2024.12.16
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いつもの教室が美術館に 〜図工の鑑賞の時間を学級経営に繋げる〜

図工で作品を作成すると、子ども同士での作品鑑賞の時間があると思います。
皆さんはどのような形で鑑賞の時間を過ごしていますか?
今回は、私なりの鑑賞の時間の過ごし方をお伝えします。

沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭 石川 雄介

学習を行う前の心構え

まず、図工の作品を作る段階で子どもたちにどのような呼びかけをしていますか?そう言われると何も悪いことをしていないのにドキッとしますよね。
私は「今回の図工の学習では、〇〇な力を身につけさせることが目標です」と伝えています。例えば、場面に合わせた混色を作成する力、自分が表現したいことを想像する力、立体的な構成を計画する力などです。子どもたちに伝える言葉にすると、「登場人物の気持ちに合わせた色使い」「自分のイメージに合わせたものを作るためにはどんな形にしたらいいのか」などです。
なぜこの図工の学習をするのか、どのような力を身につけるための学習なのかを明確に伝えることで、作品の内容や完成品は違えど、たどり着くゴールを一緒にすることができます。子どもたちも身につける力を意識しながら活動できるため、特に意識しながら活動に取り組むことができます。
さらに、どのようなところを評価するのかも伝えています。評価基準として、「絵が上手だから」ではなく、この学習に合った力を評価することを伝えています。そうすると絵に苦手意識がある子どもも、例えば場面に合わせた色使いを工夫したり、場面を2つに分けた構成を考えたりなど、意欲を持って取り組むことができます。実際にそれで高評価をもらって自信を持つ子もいました。
また、学習に取り組ませる最初にどんなテーマの作品を作るのかを決めさせています。サッカーが好きな子や動物が好きな子など、自分の好きなことをテーマにさせています。それをどのような形で表現できるのかを私は見ています。テーマに合わせた作品を作るために計画的に部品を作ったり、材料を集めたりなど、見通しを持った学習計画を自分で持たせています。

特別な空気で雰囲気づくり

さて、作品ができあがったらみんなで鑑賞会です。
私は教室を美術館のような空気にします。BGMとして美術館に流れてそうな音楽を流しています。(検索したらたくさん出てきます)
まず、全員の作品をテストの形態にした机の上に置きます。そして、鉛筆とワークシートを持って廊下に並ばせます。
ワークシートには各学習に合わせたキーワードを記載しています。「混色」「場面に合わせた色使い」「主人公の気持ち」「作品のテーマ」など、この学習で身につけたい力、感じ取ってほしい力をキーワード化しています。それによって鑑賞するポイントが明確になり、鑑賞後の感想文も書きやすくなります。

話を戻して…教室入り口に向けて一列に並べ、あたかも美術館の開場を待っているような雰囲気を作り出します。
私は電子黒板に美術館の画像を出し、黒板には「◯組美術館」と書いて、おもむろに子どもたちの前に姿を現します。そして落ち着いた声で、
「本日は、◯組美術館にお越しいただきありがとうございます」「当館は間も無く開場いたします」「一つの作品を鑑賞する人数はお一人ずつとさせていただきます」「くれぐれも私語で周りのお客様にご迷惑をかけないようにお願いします」「それでは開場です」
と伝えています。これだけで子どもたちのやる気は急上昇です。いつもいる教室が違う雰囲気になっている。この雰囲気が子どもたちの主体性を高めてくれます。
ちなみに、中学年以下であれば、私の手にタッチしてから美術館に入場させています。携帯バーコードタッチのイメージです。高学年であれば、お辞儀をしてから入場させています。こういう細かい雰囲気づくりが子どもたちの心をくすぐり、楽しい授業をつくれると思います。

