小学校国語の物語、その読み直しで本当に深まっていますか?
国語の物語を何度も読み直しているのに、子どもの理解が深まらないと感じることはありませんか?
実は、「読み直す」だけでは学びは変わりません。大切なのは、読みを「使い直すこと」と、そこから「広げること」です。今回は、文学作品の理解がどのように深まっていくのかを、その構造から整理します。
明石市立高丘西小学校 教諭 川上 健治
読み直すだけでは深まらない
前回、物語の読みは最初の「感じたこと」をどのように扱うかによって、その後の学びの質が大きく変わると書きました。直観的な受け止めをそのまま終わらせるのではなく、問いとして保留することが、次の学びの出発点になるという内容です。
では、その保留された問いは、その後どのように展開されていくのでしょうか。今回は、物語の理解がどのような過程を経て深まっていくのか、その構造について考えてみたいと思います。
物語の授業では、一度読んだ作品を再び読む場面が設定されます。しかし、その読み直しが単なる繰り返しにとどまってしまうと、理解は大きく変わりません。同じ場面を同じように読み、同じ感想をなぞるだけでは、読みは深まらないからです。この顕著な例として、例えば、『ごんぎつね』の学習で「ごんはかわいそうだ」という最初の感想があったとします。そのままにしておけば、単元終わりの感想も「ごんはかわいそうだった」という見方で物語全体を捉えたままで終わります。だからこそ、ここで必要になるのが、「読みの使い直し」という視点です。
重要なのは、この過程が自然に起こるものではないということです。「近転移」と「遠転移」という二つの橋渡しを授業の中に意図的に位置づけなければ、理解は作品固有の文脈にとどまりやすくなります。
近転移から遠転移へ、理解が広がる構造
最初の読みで形成された見方や問いを、同じ作品内の別の場面に適用してみる。この過程は、既に得た読みの視点を別の文脈で再構成する営みであり、「近転移」と捉えることができます。
そもそも、「転移」の過程は,白水(2012:347)[i]の指摘によれば、単なる知識の再生ではありません。基盤となる知識が後の状況での問題解決や学習に繋がるものとされています。その中で「近転移」とは、ある場面で得た理解や方法を、類似した別の場面に適用することです。物語の授業においては、登場人物の行動の意味や関係の捉え方を、他の場面に当てはめながら考えることを指します。
ただし、この過程は単なる適用では終わりません。むしろ重要なのは、同じ見方では説明しきれない場面に出会うことです。そのとき、子どもたちは新しい見方を必要とし、理解を更新していきます。
この更新の過程で、読みは具体的な出来事の理解から、「すれ違い」「誤解」「思いやり」といった抽象的な概念の理解へと変化していきます。この段階が「概念的理解」の形成です。
しかし、ここで学びを閉じてしまうと、理解は作品固有の文脈にとどまってしまいます。そこで必要になるのが、もう一つの過程です。それが、「遠転移」です。「遠転移」とは、ある文脈で得た概念を、異なる文脈へと適用することです。物語の中で捉えた概念を、他の作品や日常生活といった場面に広げていくことがこれにあたります。ここで起きているのは、単なる応用ではありません。文脈が変わることで、概念の意味そのものが再構成されていきます。物語の中で捉えた「すれ違い」という理解が、現実の人間関係や別の出来事と結びつくことで、より普遍的な意味を持ち始めます。
この段階に至ると、子どもたちの読みは、出来事の理解を超えて、人間の在り方や価値に関わる理解へと変わっていきます。ここで育まれる力を、ここでは「文学的認識力」と捉えています。
ここまで述べてきた理解の過程は、図のように整理することができます。この図が示しているのは、理解が単に積み重なるのではなく、「橋渡し」によって段階的に移行していく構造になっているという点です。
まず、基盤となる学力をもとに、「近転移」によって「概念的理解」が形成されます。そして、その概念が「遠転移」によって異なる文脈へと広がることで、「文学的認識」へと発展していきます。
重要なのは、この過程が自然に起こるものではないということです。「近転移」と「遠転移」という二つの橋渡しを授業の中に意図的に位置づけなければ、理解は作品固有の文脈にとどまりやすくなります。
「橋渡し」は意図的に設計する
これまでの物語授業では、場面ごとの理解や感想の共有に重点が置かれることが多く見られました。しかし、そのままでは、理解が抽象化されず、他の文脈へと広がりにくいという課題が残ります。
一方で、活動に焦点を当てすぎると、学びの過程そのものが見えにくくなります。「活動あって学びなし」という言説も過去には広まりました。だからこそ、どの段階で何が起きているのかを捉え、理解の過程そのものを設計する必要があります。
物語を読むという行為は、本来、具体的な出来事を手がかりにしながら、人間関係や価値について考え、その理解を別の文脈(生き方)へと広げていく過程です。この一連の流れを意図的に組み立てることによって、はじめて物語の学びは深まりをもつのだと考えています。
次回は、この理解の過程を、実際の授業の中でどのように構成していくのかについて整理していきます。どの段階でどのような問いを設定するのか、どのように子どもの読みをつないでいくのか。指導過程として具体的に示していきたいと思います。
参考資料
- [i] 白水始(2012)「認知科学と学習科学における知識の転移」『人工知能学会誌』第27巻4号,人工知能学会

川上 健治(かわかみ けんじ)
明石市立高丘西小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。
同じテーマの執筆者
-
兵庫県神戸市立桜の宮小学校 特別支援教育士スーパーバイザー(S.E.N.S-SV)
-
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
-
京都教育大学附属桃山小学校 教諭
-
さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当
-
兵庫県姫路市立坊勢小学校 教諭
-
岡山県教育委員会津山教育事務所教職員課 主任
-
福岡市立千早西小学校 教頭 今林義勝
-
大阪市立堀江小学校 主幹教諭
(大阪教育大学大学院 教育学研究科 保健体育 修士課程 2年) -
大阪府公立小学校 主幹教諭・大阪府小学校国語科教育研究会 研究部長
-
戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表
-
佛教大学大学院博士後期課程1年
-
小平市立小平第五中学校 主幹教諭
-
兵庫県西宮市立総合教育センター 指導主事
-
長野県公立小学校非常勤講師
-
木更津市立鎌足小学校
-
北海道公立小学校 教諭
-
東京都東大和市立第八小学校
-
東京学芸大学附属大泉小学校 教諭
-
愛知県公立中学校勤務
-
大阪大谷大学 教育学部 教授
-
東京都品川区立学校
-
岡山県赤磐市立桜が丘小学校 指導教諭
-
神奈川県公立小学校勤務
-
寝屋川市立小学校
-
明石市立鳥羽小学校 教諭
-
仙台市公立小学校 教諭
-
東京都内公立中学校 教諭
-
目黒区立不動小学校 主幹教諭
-
東京都公立小学校 主任教諭
-
尼崎市立小園小学校 教諭
-
千代田区立九段中等教育学校
-
埼玉県公立小学校
-
大阪府泉大津市立穴師小学校
-
岡山県矢掛町立小田小学校 教諭
-
合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員
-
愛知県東郷町立春木中学校 教諭
-
福島市立福島第一小学校 教諭
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)
この記事に関連するおススメ記事
「教育エッセイ」の最新記事













アグネスの教育アドバイス
映画と教育
震災を忘れない









































この記事をクリップ
クリップした記事
ご意見・ご要望



