2024.05.02
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コロナ禍を経た健康教育の変化と課題 ~ストレスへの対処~(5)

「屋内に閉じこもる」「運動や遊びができない」「人とのかかわりが制限される」
これらが体に悪い影響を与え心の不調にもつながることを,コロナ禍は実感させてくれました。
今日の朝刊の広告欄には,マインドフルネス,レジリエンス,トラウマなどの言葉が並んでいます。コロナ後,メンタル面の悩みを抱える人は増えているのかもしれません。
体と心は深く関係していること,体を整えることがストレス対処につながることなどを,今,子どもたちに理解をさせる好機ではないでしょうか。

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長 大村 高弘

レジリエンス授業で学べた「ひと休み」

心が安定すればストレスとも上手につき合える。不安や悩みは対処法によって軽減できる。こうしたことを,レジリエンス授業を通し6年生が学べたことを,前号で報告しました。

授業後のA児の振り返りです。
「『つらい時』『落ち込む時』はだれもが経験することだ。立ち直ることができないと落ちていく。……私だったら,自分の部屋で何も考えずに『ボー』っとしていると,いつの間にか立ち直ることができる」
自律神経系の調整がうまく図られるのでしょうか。気持ちの落ち着ける場所で「ボーっとしている」ことが自分流の立ち直り法であることを,A児は改めて自覚したようです。

・自分の好きなことをして気持ちを変える
・「ホッ」とできる場所を見つける
・いつも取り組んでいることは続け,気持ちを落ち着かせる 

「ひと休みする」ためのこうした方法も,講師としてお招きした静岡大学教育学部教授の小林朋子先生から紹介されました。
ストレスの原因を簡単には取り除けなくても,うまく付き合っていく方法はあって,これを「コーピング」と呼ぶそうです。

自分なりのリラックス法

授業の後半では,セルフケアを身に付けるためのリラックス法を,子どもたちは体験しました。吸うこと吐くことを意識しゆったり呼吸する。肩を動かすことで上半身をほぐす。こうしたリラクゼーションで気の流れをスムーズにすることが,多くの子に心地よく感じられたようです。

B児の振り返りです。
「……私は私で自分なりのきんちょうをほどく方法をもっています。それと今回学んだきんちょうをほどく呼吸の仕方と組み合わせていきたいと考えました」
6年生にして自分のリラックス法をもっているとは,ちょっと驚きです。高い自律性をもつB児が今回学んだ呼吸法をどう生活に組み込んでいくか,聞いてみたいところです。

実生活に生かす

呼吸やリラクゼーションはもちろん,ストレッチングや体をほぐす手軽な運動が,ストレス対処に有効であることは明らかです。
中学校の保健体育科には「休憩時間や家庭などで日常的に行うことができるよう効率のよい組合せやバランスのよい組合せで運動の計画を立てて取り組む」が学習指導要領解説の3年生に入っています。また高等学校の入学年次の次の年次以降では,卒業後も持続可能な「実生活に生かす運動の計画」が位置付けられています。
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小学校のカリキュラムに入っていないのは,心的な部分での発達段階を踏まえてのことでしょう。
しかし,ストレスが一層強まるだろう今後の社会と子どもの心身の発育・発達の早期化を鑑みると,ストレス対処を生活に活かす方法が,小学校高学年の授業に位置付けられてもよいのでは。
自分の意志と判断に基づき行動できるB児。自分を対象化し振り返っていたA児。6年生の子どもたちは,私が思っていたよりもずっと深く,自分の内面を見つめる機会をもてています。一人ひとりがもつ心の回復力を,大事に伸ばしてあげられたらと思います。

大村 高弘(おおむら たかひろ)

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長


新しい学習指導要領の改定に向け,準備が進んでいくことと思います。
アフターコロナの時代,社会が大きく変化する中で,学校と授業はどう変わっていくべきなのでしょう。
今後の学校教育に期待することを,不易・流行の両面から考え、お伝えしたいと思います。

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