2025.09.03
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子どもの推し活、心配ですか? 安心して成長につなげるための親の関わり方

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。特定の人物やキャラクターを熱心に応援する「推し活」。最近は低年齢化しており、子どもの推し活に不安を感じる保護者もいるかもしれません。今回は「子どもの推し活、心配ですか? 安心して成長につなげるための親の関わり方」をテーマに考えました。

心を豊かにする推し活を、ほどよい距離で楽しむために

推し活は、行き過ぎなければ良いものだと思います。私自身はデビューが早かったので、誰かに憧れるひまもなく、推される側になってしまいました。それでも、映画『ロミオとジュリエット』を観たときに主演のオリヴィア・ハッセーさんを「なんてきれいな人だろう」と思い、髪を伸ばして真ん中分けにしていました。デビュー当時の私の髪型は、この憧れから生まれたものだったのです。憧れがあると、毎日がなんとなく楽しくなりますよね。

だから、好きな芸能人や歌手がいることは素敵なことです。ただし、お金や時間を使いすぎるのは問題です。また、推すために他の人たちに敵意を持ったり、ライバルをけなしたり、攻撃的になってしまうような推し方は良くありません。

推し活をより良いものにするには、いくつかのルールが必要です。お金と時間に限度を設けること、推し活のせいで成績が落ちないようにすること。攻撃的にならないこと。こうした条件を守れば、推し活は楽しく続けられます。

親子で楽しむ推し活から生まれる学び

 

@学びの場.com

親も一緒に推し活を楽しんでみてはどうでしょうか。子どもの推している対象に対して、「誰を推しているのか知らないわ」「最近の流行りは分からない」と無関心だと、子どもは「自分に興味がないのかな」「こんなに好きなのに」と感じてしまいます。むしろ「どうして好きなの?ちょっと見せて」「パパにも曲を教えてよ。どれが一番好き?」と興味を持つことで、子どもを理解することができます。チケットを買うお金を渡すだけではなく、「ママも一緒に行きたい!」と言うのも良いでしょう。曲を聴いてみて「これはちょっと過激で分からないわ」と言っても構いません。大切なのは興味を持つ姿勢です。

推し活の対象は実在の人だけではありません。今の日本はアニメ大国です。バーチャルアイドルやアニメのキャラクターに熱狂する子どももたくさんいます。アニメやAIアイドルなど、これからも仮想(バーチャル)の世界に没頭する文化はますます広がっていくでしょう。親の世代にはなじみが薄く敬遠しがちですが、なぜその作品が支持されているのかを理解することから始めてみてはどうでしょうか。中には人生のモラルや人間としての強さ、純粋さが描かれている作品もあります。「このお話はいいね」「これはちょっと難しいわ」と、作品をきっかけに会話をひろげるきっかけになります。

そして、仲間を作ることも推し活の楽しみの一つですが、ネットで知り合った人と会うときには注意が必要です。同じ趣味だからといって油断して、会ってみたら危険な人物だったということもあります。同年代のふりをしたり、推しを口実に子どもに近づく大人がいることを、保護者としてきちんと伝えましょう。もし会うなら家族も一緒に行くことを条件にすれば、安全です。「反対しているわけではなく、君を守るためだよ」「家族の前に来られない相手は怪しいよ」と教えることができます。

応援し合い、共に成長できる大切な関係を育てよう

私自身も長く芸能活動を続けてきました。推される側として困るのは、ファンが妄想の世界に入り込んでしまうことです。現実離れした願望を抱き、私生活に支障をきたすような行動をとられると、私たちにとってはつらいものになります。応援してくれることはありがたいですが、それは現実の上に成り立つ関係でなければなりません。

一方で、応援してくれるファンの存在はかけがえのないものです。私の場合は長年にわたって支えてくれるファンが多く、ファミリーのような関係を築いています。血のつながりはなくても、人生を共に生きてきた仲間であり、見守ってくれる存在です。

推される側とファンには、他人には分からない特別な関係があると感じています。アイドルがコンサートでファンに向かって「みんな、愛してるよ」と呼びかける場面を見たことがあるでしょう。それは社交辞令ではなく、本気の言葉なのです。ただし、その「愛」は恋愛感情ではなく、存在を支えてくれることへの感謝の気持ちです。活動を続けられるのは間違いなくファンのおかげであり、その思いは心からのものです。

ファンにとっても推しから受ける影響は大きいので、誰を推すのかはとても重要です。完璧な人間はいませんが、努力や才能、誠実さ、挑戦する姿勢など必ず良いところはあります。そうでなければスターという存在にはなれません。例えばダンスや歌が上手な人は、それだけの努力と練習を重ねています。また、夜更かしをしない、タバコを吸わない、運動をするなど、生活を厳しく管理して、常に良いパフォーマンスができるように体調を整えているのです。

そこから学び、真似できることはたくさんあるはずです。「ここを真似するといいね」「こんなところが素敵だね」と親が伝えることで、子どもは自分を成長させてくれる人を好きになる力を身につけます。推される側もまた、ファンの存在に感謝して、そのつながりを励みや目標にしています。お互いに支え合い、成長できる関係を築いていきたいですね。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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