2025.08.06
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子どもの思いやり、行動力、自己肯定感を育てるボランティア活動

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。子どもが成長するうえで欠かせない力は、勉強や習い事だけでなく、ボランティア活動の中でも育まれます。今回は「子どもの思いやり、行動力、自己肯定感を育てるボランティア活動」をテーマに考えました。

ボランティアが引き出す、子どもたちの秘めた力

:私は自分の子どもたちにもずっとボランティアを勧めてきました。その理由の一つは、自己中心的になってほしくなかったからです。この世の中にはいろんな人がいて、お互いに助け合って生きているということを考えてほしかったのです。自分に力があるときは、今、力を必要としている人を助ける。そして、自分が助けを必要とする側になったときには、勇気を出して人に頼ることができる。その気持ちを持ってほしいと思っています。

ボランティアというのは、実は子どもに秘められている力を引き出す方法です。照れくささや遠慮、行動したくてもできない、行動していいのか分からない……、子どもたちが秘めた力を出せないのは、そういったいろいろな理由があります。「余計なお世話かな」「関わらない方がいいかな」「自分にできることなんてないかも」と、考えすぎてしまうのです。

でも、いざボランティアをやってみると、たいていの場合、相手は喜んでくれます。そのときに子どもたちもまた大きな喜びを感じるでしょう。そして、その喜びが原動力となって、自分でも知らなかった力が湧いてきます。人の気持ちがわかるようになる、コミュニケーションが上手になる、リーダーシップが育つ、グループで協力し合うなど、ボランティアを経験した子どもたちは大きく成長します。

私の人生を変えた、ボランティアとの出会い

 

@学びの場.com

私自身が本格的にボランティア活動を始めたのは、中学生の頃です。学校内にキリスト教のボランティア団体があり、私はその活動に参加しました。今、振り返ると中学生にしてはかなり本格的な活動だったと思います。

たとえば、病気の方の看病や身体の不自由な方のお出かけの付き添い。まだ中学生なのに、難民の子どもたちに算数や読み書き、歌を教えに行くこともありました。私が行くと、子どもたちは本当に喜んでくれました。そして毎週のように活動しているうちに、自信が無かった自分が変わっていきました。

それまでの私はどちらかというと自己肯定感が低く、「私にはこれが足りない」「あれができない」と思っているタイプでした。でも、ボランティア活動に出会って、「自分は価値ある人間なのかもしれない」と思うようになりました。そして、無意識のうちに「自分にもできることがあるんだ」と、自信がついてきました。

人見知りも治って、目標ができて、毎日が生き生きとするようになりました。自分のダメなところばかり考えていた私が、他人のことを考えるようになったら自分の悩みは忘れてしまいました。心の中に閉じ込めて、息もできないくらい溜まっていたエネルギーの出口が見つかって、気持ちが明るくなり、楽になりました。私にとってボランティアは、まさに人生が変わる経験でした。

「人のため」と言いますが、実はそれは自分のためでもあります。自分の中にある、愛や優しさ、力に気付くことで、成長や自信につながります。すると、ほかのことにも自信を持って取り組めるようになります。特に思春期の子たちは、自分が周りからどう見られているかを気にして負担となったり、他人と比べて辛い気持ちになったりすることがあります。でも、ボランティアをしているときには、自分のことを忘れて、解放的な気持ちになれます。

親子で踏み出す「小さな一歩」

私とユニセフとの出会いは、長男が生まれたときに「この子にボランティア精神を持ってほしい」と思ったことがきっかけでした。まだ歩く前の赤ちゃんなのに、今考えると親バカですよね。赤ちゃんなのでできることはほとんどありませんでしたが、ユニセフのラブ・ウォークという活動を見つけたのです。募金をして、みんなで歩く、チャリティウォークです。「これだったらできる」と思って、長男を背負って参加したのが始まりです。そのときユニセフの職員の方に声をかけられて、イベントの司会や街頭募金など、さまざまなお話をいただくようになりました。そこからのご縁で活動を続け、1998年にはユニセフの協会大使に就任しました。

私自身がボランティア活動を通して変わることができたので、だからこそ息子たちにも勧めてきました。息子たちが歩けるようになったら、街頭募金に一緒に立ち、小学生になったら学校の活動に参加させました。中学生になればボランティア団体に預けて、海外での経験をさせました。高校・大学生のときには、私と一緒にユニセフミッションに行くこともありました。

その経験のおかげで彼らは人の痛みが理解できるようになり、誰かを助けたいと思ったときには迷わず動ける子になってくれました。これは、私の子育てで成功したことのひとつです。

ボランティア活動というと「毎月必ず参加しなければならない」「特別な人がすることだ」と思われがちですが、そうではありません。ラブ・ウォークのように歩くだけの活動もあります。ピンクリボンウォークやリレー・フォー・ライフなど、親子で気軽に参加できるものはたくさんあります。ぜひ身近なところから自分にできる一歩を探してみてください。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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