授業の中で授業改善研修を行う3つの工夫―校内研修を機能させる実践例―
近年の学校現場は、働き方改革が進められる一方で、教員の授業力向上につながる研修を行うことが難しくなっているのが現状ではないでしょうか。
現行の学習指導要領でも、教員に求められている「児童生徒に伴走する力」は、今までの教員に求められてきたスキルと全くの別物なので、教員の資質向上は必須の課題です。
それでは、限られた勤務時間の中で、どのように授業力向上に関わる研修を行っていけばよいのでしょうか。
岡山県和気町立佐伯小学校 教諭 角田 直也
業務内で研修の時間を確保しにくい今だからこそ

5・6年生の自由進度学習。異学年ならではの学びが見られた。
結論から申すと、「授業の中で、授業力を上げる」ことです。
当たり前のようですが、ベテラン教員と若手教員でチームを組み、お互いの得意分野を生かしながら、授業力向上に関わるノウハウを身につけていくOJT(On the Job Training)を提案します。
大規模校は学年団の規模で、小規模校は低・中・高学年などのペア学年でチームを組みます。そして、合同で行う授業の中で、授業の組み立て方や児童指導の方法などを伝達していきます。実際、どの学校もこのような形式をとっていると思いますが、私は、もっと大胆にカリキュラム・マネジメントや授業スタイルを変えてOJTを行うことで、より授業力を高め合うことができるのではないかと考えています。
すぐに挑戦できる3つの実践例
①自由進度学習など学級を隔てた授業スタイル
近年は、個別最適な学びに向けて様々な授業スタイルの実践が報告されています。学級の枠にとらわれることなく、学ぶ場所や人、時間を自由に選択できる授業スタイルが認められるようになってきました。そこで、複数の教員で、複数の学級の児童を教えることで、授業づくりや指導方法について話し合い、実践することで授業力を高めていきます。
自由進度学習は、学年をまたいでいる場合でも有効です。学習内容を伝える第1時こそ学級単位での対応になるかもしれませんが、その後は隣の友達と学習内容が違うことが当然であるため、児童にとっては大きな影響がありません。むしろ、教科や単元の系統をそろえることで、学年が違う児童が相互に教え合う利点も生まれます。
主体性の捉え方や、児童の学習方法へのアプローチ、それぞれの習熟度の児童への課題設定などについては、教員間で感覚の差が表れやすい部分です。このような授業形態で、共通理解を図ることができるでしょう。
②学級をまたいだ総合的な学習の時間の実践
私は、総合的な学習の時間を軸としたカリキュラム・マネジメントを実践する中で、この領域は教員の中で得意不得意が生まれやすいと感じています。そのため、年間指導計画に定められている形式的な取り組みにとどまっている授業をよく見かけます。
本来、総合的な学習の時間は、児童の興味関心をもとに、探究的な学びのサイクルを回し、児童の主体性を生かしながら学習します。そのため、児童の興味関心を生かして授業を進めると、いくつかの小グループが生まれることが考えられます。そうなれば、グループごとに活動が進むため、そもそも学級の枠など存在しません。つまり、同じような学習スタイルであれば、学年をまたいでいても人数が増えても問題ありません。むしろ、たくさんの「やりたいこと」が増えて授業が活性化することにもつながります。
さらに、複数の教員で授業を作ることで、外部機関との連絡の手間が減少することにもつながります。
総合的な学習の時間は、教員の思い込みで児童の主体的な活動を制限してしまうこともあるため、複数の教員で授業づくりを行うことで、児童の力をさらに高めることができるかもしれません。
③教科担任制の実施
一般的に小学校の授業は、学級担任が全教科を教えます。専科教員が配置されている場合でも、国語科と算数科は学級担任が行っている学校がほとんどでしょう。確かに、同じ教員が複数教科にわたって指導すると、学習の流れが統一化されて、わかりやすいと感じる児童が多くいるかもしれません。
一方で、その教員の指導に馴染まない児童は1年間苦しい思いをしなければなりません。その教員にとっても、自身の教育スタイルに疑問をもつこともなく日々の授業を行っているかもしれません。
複数の教員で同じ児童を教えることは、児童の立場からすると、さまざまな教育スタイルから自分に合う学習方法について考えることができます。教員の立場からすると、生活面や学習面での児童の変化に気づきやすい利点もあります。児童の学習の様子や学力の定着状況など、同じ児童を基に教員間で授業方法の意見交換などができることは、強みと捉えることができます。
チームで授業改善に挑戦しましょう

5・6年生合同の総合的な学習の時間。地域とのつながりも引き継がれている。
どの取り組みも、学級担任の思いだけでは実施困難です。
大胆な授業スタイルの実施には、管理職の柔軟な発想と強いリーダシップ、そして学校全体での取り組みが必須です。
さまざまな業務や働き方改革の影響により、教員の多忙化は喫緊の課題です。
その中で、効率的で効果的な研修方法を模索していくことで、児童と教員双方のウェルビーイングの充実を図っていきましょう。

角田 直也(かくだ なおや)
岡山県和気町立佐伯小学校 教諭
特別(聴覚)支援学校、青年海外協力隊(マラウイ)、公立小学校に勤務。
近年は、総合的な学習の時間に行う地域をフィールドにした活動を軸として、教科横断的なカリキュラム編成を実践・検証し、地域学習と教科学習の双方の深化について研究しています。
また、先輩教員のノウハウと新しい"観"の教育を融合しつつ、若手教員と共に学ぶ新しい研修方法を実践しています。
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