2025.12.19
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「学び合い」がなぜ成立しないのかー成功の分岐点を探るー

この実践では、学び合いがうまくいかない原因を「信頼不足」ではなく「設計不足」と捉え直しました。
対話的な学びを機能させ、学びが深まる授業を目指します。

東京都品川区立学校 平野 正隆

はじめに

近年、「学び合い」や「対話的な学び」は教育現場で注目を集めています。しかし、実際に取り入れてみると
「同じ子ばかりが発言する」
「任せると騒がしくなる」
「深まらず形だけで終わる」
などの課題に直面しがちです。私自身もその一人でした。

任せた途端に不安になり、介入を繰り返して、いつの間にか教師主導へ戻ってしまう。ねらいから外れていく話し合いを止めざるを得ない。見通しをもたせようとして前置きが長くなり、十分な活動時間を確保できない。
そんな授業を続ける中で、私はある結論にたどり着きました。

学び合いがうまくいかない最大の理由は、信頼不足ではなく「設計不足」であるということです。

信頼不足ではなく“設計不足”

当初の私は「子どもを信じたい」「任せたい」と願う一方で、不安から指示や助言を重ねていました。その結果、話し合いは形式だけが残り、学びが深まる前に終わってしまいました。

任せられなかった理由は明確でした。目的の共有が不十分で、役割も構造も曖昧なまま活動を始めていたからです。

【話し合いが形骸化する授業の共通点】

①目的が曖昧 …話すこと自体が目的化する
②役割が曖昧 …理解が不十分な子が傍観者になる
③見取りが曖昧 …教師が対話をつなげられない

成功の分岐点①「目的の明確化」

授業で話し合う目的は、子どもたちの学びの質を左右します。一般的には次の4つに整理できます。

・学びを深めるため
・他者と関わる力を育てるため
・学びを自分ごとにするため
・よりよい判断や解決を目指すため

しかし、このままでは抽象的で、子どもにとっては自分事として捉えにくいと感じました。そこで、次のような具体的な声かけに置き換えていきました。

・「一番良いと思う解法を班で一つ決めよう」
→自分の考えを説明することで思考が整理され、複数の考えからよりよい解法を選ぶ過程が学びを深めます。

・「この問題を全員が正解できるかな」
→個の学びではなく、仲間を意識した学びに転換します。説明の工夫が生まれ、理解を広げる姿が育ちます。

・「まだ習ってないけど、みんなで協力してやってみる?」
→学びを「教わるもの」から「自分たちでつくるもの」へと転換します。

こうした声かけが、子どもたちの行動を目的へと接続し、話し合いの質を確実に高めました。

成功の分岐点②「話す子・聞く子・つなぐ子」の役割設計

大きな改善となったのは、対話に明確な役割を位置付けたことです。グループ活動でも全体の検討でも、「話す子」「聞く子」「つなぐ子」の三つの役割が機能しているかを見取り、価値付けました。

・話す子 …自分の考えを相手に伝えながら進める
・聞く子 …問いに答えたり問い返したりしながら対話に参加する
・つなぐ子 …意見同士の関係を示し、対話を前へ進める

発表者が言葉に詰まっても、聞く子が補い、つなぐ子が流れを整理します。説明が「一人で完結させるもの」から「みんなでつくるもの」へと変化しました。
この構造が、静かな子でも安心して参加できる環境をつくり、「分からないまま困り続ける子」を生まない学習の循環を実現しました。

成功の分岐点③教師の役割は「指示」から「仕掛け」へ

役割が機能し始めると、教師の役割も次のように変化しました。

・板書はつながりを示す見取り図へ
・発問は正解を求める問いから関係を問う問いへ
・評価は発言量ではなく、発言の質や対話への関与へ

こうして、細かな介入をしなくても学びが進む授業へと転換しました。任せることが精神論ではなく、構造によって保証されるようになった瞬間でした。

まとめ

私は「任せられる授業は、任せる前に決まっている」と考えています。学び合いが成立するかどうかは、子どもに任せた瞬間ではなく、目的の共有と役割設計の段階でほぼ決まっています。

学び合いの本質は「放任」でも「理想論」でもありません。構造によって支えられた、再現性のある学習形態です。

私が目指す教室は、「分からない子を放置せず、みんなで、みんなを分かるようにする教室」です。その実現の鍵は、子どもを信じる気持ちではなく、信じられるだけの仕組みをつくる教師のデザインだと感じています。

平野 正隆(ひらの まさたか)

東京都品川区立学校


研究会での実践報告や校内での若手教員育成などの経験を通して、自分の経験や実践が広く皆様のお役に立てるのではないかと考えております。大人・子どもに関わらず、「明日から頑張れそうです」「明日が来るのが楽しみです」と言ってもらえるのが私の喜びです。

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