2025.06.27
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探究を探究する 子どものやりたいことを実現する(vol.2)

前回は、探究について、総合的な学習の時間が「探究」へと成るように、私が今、思っていることを書きました。
今回は、総合的な学習の時間における、私なりの探究への挑戦について書かせていただきます。

兵庫教育大学附属小学校 箱根 正斉

総合的な学習の時間における探究

総合的な学習の時間における探究は、子どもたちのくらしや生活から課題を見つけ、学びを自分たちでつくるように進め、学びを子どもとともにつくることを目指します。子どもの興味や関心によって、「やりたいこと」「ワクワクすること」「自分が成長できるもの」「仲間と実現できるもの」「仲間とよりよく生活できるもの」「仲間と互いに伸び合えるもの」などを出し合い、子どもたちの思いを膨らませ、よりよい願いの実現に向けて存分に活動を進めるようにします。

本年度は、学びの材や内容を子どもたちが自分たちで決めることを実践しようと取り組んでいます。今回は、5年生の子どもたちの姿をもとに実践を紹介します。

総合的な学習の時間の導入【第1時まで】

4月単元の始め 板書記録

  

本年度は、子どもたちのくらしや身近な生活から、単元を立ち上げるようにしました。

実際の子どもたちの様子ですが、5年生が始まり少しずつ自分を出していく中で、水筒を振りながら「先生、ビール飲んで!」と冗談を言って遊ぶ姿が見られました。そこで私は、一緒に遊びながら、食に関する本でジンジャーエールの作り方を紹介したり、和食のレシピ本を見ながら休み時間に談笑したりして関わりをもっていました。

また、朝の会では、ある個から「ハヤシライスはどこから食べる?」という話題を出し、周りの子どもたちはそれを聞いたり、話したり、一日の振り返りに綴ったりする様子が見られました。このように生活する子どもを見て、総合的な学習の時間をスタートしました。

まず、昨年度までの活動と内容について出し合いました。どんなことをしたのか、どんな学びがあったか、自己の成長まで語れるようになるといいなと思いながら授業を進めました。子どもたちにどんな活動をしたのかきくと、ある個から「4年生のはじめ、理科の授業での『生き物探し』から、アメリカザリガニと出会い、それが外来種であることを知って、アメリカザリガニは、じゃまもの?ってなった。それで特定外来生物(アメリカザリガニ)の問題を解決するために、ハヤブサさん(企業:ハヤブサホールディングス)と協力して活動してきた」と胸を張って語ってくれあました。
また、多くの方と協力し、「解決したかわからないけど、難しい問題を乗り越えることがいい」と探究活動の価値についても語っていました。

そして、真っ白な模造紙を提示し、「今年度の活動を何にするか」について自分たちで描くことを子どもたちに伝えました。条件として、「自分の成長につながること」「仲間の成長につながること」「仲間とならできそうなこと」の3つを提示し、いろいろと意見を出し合いました。

教師の役割としては、イメージマップを使って黒板にまとめ、拡散的に意見が出るように視覚的に支援しました。すると、クッキーやピザ、パン、アイス、スムージー、アイスといった食べ物の意見が多く出ました。また、ある個は「穀物を育てたい」と発言する姿しました。
食べ物の話題が多く出る中で、ちがう個から「これ勉強じゃなくて遊びになってる」と意見が挙がりました。するとスムージーを提案した別の個から「食は食品ロスともつながりそうだし、勉強につながる」と、自分のやりたいことの価値を持っている知識と結びつけながら、学びの見通しを語る場面も見られました。

他にも「ひよこを飼いたい」と生き物の飼育を提案する個や、「ひよこが卵を産むまで、飼って、その卵で料理をしたらどう?」と友達の提案につなげて発言する姿も見られました。
こうした話し合いによって拡散的に意見を出し合いながら、自分たちのこれからの活動にわくわくしながら見通しをもつことができるようになっていきました。

