2016.09.30
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運動会指導にもの申す ―心を育てる組体操から、価値観を耕す応援指導までー

兵庫県公立小学校勤務 松井 恵子

今年も本校では、9月に運動会が挙行されました。今年は1年生担任として運動会に臨みました。

一昨年は、組体操の指揮をとりました。その実践を「組体操は、技を教えるのではない!心を育てる組体操の実践を!」の回に書きました。私たち教師は、全ての教育活動を通じて子どもの生き方を育てている。組体操も、技だけに捕らわれない、ゴールの姿を遠くに見据えた教育活動として、指導することが大切であるということを熱弁させていただきました。これは、組体操に限った事でもなく、何もかもに共通しますので、私の記事にはその精神が貫かれています。(青文字の松井恵子をクリックしますと、過去の記事がご覧頂けます)
今年、1年生をうけもったことで、また一つ、大切な指導が見えました。

行事の経験は、人生観を育む

教師の多くが、運動会や他の学校行事を通じて子ども一人ひとりが、そして学級が成長できるようにしたいと思っていることでしょう。始めは、子ども達に、みんなでがんばる運動会にしようとめあてを掲げる。励ます。ところが、日にちが経つと、練習もマンネリ化。子ども達も疲れ始め、罵声がとぶ。子ども達は怒られたくない一心でなんとかそつなくこなす。
ただし、運動会や音楽会など当日は楽しいもの。何となく、よかった楽しかった、と終着する。運動会の感想では、「勝ててよかったです。」「1位じゃなくてもがんばれてよかったです。」などという言葉でしめくくる。
成長がないわけでもなく、子ども達は発達段階があがっていくので、ある程度の成長はします。
でも、私は、6年生には6年生の精一杯の成長を引き出したいと願い、それを組体操の指導や運動会を牽引するリーダーとしての行動の中で子どもと共につくりあげます。だから、1年生には1年生として最大限の成長を引き出す指導で、運動会に臨むべきです。
では、1年生にとっての(4年生以下に言えることと思いますが)最大限引き出したい成長とはなにか。

半周差の学級対抗リレー、アンカーの5年生が最後まで全力で走る姿に・・・

低学年はとかく結果主義。「できる、できない」「勝つ負ける」にこだわります。3年生以上の種目である学級対抗リレーは、1年生にとっては、何のことだかわかりません。思わず、速い、遅いばかりが目に入ります。
5年生の学級対抗リレーの時のことです。第一走者の子どもが、転倒。すぐにバトンを拾い、必死に走ってバトンを第二走者にパス。その後も、必死に走る子ども達。しかしながら、始めに転倒のあったチームは、なかなか差が埋まらず、半周差でアンカーにバトンが渡りました。アンカーの5年生は、最後まで、素晴らしい全力疾走でゴール。ゴール際であきらめたという表情でもありませんでした。私自身の目頭が熱くなりました。
児童席の1年生に私は叫びました。
「いいですか、速い、遅いじゃないんです!今の最後の一生懸命な走りを見ましたか?勝ち負けじゃない、最後まで一生懸命にやりきる、それが一番大事なんです。素晴らしい!お兄ちゃんたちに拍手を!!」
1年生の子には難しいかもしれません。でも、価値付けてあげないと、結果ではなく、それ以上に大事な「見えないこと」はいつまでたっても見えるようにはなりません。
組体操を見ながら、「うわあ。すごいね。」と言う1年生もいれば、「ぼくもできる。」と言っている1年生もいます。悪いことではありません。園の時や体操教室などでしたことがあるのでしょう。
だから、解説をします。「大きくなってくるとね、自分の体も重くなるから、自分でしっかり支えたり、人を支えたりバランスをとったり難しいんだよ。」
解説をしながら、一つ一つの技に拍手を送ります。
「2人の技になったね。次はまた人数が増えて3人で技をつくっているね。友達が増えていくように、人数が増えて心を合わせて技をつくっていくんだよ。」
「ピラミッドはね、下の人は上を支えようとがんばっている。上にのぼる人は、高くて怖いけど、下の人のために、勇気をふりしぼってのぼっていく。それにね、見えないところで支えるお兄ちゃんお姉ちゃんが一番しんどいの。でも、見えなくても、みんなのためにと思って支えているんだよ。」
静かに語って、大技が続き、私がだまっていると、「先生、これも?(支え合ってるの?)なんか・・・」という1年生の男の子の目に涙。「なんか涙がでそうだよね。先生も今涙が出そうだよ。○○くんの涙は、正しいよ。感じるよね。」
運動会は、できるできない、勝つ負けるなど結果がよく見えます。しかし、結果ではなく、人生の中で大切にして生きていけば幸せが増える価値観が、色々な場面に溢れています。見つけられるかどうかは、教師の人生観であり、そこから、どう子ども達に価値付けていくか、教師の伝える力も重要です。

