2026.05.08
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部活が子どもの「新しい窓」を開く。地域移行で大切にしたいこと

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。
教員の働き方改革が求められる中、中学校の部活動を学校から地域へと移す「部活動の地域移行」が全国で進んでいます。変化の波の中で、戸惑いを感じている保護者や子どもも少なくないのではないでしょうか。
今回は「部活が子どもの新しい窓を開く」をテーマに考えました。

「部活動の地域移行」で何が変わるのか

部活動の地域移行が進む中で、先生の負担が軽くなり、地域の専門家が指導に加わることで子どもたちがより豊かな経験を得られるなら、それは歓迎すべきことだと思います。ただ、私が大切だと思うのは、その「形」です。

子どもたちが部活動に参加するときに、最終的に誰が頼れる人なのか、誰が権限を持っているのかが、はっきりしていたほうがいいと思うのです。例えば、部活を無断で欠席したときに、注意するのは地域の指導者なのか、学校の先生なのか。トラブルがあったときに、親が誰に相談すればいいのか。そうしたことが曖昧なままだと、子どもたちも迷ってしまいます。

うちの子も経験してよく分かるのですが、学校の部活にはやはり特別な良さがあると思うんです。部活には、チームワークを育てたり、目標を達成したときの達成感を味わったり、負けても「もっと頑張ろう」と立ち上がる強さを鍛えたりする役割も期待しています。
学校の部活には「学校を代表する」という誇りがあります。合唱団でもバスケットボールでも「自分たちの学校の代表」として戦う。その学校愛がチームワークを生んで、頑張る力になる。県大会に出たい、このコンテストで入賞したいという具体的な目標にもつながります。

外部の力を「学校の中」に取り入れよう

 

 

私が思うのは、地域の移行を進めるにしても、地域のコーチや専門家に学校に来てもらい、学校の枠組みの中で一緒にやっていく形が望ましい、ということです。外国では、別途コーチを雇ったり、ボランティアで学校の指導の下でやってもらったりする体制が多いです。学校の責任のもとで動いています。責任者は校長先生です。

地域には、学校の先生よりも上手なミュージシャンや、野球が得意な人がいるかもしれません。そういう方が指導に来てくれるのは学生にとって、大きなプラスです。大歓迎です。ただ、その人は「渋谷区の山田さん」ではなくて、「学校の非常勤コーチ・山田さん」であってほしいです。有償、無償は学校の予算で決めれば良いことです。契約を結び、学校の1人として活動をする。そのほうが、保護者としても安心して子どもを任せられます。

息子が和太鼓をやっていたときのことを思い出します。学校の部活として先生が教えてくれていたのですが、その先生が辞めてしまって、そのまま地域の活動になりました。そうなると学校は場所を貸すだけの存在になって、いろんな人も入ってきて、息子は結局辞めてしまいました。学校が責任を持って運営しているプログラムのほうが、子どもも保護者も安心して参加できる、ということをそのとき実感しました。

子どもによっては、学校の外には行きたくない、という子もいます。バドミントンが上手だったうちの子に「地域のクラブでもやってみる?」と聞いたら、「嫌だ」と言ったんです。学校なら友達と一緒に楽しくできるけど、外に出て他の人たちと競い合うのはプレッシャーが大きすぎると。そういう子もいるということを忘れないでほしいです。

部活が開く、子どもの新しい窓

私自身、フォークソングクラブに入って、人生が変わりました。結果的に、歌手になったんですから! 部活って、そのくらい目覚めのきっかけになります。だから、自由にやりたい部活をさせてあげることは大切だと思います。

三人の息子たちを見ていても、それをすごく感じます。論理的に考えるのが得意だった長男はディベート部で、人の前で話したり、自分の考えを整理したりする力を育てて、今では会社を経営しています。次男はドラマ部に入って、照れ屋だったのがどんどん友達ができて、性格的にもすごく変わりました。コンピューターの仲間とグループを作っていた三男は、今もAIの仕事をしています。それぞれに、人生に大きな影響を与えてくれたと感じています。

次男には特に印象的なエピソードがあります。高校に入学して、学校の音楽劇のオーディションを受け、主役に選ばれました。みんなと一緒に舞台に立つ楽しさを覚えました。ですが、その学校にはドラマ部がなかったんです。舞台に立てるのは選ばれた学生だけでした。人の前で表現する経験がいかに大切かを身をもって知っていたから、彼は学校と交渉して「スプリング・フリング」というイベントを立ち上げたんです。オーディションに来た子は全員参加OK。歌が下手でも踊ったことがなくても、みんなで一緒にやる。それが大好評で、卒業したあとも10数年以上続いているそうです。三男もそれを引き継いで、3年生の時にプロデューサーとして、活動を盛り上げていました。

部活は、子どもたちに新しい窓を開けてくれます。吹奏楽部でみんなが一つになった時の感動は、親には味わえないほど、子どもたちは深く味わっているんです。新しいことを学ぶって、私は新しい言語を学ぶのと同じだと思っています。違うリズムがある、違う表現がある、身体のこんな部分も動くんだ、脳がこんなふうに感じるんだ……。私は今でもクラブで初めてギターを弾いたときの喜びを覚えています。勉強だけが学校ではありません。部活は、子どもたちにとって大切な人生経験です。地域と学校が一体となって、子供が心身共に健康に成長できるように、良い形を作り上げてほしいものです。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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