究極のひよカフェ

次の時間の話し合いでは、ある個から「究極の卵焼き」という言葉が挙がりました。さらに、ちがう個から、自身のアレルギーについて素直に打ち明ける姿もありました。このように自分のことを素直に語れる個がいると、本気の話し合いが進みます。
前の時間、他の個が「ひよこが卵を産んだら、それでアイスをつくれる」と発言したときには、アレルギーのことを考えている個はいなかった。また、その場で気づいても、発言できる個はクラスでまだ見られなかった。しかし、本人がちゃんと自分のことについて意見を語ることができるようになったからこそ、本気の活動が生まれるのだと感じました。
その後、国語科の学習とつなげて、図書室に行って、「どんなことができそうか」と個の考えを膨らませる時間をとることにしました。その際、本やインターネットといった情報から、思い描く活動の具体が想起できるように、その個その個に関わりをもつようにしました。このような学習から、子どもたちは真剣に考え始めていきました。

次の時間の話し合いでは、アイスやスムージーといった食べ物に関する案と、ひよこを育てるという意見が挙がりました。そして、「究極の○○」というテーマが決まっていきました。話し合いや関わりを通して、みんなの考えが少しずつ共有されて活動が絞られていきます。それぞれの思いの中で、子どもたちの考えは一つの目標に向かって収束していったのです。

それぞれのやりたいことを実現する総合の時間にしたい

ある個の願い「家の人や他の市の人にも(たくさんの人に)来てほしい!」

「究極の〇〇」。次の時間も何にするか、話し合いました。

「アイスやフルーツからパフェを作って、カフェにするとみんなの考えがすべて入るんじゃないか」
そんな意見も出て、話し合いが続きました。
そんな中、ある個は、
「レストランがいい。レストランだと子ども用も大人用のメニューもあっていいと思う。父の日や母の日に合わせれば、割引があっていい」
私はこの個のことが気になり、願いは何なのか、きいてみました。すると、
「たくさんの人に来てほしい。家の人や他の市の人にも来てほしい」と語ってくれました。
自分たちの開く店に、たくさんの人に来てほしいということが、その個の願いだったのです。
その個は、ノートに店の設計図やテイクアウトの案も考えていました。さらにメニューについても
「甘いものだけだと、虫歯ができやすくなる」と考え、コーヒーもメニューとして考えていきます。自分や仲間といった子どもだけではなく、家の人や地域の人も、この個の中では重要なのだと感じました。この個自身、なかなか継続して、ものごとを進めることが難しい個です。しかし、そんな個の探究を教師としてどう支えていくか、その願いを実現させたいと思わせてくれる個なのです。その個に応じた究極を実現させていきたいと思います。

レストランと喫茶店とカフェのちがいをそれぞれ出た意見を整理して考えをまとめる多様な個

話し合いでは、レストランと喫茶店とカフェのちがいを出し合いながら決めていきました。以下は、子どもたちから出た意見です。

・レストランの割にメニューは少なくなりそう。
・レストランにすると、いつ開くのか、母の日は間に合わないし、父の日にも間に合うか。
・カフェは油を使っていないイメージ。

このような話をきいていたある個が
「それなら喫茶店がいい。いろんなものがあるから」と生活経験をもとに提案しました。
しかし、喫茶店を知らない個が多く、理解されません。子どもたちの話をきいていると、どうやらカフェは、甘いもの中心で販売するというイメージがあるようです。

拡散的に出た意見を整理するのにはどうするか、教師としても難しさを感じながら子どもたちの様子を見ていました。すると、全体で話し合う中で、自分の意見を発言して整理しようとする個、それを聞いて自分の意見を語るような形で収束させていこうとする個などもいました。
また、聞きながら、良いところと心配なところを表にまとめて整理して考えている個もいました。これは特別活動で意見を収束する前の段階で使っていた、意見を整理分析する表を、考える足場としていたようです。ほかにも、友達の意見をノートに書いて整理する個、付せんに考えを書き出し整理する個など、話し合いを進める中で自分なりに意見を整理し、考えていく姿が見られました。こうしたその個なりの考えを個でつくるからこそ、納得して、みんなで決めていく姿として成り立っていくのだと感じました。