子どもたちはそれぞれ好きな席に座って作品を鑑賞し、感想を書きます。その後、すぐ次の席に移動するのではなく、自分の鑑賞が終わったら一旦教室後方に行かせます。
教室後方に行くことで、教室全体を見渡すことができ、どの席が空いているのか、今そこに座ろうとしている人がいて自分と被らないかなどを思考させた上で、次の作品の席に移動させています。
鑑賞を終えて隣の席や近くの席にすぐ座ると、座ろうとしていた人と被ってトラブルになったり、好きな友達の席ばかりを移動したりなど、周りを見る力が身につきません。ただの鑑賞の時間ですが、私はそこまで子どもたちに求め、身につけさせたいと思っています。
また、私が子どもたちによく伝える言葉があります。
「自分の仲の良い友達の作品ではなく、交流の少ない人の作品を大切にしなさい」と。
この言葉には、
「仲の良い友達はどんな性格で、どんなことが好きで、どんな能力があるのかは大体知っているはず」
「交流が少ない人のことを知れる最大のチャンスであり、そこに意外性のあるアイディアや衝撃があるはず」
という意味が含まれています。もちろん、この言葉の意味は子どもたちにその都度伝えています。この言葉は活動を活性化させてくれます。

こうして、25分程度鑑賞の時間を取っています。
鑑賞終了時の合図も工夫をしています。
私は音楽を通して子どもたちに活動内容を伝える場面を多く取り入れています。鑑賞終了の場合は「蛍の光」を流します。よく閉店するときに流れるアレです。
私が「時間なので終わってください」と言わなくても、蛍の光が流れると自然に鑑賞を終えて教室から出ていきます。人間の感覚って不思議ですよね。
さらに私は教室から出て行く子どもたちに、「本日はありがとうございました」「今日はもう来ないでください」と言って、ひと笑いをもらっています。(閉店なので再入場はお断りです)

そして!ここで授業終了ではありません。
その後、廊下でワークシートを見ながら友達の作品の良さを伝える「ほめほめタイム」を行います。自分の作品を色々な角度から褒められることで自己肯定感を高めることができると思います。また、先程話したように、普段交流の少ない人の作品を鑑賞しているため、この機会に感想を伝えて話をすることができます。こうやってまずは話をする回数を意図的に増やし、心を打ち解けさせて行くことが大切だと思います。子どもたちがほめほめタイムを行っている間に、私は電子黒板やBGMなどを止めて、いつもの教室の雰囲気に戻しています。
子どもたちはほめほめタイムを10分ほど行って教室に戻ります。
その後片付けをして、授業終了という流れです。

まとめ的なポイント

このような流れで図工の鑑賞の時間を過ごしています。
ポイントは
①作品を作る導入で何を身につける力なのかを明確にする
②ポイントをキーワード化する
③美術館の雰囲気を出す
④作品を見たら一旦教室後方に行って、周りを見通す鑑賞の姿勢をつくる
⑤交流の少ない人の作品を大切にする
⑥ほめほめタイムを設ける
そして、最後のポイントは、担任が雰囲気づくりや役に徹するということです。
もちろん授業では子どもたちの学習能力を高めることができます。しかしそれだけでなく、どんな授業でもどんな活動でも、子どもたちに学校が楽しいと思わせたり、自分の目指す学級像を伝えたりすることもできます。そのための工夫を担任が意図的に実践することで、より良い学級経営を行うことができると思います。

あなたらしい授業を行えることを願っています。


何卒。

石川 雄介(いしかわ ゆうすけ)

沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭


沖縄県の小学校教員として10年以上、子どもも担任も楽しむ学級づくりや授業づくりを研究しています。
私のモットーは「合いのある学級づくり」で、特に『思い合い、支え合い、学び合い』に重きを置いています。
また、授業や生活の中で他者尊重の心を育む仕掛けや子どもの興味を惹くアイディアを考えるのが大好きです。
効果的な掲示物の作成や子どもも担任も楽しめるアイディアなど、多種多様な教育場面について伝えていきたいと思います。

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