2024.04.11
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コロナ禍を経た健康教育の変化と課題 ~レジリエンス授業を参観して~(4)

コロナ禍が子どもの「心の健康」にどんな影響を与えたかを前号で考えました。
アフターコロナの時代を迎えても、自然災害との遭遇、親しい人との離別、人間関係のトラブルなど、強いストレスにさらされる経験は誰でも起こりえます。
「なんで、こんなことに?」「何をしても無駄」と思える時があっても、その後に自分の力で立ち直っていける。そんな力を子どもに育みたいと願います。
このために、レジリエンス授業が大きな効果をもちそうです。

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長 大村 高弘

学校保健委員会でレジリエンスを

レジリエンス(resilience)は、「回復力」「復元力」「弾力」などと訳されており、心理学では「精神的回復力」を表す言葉だそうです。
企業や学校では以前から注目されていて、前任校では、数年前から学校保健委員会で取り上げられてきました。講師として、静岡大学教育学部教授の小林朋子先生をお招きし、保護者の参観を伴う授業をしていただいています。
その学年合同授業(6年生)の様子を、今回紹介します。

レジリエンスとは何か

導入では「レジリエンスとは何か」を、小林先生が分かりやすく説明。
事例として挙げられたのは水泳の池江璃花子選手の復帰の物語です。
白血病という難病を発症し、長期の療養生活を余儀なくされた後、驚異的な回復力を見せ復帰。それから1年半も経たないうちに東京オリンピック代表の内定獲得。
子どもたちは辛い経験をした池江選手の気持ちに共感し、逆境を乗り越えていくプロセスを知り「池江選手の復帰が可能になったのは、レジリエンスの力が影響している」と理解します。そして「落ち込む時もあるけれど、『立ち直る力』は誰でももっている。ではその力を高めるには?」と授業のテーマが共有されます。

レジリエンスを育てるコツ

まずはレジリエンスを弱めるものとして、「スポーツをしない」「長時間のテレビやゲーム」「ちょっとした『不公平』にも敏感」など、6年生にも分かりやすい具体的な行為が挙げられます。
その後、レジリエンスを育てるコツとして、下の六つが示されます。

①友だちや周りの人とかかわろう
例えば…・笑顔であいさつ ・自分から声かけ ・「ありがとう」と言う
②人助けをしよう
人助けの経験は自分にも力を与えてくれる
例えば…・お手伝い ・校内の掃除 ・地域の清掃活動
③毎日の日課を守ろう
規則正しい生活は安心感を与える。「時間になったらやめられる」ことが心の力に。
例えば…・10時までに就寝、6時までに起床 ・ゲームや趣味は時間を決めて
④ひと休みする
悩んでいるときはそこから離れてひと休み。
例えば…・自分の好きなことをする ・気持ちが落ち着くところを見つける
⑤セルフケアを身に付けよう
心が安定するとストレスと上手に付き合える。  
例えば…・体調の良し悪しを感じ取る ・しっかり眠る ・リラックス法を身に付ける
⑥目標に向かって進もう
人とは比べず、自分ができるようになったことに目を向ける。
例えば…・自分ができることを一つずつやる。 ・今できることを考え行動

子どもたちの学び

授業後の子どもの感想には、
「レジリエンスを弱める行動を無意識にやっていることに気がついた」
「すいみん不足や長時間のゲームがレジリエンスを弱めてしまうことにつながると聞いておどろきました」
など、自分の生活を今までとは違う角度から捉えた記述が多数ありました。
規則正しい生活が心身を安定させ、ストレス対処の力も強められることが腑に落ちたようです。

ある子は自分のこれまでの人間関係を振り返っています。
「私のレジリエンスを下げているものは主に人間関係なのかなあ、と思った。今まで限りある人間関係で過ごしてきたことが私のレジリエンスを下げているのだと思った。でも、私のレジリエンスは私の行動一つで変えることができる。行動だけでなく、心からもレジリエンス力を高めることができる……」
人とかかわり「自分も相手も幸せな関係」でつながることの重要性が小林先生から説明されました。人を信頼することによって、自分の心の安定も進むのでしょう。
「人の役に立つ行動がレジリエンスを高める理由」については、6年生にとってハードルの高い問い。でも、子どもたちは時間をかけて思考しました。ある子から「自己肯定感が高まって……」との発言がなされると、子どもたちの理解は一気に進みました。印象深い学びになったものと思います。

中学校入学に向けて

この授業は卒業式を2週間後に控えた3月初旬に行われました。
子どもたちは中学校入学後、大きな環境変化に対応しつつ新しい人間関係づくりを進めます。そして思春期は、ただでさえ体と心のバランスを崩しやすい時期でもあります。
ストレスを抱えたり心が疲れたりしたとき、今回のレジリエンス授業で学んだことが自分を支える力になってくれるものと思います
授業をしてくださった小林先生にこの場をお借りしお礼申し上げます。ありがとうございました。

大村 高弘(おおむら たかひろ)

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長


新しい学習指導要領の改定に向け,準備が進んでいくことと思います。
アフターコロナの時代,社会が大きく変化する中で,学校と授業はどう変わっていくべきなのでしょう。
今後の学校教育に期待することを,不易・流行の両面から考え、お伝えしたいと思います。

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