究極を考える―アレルギーのこと―

子どもたちは、「みんなでやりたいこと」「自分のやりたいこと」の狭間で、どのように折り合いをつけ、納得して答えを出していくかを考えていました。そこで、私が特に気になったのが、アレルギーについての話です。
アレルギーは、自分ではどうすることもできないことだから、仲間のことを考えて合意形成する際に、必ず出てくることだと予想していました。私の予想として、話し合いが進むにつれて「卵は使わないものをつくろう」という答えに収束していくと考えていました。
その予想のもとで、子どもたちの話し合いをきいていると、ある個が
「アレルギーのある子は、その子が食べれるメニューでつくったらいい。それぞれの究極をつくったらいい」と語っていました。
それは、アレルギーのある個を尊重することで、自分の中で追究していくことの価値を語っているようにも感じました。一方で、その個と関係の深い個は、節約レシピを調べ、材料が少なく、かつ、おいしい、究極を考えていました。アレルギーのある個も、自分なりに究極を目指すこと、多様性を受け入れることが重要だと考えているようにも見えました。私の考えの枠を超えた意見でとても驚いたのと同時に、自分で追究していくその個の思いの強さも感じました。それぞれの価値感で、それぞれの究極を目指して探究し、やりきること。個に応じた探究が生まれていいんだと、私の中でも大きな学びと価値の変容があったのでした。

「究極のひよカフェ」

総合の活動が決定「究極のひよカフェ」板書記録

  

いろいろな意見が出ましたが、子どもたちから出た意見をまとめていくことにしました。

「アイスを作りたい」「パフェをつくりたい」という意見が多く挙がり、カフェにすることにしました。
そして、「究極のカフェ」にすると決まったところから、以下のような対話が見られました。

「究極のひよこカフェ。究極のひよカフェにしよう」
「ひよこのロボットが店の中に来てもおもしろい」
「ひよこがカフェの中にいてもいいやん」とアイディアが次々に出てきて、「究極のひよカフェ」として、今年の総合的な学習の時間の活動が立ち上がりました。
時間はかかったものの、自分たちでやることを決めて活動する。探究することができるということから、その個一人ひとりの目が輝いているようにも見えました。

その個の自己実現する姿から探究へ

その個の思いをきいて、とことんきいてみると、自分たちのやりたいことが自ずと決まっていきます。教師がやりたい方向へ導くのではなく、そこで生活する子どもたちが自分たちのよりよくなりたいと願う心の訴えをもとに決めていくのです。
その子どもたちの合意形成は、決して多数決でなく、本気で話し合うことを通して自分たちで決めてきました。自分たちの思いから、その個その個の追究で学び、進める過程を出し合うことで問題を解決できるのだと感じました。
個は互いに違うけれど、それぞれのやりたいことを尊重し合い、互いの良いところを合わせた答えを見つけていくように教師が関わることで、その個の思いから問題解決する力が育っていくのだと思います。
どこに行くかわからない。けれど、子どもたちの活動には必ず価値があり、意味がある。学ぶ価値のある内容が見えてくるのです。
これからまたどうなるか分かりません。

次回は、活動から内容を考え、子どもと創っていきたいと思います。

引き続き、子どもの姿をもとに実践を紹介したいと思います。


箱根 正斉(はこね まさなり)

兵庫教育大学附属小学校


個がくらしを見つめ、その個が育つことを考えて実践に取り組んでいます。個が立ち、協働し、探究する。個がくらしをつくり、個が生きる。
生活科・総合的な学習の時間を中心として、その個が自分の思いを膨らませながら、自らの願いを実現し、自己実現を更新していく。
そんな個の育ちを目指して実践しています。

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