任
木更津市立鎌足小学校
北海道公立小学校 教諭
信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭
在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師
東京都東大和市立第八小学校
東京学芸大学附属大泉小学校 教諭
静岡市立中島小学校教諭・公認心理師
東京都品川区立学校
岡山県赤磐市立桜が丘小学校 指導教諭
神奈川県公立小学校勤務
寝屋川市立小学校
仙台市公立小学校 教諭
東京都内公立中学校 教諭
目黒区立不動小学校 主幹教諭
東京都公立小学校 主任教諭
尼崎市立小園小学校 教諭
ボーズマン・モンテッソーリ保育士
埼玉県公立小学校
大阪府泉大津市立条南小学校
岡山県和気町立佐伯小学校 教諭
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