練習の前には、クラス34人と担任で手をつなぐ。一つの輪になって・・・

「心は自分で育てなければ育たないんです。一生懸命な心、正直な心でいっぱいにして運動会をがんばりましょう。」
そんな風にずっと声かけをしていましたが、教師の気合いとは裏腹に、しんどいなと感じる中だるみの時期もあります。それは、実は、教師がしんどいのかもしれませんね。
1段階目にでてくる中だるみの時は、練習の前にクラスで手をつないで輪をつくり、今日のめあてのお話をしました。これは、6年生を持ったときもします。6年生の時は、肩を組んでいわゆる円陣にしました。1年生でも6年生でも普段から教室で輪をつくる経験をよくさせます。去年受け持った6年生については、毎日、交流する時間を朝の会でつくり、締めくくりは一つの円になって手を合わせました。
円というのはその形から心をつなぐ効果があります。
1年生には、34人がうまく輪になって手をつなぐということも周囲に気を配るという経験にもなります。(6年生でもですが)
そして、今日のめあてを私から伝え、がんばるそ、オー!で両手を挙げるということをやりました。
次の日には、手をつないで、今日のめあては何にする?と子どもに投げかけました。1年生でも考えますよ。投げかけたら、考えます、必ず。
もしかしたら、この実践は、子どもだけではなく、一番に私の気持ちを楽しむという方向にしっかりもっていってくれたように思います。
担任もしんどいときこそ笑いましょ!変化をつけましょ!罵声はお互いにしんどいです。

「しんどいときこそがんばる」という経験

次の段階ででてくる「しんどい」は、運動会も迫った最終段階です。教師の気合いとは裏腹に子どもは、疲れもたまっていたり、いまいち、見通しをもてていなかったりするからです。
1年生にもこういいました。
「しんどいと思うことがあっても、それを乗り越えると成長できる。オリンピック選手が、しんどいから、練習だからと手を抜いて、本番だけやったらいいやと言って、オリンピックにでれますか?ずっと本気で、しんどいときこそがんばって練習したからたくましく成長したんだよね。」
声色も奥行きのあるハリのある声で。少し早口で。この表現の違いをつけて子どもに伝える技術も大切です。
子どもの顔がかわりましたよ。特に、男の子。
「運動会はね、しんどいときこそがんばるという心も育てています。心は自分で育てるんです。」
そして、体の力の入れ方も言います。
「お腹にぐっと力をいれて、心に一生懸命をいっぱいにためて(いくイメージ)で、目をぐっと開いて、さあ、練習にいきますよ。」そういって教室から並んで運動場に向かいました。

おわりに・・・

今年も本校の高学年の表現演技は、組体操でした。私が実践した一昨年よりも、世間の組体操に対する風当たりが強い中、本校の組体操を指揮したのは、若い女性教師でした。嬉しかった。「松井先生が組体操を指揮されているとき、私は5年担任で一緒に指導をさせてもらって、あの経験が大きいです。心を育てる組体操にしたいという思いを貫きました。たくさんの方に感謝です。何よりも、子ども達に感謝です。」
感涙でした。「松井先生が」のフレーズではなく、「何よりも子ども達に感謝。組体操の毎日が楽しかった。日々顔が変わっていく成長していく子ども達を見るのが、うれしかった。」という言葉に。
若い教師達、そして後輩の女性教師たち、がんばってほしい。
この学びの場.comの記事も、若い先生方が教育観を感じるきっかけになってくれれば、幸いです。
方法論ではなく、教育観を感じて、あなたのフィルターを研鑽していってください。

松井 恵子(まつい けいこ)

兵庫県公立小学校勤務


兵庫県授業改善促進のためのDVD授業において算数科の授業を担当。平成27年度兵庫県優秀教職員表彰受賞。算数実践全国発表、視聴覚教材コンクール特選受賞等、情熱で実践を積み上げる、ママさん研究主任です。

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