特別なお出かけもいいけど、身近な公共施設も学びの宝庫です

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。図書館や科学館、美術館、公園など、身近な公共施設を活用した子どもとの時間は、感性や興味、将来の夢を育てます。今回は「特別なお出かけもいいけど、身近な公共施設も学びの宝庫です」をテーマに考えました。
図書館や科学館、美術館など利用しないのはもったいない!
いま、大阪で開かれている博覧会が話題になっています。未来の技術や世界の文化にふれられる貴重な機会ですが、遠方だったり、予定が合わなかったりして、子どもを連れて行くのは難しいというご家庭も多いのではないでしょうか。そんなときこそ、身近な公共施設に目を向けてみるのもおすすめです。図書館や科学館、美術館、水族館など、学びと発見に出会える場は意外とたくさんあります。
長男は小さいころから博物館が大好きで、よく連れて行きました。いろいろなことを学べて、遊ぶ場所もあって大人も子どもも楽しめます。最近も孫を連れて剥製の展示を見に行ったのですが、彼女に「動物はどこ?」と聞かれてハッとしました。動かない剥製は、彼女にとって動物に見えなかったみたいです。大人の視点との違いに「なるほど、鋭いな」と感心しました。子どもを連れていくことで、大人にも気づきがあります。
公共施設は国や自治体が力を入れて整備しているところが多く、利用しないのはもったいないと感じます。家でスマホを見て過ごすより、科学館や動物園などに出かけた方が何か得るものがあります。私も少しでも空いている時間があったら、子どもを外に連れ出していました。うちの子たちが、特に好きだったのは千代田区の科学技術館や、東京タワーにある小さな水族館などです。子どもにとっては大きくて有名な施設であるかどうかは関係ありません。大人が思いもよらないようなところに、子どもは興味を持ったりするものです。
公共施設だけでなく、写真や時計の博物館など企業が運営している施設もたくさんあります。あまり知られていませんが、大学にも美術館や博物館、植物園などがあり、一般にも公開されています。スタンフォード大学には美術館があるので、私も孫を連れていくことがあります。大学は敷地が広く、歴史ある建物があったりして、どこか憧れるような雰囲気もあって素敵です。「こういうところもあるんだよ」と小さいときから印象を付けていくのも良い経験になると思います。
消費しなくても、楽しい時間はつくれます
逆に、子どもたちをあまり連れて行かないようにしていたのはショッピングです。香港でも、暑さや住環境の問題から、週末はショッピングセンターで過ごすことが人気です。しかし、そうなると消費することが娯楽になってしまいます。消費には終わりがありませんし、お金がなければ楽しめない感覚が身についてしまいます。私は必要なものは宅配などを利用して、できるだけ買い物には連れて行かないようにしていたので、息子たちは今でも買い物に興味ありません。ブランドにこだわらず、物欲が少ないのは良い習慣を身につけられたと思います。
その代わりに、自然や文化に触れられるような場所で過ごすのはどうでしょうか。たとえば、公園はおすすめです。日本の公園は季節によって姿が変わり、いつ訪れても美しく感じられます。普通の公園でも十分に楽しめますが、特別に手入れされた庭園のような公園も各地にあるのでぜひ行ってみてください。うちの息子たちはすっかり公園を見る目が厳しくなっていて、「この公園は整っていないね」などと言うのですが、「日本のように公園がきれいに整備されている国のほうが珍しいんですよ」と話しています。
また、美術館にもよく連れて行っていました。美しいものを見る目や想像力を育ててほしかったのです。美術館というと少し敷居が高く感じるかもしれませんが、絵を見て「これは好き」「きれい」「すごい」と感じるだけで十分です。絵画には写真とは違って、心の闇や光、神様や空想の世界などが表現されていて、現実には存在しないものにふれることができます。そういった体験が審美眼や感性を育て、人生を豊かにしてくれると思います。
子どもの夢はふれた世界の広さで変わります

@学びの場.com
「子どもが何に興味があるのか分からない」「得意なことが見つからない」という親御さんからの相談を受けることがあります。でも、子ども自身も自分が何に向いているのかは、まだ分かっていないのです。だからこそ、いろいろな場所に連れて行って、子どもをよく観察することが大切です。
いつも同じようなものばかりにふれていると、子どもの夢も偏ってしまいます。テレビで見たからアイドルになろう、身近にあるからパン屋や花屋になりたい。そうやって世界が狭くなってしまうのです。
象徴的だったのは、南スーダン共和国を訪れたときのことです。そこでは紛争が長く続いているので、学校や病院、市場すらありませんでした。子どもたちは、自分の目で見たことが無いので、学校の先生や医者、看護師になりたいという夢を持っていません。子どもたちになりたい職業を尋ねると、「軍人」「警察官」「爆弾を落とすパイロット」と答えます。物を売ったり、畑を耕したり、魚を捕るという職業ですら思いつかないのです。こうした環境では子どもたちの夢は限られてしまうのだと実感しました。
子どもにはたくさんの可能性があります。世の中には、さまざまな働き方や職業、生き方があることを知ることが、子どもの世界を広げてくれます。子どもたちは自分が経験したことや目にしたものに大きく影響されてしまう存在です。公共施設を活用していろいろな世界にふれることで、彼らの想像力や世界観がふくらみ、将来の選択肢を増やしていくことができるのではないでしょうか。
図書館や博物館に行くと、子どもがどんなことに興味を持つのか少しずつ分かってきます。図書館にはさまざまなジャンルの本があり、警察や消防、銀行、地下鉄などをテーマにした博物館もあります。どんな本を手に取るのか、どの展示に立ち止まるのかなど、子どもの様子をよく観察していれば、ある日突然、「うちの子は、これに夢中になるんだな」と気づく瞬間があると思います。もしかしたら。それはいつか彼らの専門や仕事に繋がるかもしれません。

アグネス・チャン
1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)
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