2024.03.08
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コロナ禍を経た健康教育の変化と課題 ~「私の」健康から「私たちの」健康へ ~(2)

コロナ禍の学校では「感染を防ぐ」ことが喫緊の課題でしたから,子どもを守るための保健指導は,どうしても他律的なものになりがちでした。
でも,それは子どもを育てる健康教育としてどうだったのかを,今問う必要があると思います。
新たな感染症の発生が今後も予想される中,生涯にわたって自分自身が適切に判断し,自律的に健康行動のとれる子どもを育てたいと願います。そのために,感染症に関する科学的な理解,原理・原則の把握が重要であることを,前回考えました。

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長 大村 高弘

コロナ感染の経験から

私事で恐縮ですが,昨秋,コロナに感染しました。
熱は40度6分(自己の過去最高)まで上がり,酸素濃度が急激に低下。病院に救急搬送され重症化の一歩手前というところでした。
学校で教頭・養護教諭の温かな配慮に助けられ,病院では救急医(20年ぶりに再会した教え子)の診察,自宅では長期間の看護を家族に受けました。
療養中,身体の動きは制限されましたが,自問する中で内面での活動は深まりました。身近な人の援助のありがたさを実感し,社会システムによって自分の健康が守られていることも再認識。

回復後に貝原益軒の『養生訓』を手に取りました。
「凡そ薬と鍼灸を用いるは,やむ事を得ざる下策なり。飲食・色慾を慎み,起臥を時にして(規則正しく),養生をよくすれば病なし」とあります。
この自律的な健康管理の大切さに江戸時代の人々は共鳴し,明治以降,我が国の健康教育にも大きな影響を与えたようです。私自身,コロナ後の生活に活かすべき知恵をたくさん学びとれました。

でも現代に生きる私たちは,個人の養生だけで「病なし」になりうるとは思えません。人との接触が皆無の生活をするなら感染症は無縁ですが,現代社会において共同生活は必須。グローバルな世界での人的交流は,今後さらに進めるべきものです。

・病原体は人を介して伝わるけれど,予防や治療もまた人のおかげで進む。
・健康生活は自分を取り巻く人や社会システムの繋がりの中にある。

こうした見方・考え方を子どもに伝えたいとの思いを,コロナ療養の経験は強めてくれました。

「マスクする目的は何なの?」

前回,感染症に関する科学的な理解が,自律的な健康行動をとるために重要であることを述べました。
コロナ以前,「マスクを付けるのは予防のため」と,自分中心にぼんやり考えていた子は多かったようです。しかし,コロナ禍における様々な報道によって,「人に感染させないためのマスクなのだ」と見方を変容させた子は多いものと思います。
自分を守る行動だけでなく他者への配慮が必要であること,自分の健康を維持することに社会全体が関係していることを,コロナ禍を振り返って学ばせる好機が今だと思います。

医療や公衆衛生を支える人たち

現行の小学校学習指導要領体育編においては,「健康と社会」に関する内容を主に6年生で扱います。(3)「病気の予防」には,「(オ)地域では,保健に関わる様々な活動が行われていること」が示されています。コロナ禍を経た今,公衆衛生について学ぶこの内容を,どう膨らませ深めていくべきか。

コロナ禍の当初,検査や消毒の実施,ホームページやリーフレットでの広報活動,相談・問い合わせへの対応等,保健所や保健センター,地域の役所の皆さんは,住民のため激務を続けてくれました。そして,自身が感染するかもしれない状況の中,最前線で治療等にあたってくれた医療従事者の方々。
かつて6年生を受け持っていた時,総合的な学習の時間に,医療従事者と直接のかかわりをもたせたことがあります。病院での看護師の職務の見学や講話,消防署での救急蘇生法の見学や救急事例についての取材等々。

その際の子どもの振り返り文です。

「……夜中の勤務をする看護師さんは,その後朝まで働いて家に帰って2・3時間の睡眠をとってまた働きだすという,すごくハードな仕事であることが分かりました。寝る時間が少ないのだから体調をくずすことがあるらしいけれど,でも体調をくずすのは分かるような気がします。」

「病気,特に重症の患者にとっては常に死の危険がつきまとうから,看護に当たっては常に心やさしく冷静にということが大切。やっぱり不安があると生命力がなくなったりするから看護師さんの仕事は気を遣いストレスが……」

コロナ禍の看護師さんにあっては,さらに厳しい職務が続いたことでしょう。
こうした人たちの献身的な努力によって命と健康が守られ,公衆衛生が支えられていることを捉えられる保健学習を,今後模索できたらと思います。

大村 高弘(おおむら たかひろ)

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長


新しい学習指導要領の改定に向け,準備が進んでいくことと思います。
アフターコロナの時代,社会が大きく変化する中で,学校と授業はどう変わっていくべきなのでしょう。
今後の学校教育に期待することを,不易・流行の両面から考え、お伝えしたいと思います。

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