多忙でもブレない!「ねがい」を起点にした単元づくりの思考法
教師の主な仕事は言うまでもなく「授業」ですが、特に経験の浅い方には単元指導計画の作り方などを学ぶ機会があまりないと思います(形式を学ぶことはありますが)。
前回の最後にお伝えしたアダプテーション(翻案)を取り入れた授業実践を紹介する前に、日々の授業をどのように作っていくか考えていきます。
千代田区立九段中等教育学校 廣瀨 紘太郎
「ねがい」から始める単元設計―学習指導要領との接続
単元を構想するとき、私が真っ先に思い描くのは「授業後の生徒の姿」です。いわば授業者としての「ねがい」と言えます。先生方も日頃、「身に付けてほしい力」「できるようになってほしい姿」を想像しながら計画を立てていると思います。
ここで忘れてならないのが学習指導要領との関連です。「ねがい」と学習指導要領の該当項目を照合し、単元目標を定め、その達成に向けた逆算思考で授業を設計する、このプロセスこそ単元指導計画の骨格となります。もちろん、学習指導要領との関連付けは必要なことですが、まずは、先生方が日々、児童生徒と接する中で感じる想いを大切にしてほしいです。
しかし多忙な現場では、授業研究の時間が十分に確保できず、指導書や既存の実践を「なぞる」だけで終わりがちです。だからこそ「自分は何を実現したいのか」を明確に言語化し、学習指導要領の文言と丁寧に重ね合わせる作業が欠かせません。さらに、年間指導計画全体を見渡し、特定の資質・能力に偏りすぎないバランス感覚も必要です。
『平家物語』で目指す学び―目標の具体化
中学2年生で扱う『平家物語』(冒頭・扇の的・弓流し)を例に考えてみます。「祇園精舎の鐘の声……」を暗唱した経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この教材を通しての私の「ねがい」は
①日本の伝統的な言語表現を味わい、そのリズムや修辞に気づくこと
②登場人物の描写に着目して深く読み取り、今後の読解に生かすこと
などが挙げられます。
一方、学習指導要領では「我が国の言語文化に親しんだり、理解したりする」や「我が国の言語文化を大切にする」と目標にあります。また、内容では「作品の特徴を生かして朗読をするなどして、古典の世界に親しむこと」とあります。「古典の世界に親しむ」とは厳格な定義はありませんが、「現代に生きる生徒と遠い過去の先人との距離を縮めること」だということができます。
以上のことから『平家物語』という教材を通じて、生徒と過去の先人との距離を縮める学びが期待されているのです。音読は有効ですが、暗唱だけが独り歩きし「何のために」という目的が希薄になっていないか、常に問い直す姿勢が欠かせません。
このように定番の言語活動など一般的に良いと思われているものだからこそ、再検討することが重要だと思います。
「活動あって学びなし」にしないために―評価の視点
言語活動を充実させるためには、明確な目的と並んで「評価」の設計が要となります。評価には、評定を付ける「学習の評価」と、学習・指導を改善する「学習としての評価」があり、目的が異なれば評価方法も変わります。
「何のために生徒を見取るのか」を曖昧にしたままでは、より良い学びは生まれません。また、生徒も教師も「評価疲れ」に陥らない工夫が必要です。
おわりに
単元指導計画づくりの要点は、①「ねがい」を学習指導要領と照合させ具体的な単元目標へ落とし込むこと②その目標に照準を合わせて言語活動と評価を設計すること――に尽きます。
全ての単元で綿密に構想を練るのは容易ではありません。先生方は多忙な日々の中で、それでも授業をより良くしたいと試行錯誤を続けています。その忙しい中でもせめて年に数回でも指導書などから離れ、授業者自身の思いと学習指導要領を関連させながら、授業をデザインできればいいなと思います。

廣瀨 紘太郎(ひろせ こうたろう)
千代田区立九段中等教育学校
「活動あって学びあり」をモットーに、日々研究を重ねています。特に国語科教育では、アダプテーション(翻案)の手法を取り入れた授業を実践し、生徒の深い学びを目指しています。
教科の枠を超えて、多様な視点からものごとを捉え、表面的なことだけでなく、その背後にある本質に迫ることを大切にしながらよりよい教育のあり方を皆さんとともに探究していきたいです。
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