春の運動会に向けて~表現学習ってホントに表現!?~(後編)
今回で運動会シリーズは完結です。
3回にわたってリレー学習と表現学習について述べてきました。どちらも、運動会には欠かせない学習です。
「表現学習」については、明日の学習にすぐ活用できる内容ではなかったかと思いますが、次の表現学習の一助となれれば幸いです。
明石市立鳥羽小学校 教諭 友弘 敬之
プール清掃が終わり、緑色だったプールが光り輝く青色へと変化しました。
この記事を読んでいただくころには、水泳学習が始まっていることでしょう。
さて、今回は前回の続きとして「表現学習」についてです。
「表現学習」の学習過程で、子どもたちは何を学び、どのように成長していくのでしょうか?
昨年度の4年児とともに創り上げた学習過程に沿って学習の実際を記していきたいと思います。
何を表現したいのかな?
まず、学習の導入場面で子どもたちと対話したのは「何を表現するのか?」でした。
その中では、
「コロナで大変な時期もあったけど、ここまで成長できたよ!ということを伝えたい!」
「スクールガードさんや家族みんなに『いつもありがとう』と感謝を伝えたい」
等の思いが語られました。
それらをまとめていく中で、「感謝 成長 ~家族や地域の方々に私たちのレベルアップを伝えよう~」というテーマが形成されました。「感謝と成長」を表現で表すことに決まったわけです。
どのように表現しようかな?
テーマが形成された後、「このテーマをどのように表現していくのかな?」と投げかけました。
すると、「ダンスで表現したい!」「自分たちでダンスを創って、こんなことできるようになったよという成長を伝えたい!」という意見が出されました。
この意見に多くの児童が共感していたので、自分たちでダンスを創って踊るというように、学習の方向性が形成されていきました。
表現づくり
学習の方向性が決まった後は、
「どんな曲がふさわしいかな?」
「どのような振付ができるかな?」
「どのような隊形に移動しようかな?」
「どのように締めくくろうかな?」
と、表現を形成していく中で生まれた課題を順次解決していきました。
いろいろな曲のアイデアが出される中、「どの曲が感謝にふさわしいかな?」「もっと、感謝や成長が込められた曲はないかな?」と、何度も立ち止まって対話を行う様子が見られました。
曲が決まり、いよいよ振付を考えていく頃になりました。振付は3分割し、1組が「一人の動き」、2組が「クラスの動き」、3組が「学年の動き」を形成することになりました。
クラスでの対話が始まると、はじめは引っ込み思案だった児童も少しずつ前のめりになり「こんな動きはどうだろう?」「ここは手をつないでみるのがいいかもしれない!」と、様々なアイデアを出す様子が見られました。
クラスごとの動きがある程度できてきたら、それぞれのクラスの動きを他のクラスに紹介し合う学習を設定しました。
自分たちが創った動きを、まだその動きを知らない仲間に教えることに苦戦する様子に学びの手ごたえを感じました。
学習を振り返る中で「自分は知っている動きでも、友達に伝えるということがこんなにも難しいということがよくわかりました」「実際に動いてみると上手に伝わりました」という感想が語られました。
子どもたちは、教師が期待した以上に伝え合うことの難しさを実感しているようでした。
それぞれの動きがつながってくると、運動場で通しの学習が始まります。今まで体育館で行っていた学習だけに、距離感を考えながら動きを創っていくことに苦労する様子が見られました。しかし、回を重ねるごとに自分たちがどのような動きをしているのかを捉えることができてきました。
いよいよ本番。学年全員で創り上げてきた表現を披露する時間は、とても幸せな時間でした。
演技を終えて帰ってくる児童の顔からは安堵と達成感があふれていました。
表現学習の学習過程
今回の学習で大切にしたのは、対話のプロセスです。教師の与えた動きを確実に習得し披露する表現学習も数多く経験してきました。そこにも、なりきったり没入したりできる、表現としての良さがたくさんあります。
しかし、今回の学習では、そこからさらに「自分たちで表現を創造するプロセス」を組み合したわけです。そのために、4月当初に以下のような学習過程を提案しました(図1)。前編に学習過程の前半を添付しています。
ご覧いただけるとお分かりの通り、体育の学習だけではなく、国語科の話すこと聞くことや学活の時間を組み合わせて学習を形成しました。つまり、体育科を軸としてカリキュラムをデザインしたわけです。
課題を設定し、それらを解決するために対話し、実際に実行した後振り返り、さらに対話を深めていく。そういった学習のサイクルを経て「表現学習」を完成させてきました。
子どもの学び
この学習を終えた子どもたちは実に多くのことを学んでいる様子でした。それは「人に考えを伝えることがこれほど難しいということがよく分かった」「対話をするときに、司会をうまくできるようになりたい。そうすると話し合いがうまくいく」「表現を創り上げることがこんなに楽しいとは思わなかった」という記述に表れています。
これらの記述は、学習のプロセスをともに創ってきたからこその学びの姿であると感じています。今までの表現学習でも「教えたことができていく」という満足感を教師・児童ともに得ることはありました。しかし、体育科の学習を超えて、自分の学びを自分で創造できたことが今回の学習過程の良さであったと実感しています。子供にとってわかりやすい運動会という「実の場」があるからこそ、そこへ向かって本気の学習ができる。その可能性が表現学習にはあるということを学べた実践であったといえます。
追記
今年度(令和6年度)も、6年児とともに表現学習を創造してきました。
今年度は、「ストーリー」「ダンス」「ソーラン」「衣装」の4つのチームに分かれて対話を行ってきました。
また、機会があれば記述させていただきたいと思います。
友弘 敬之(ともひろ たかゆき)
明石市立鳥羽小学校 教諭
「単元学習」をテーマに学び続けてきました。その中で、「学習デザイン」「実の場」「問い」と、興味を広げてきました。今は「そもそも学びってなんだろう?」という問いと向き合っています。それは、子どもの学びだけではなく、教師としての、また大人としての学びも含みます。この学びの場を通して、私の問いを解決していきたいです。
同じテーマの執筆者
-
兵庫県神戸市立桜の宮小学校 特別支援教育士スーパーバイザー(S.E.N.S-SV)
-
京都教育大学附属桃山小学校 教諭
-
さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当
-
大阪市立堀江小学校 主幹教諭
(大阪教育大学大学院 教育学研究科 保健体育 修士課程 2年) -
大阪府公立小学校 主幹教諭・大阪府小学校国語科教育研究会 研究部長
-
戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表
-
旭川市立大学短期大学部 准教授
-
小平市立小平第五中学校 主幹教諭
-
兵庫県西宮市立甲陽園小学校 教諭
-
明石市立錦が丘小学校 教諭
-
木更津市立鎌足小学校
-
浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授
前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師 -
東京学芸大学附属大泉小学校 教諭
-
愛知県公立中学校勤務
-
大阪大谷大学 教育学部 教授
-
神奈川県公立小学校勤務
-
寝屋川市立小学校
-
鹿児島市立小山田小学校 教頭
-
元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長
-
目黒区立不動小学校 主幹教諭
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)