2024.04.15
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仕掛学が結ぶ家庭と学校の教育

学校教育を家庭教育の延長線上に捉えていきたい。
それが、子どもを学びから遠ざけないために大切なのではないでしょうか。

明石市立鳥羽小学校 教諭 友弘 敬之

はじめまして

今期よりつれづれ日誌の執筆者として参加させていただきます。兵庫県は明石市立鳥羽小学校で教員として勤務している友弘敬之といいます。不慣れな執筆活動ではありますが、何か一つでも読者の皆様の明日の教育につなげられれば幸いです。

さて、今回は第一稿目ということもあり、少しばかり簡単な自己紹介も交えての問題提起をさせていただければと思います。

「学びの楽しさ」を奪うもの

私は現在、教師という立場で学校教育に携わる一方で、親として家庭教育を行っております。家庭では、高校2年生の長女と中学3年生の長男、そして、4歳になる次男がいます。家庭であれ学校であれ、「学びの楽しさ」に気付いてもらうための壁の厚さを痛感する毎日です。しかし、「学びの楽しさ」という観点で、学校教育を受ける長女と長男を4歳の次男と比較して考えると、その違いに気付きます。年を追うごとに「学びの楽しさ」から遠ざかっているように感じるわけです。

以前娘にこんな話をしたことがあります。
「どうして学校に行くだけで学びが受けられるのに、楽しまないの?」と。
すると、
「うるさい!」と返ってきました。いやな父親でしょう。

一方、4歳の息子を見ていると、学ぶことを体全身で楽しんでいる様子が目につきます。
「一人でボタンが外せるよ!」
「今日は何の本を読んでくれるの?」
学びを通して成長する自分に期待し、主体的に学びを楽しんでいると捉えることができます。

直接的すぎる学び

上述の長女と次男の比較を通して、主体性を求める学校教育が主体性を奪っている可能性を感じないわけにはいきません。本来、人は生まれながらにして主体的に学ぶ生き物であると仮定したときに、その主体性を学校教育が削り落としているとしたらどうでしょう。もちろん、引き出されている多くの主体性もあるでしょう。では何が子どもの主体性を下げているのでしょうか。その一つの要因を「直接的すぎる学びの在り方」と言及したいと思います。

家庭教育においても、一人一人に合わせた適切な言葉かけを考えて言葉をかけることがあります。
例えば、「早くお風呂に入れたい」と思ったときに「早くお風呂にはいりなさい!」という前に、「お風呂までよーいドンしよ!位置について、よーい ドン!」と言って促す。
また、「早くご飯食べなさい!」という前に、「お箸でクレーンゲームするよ!ボタン押してね!ウィーン ガチャ!」と言って促すといった具合です。
そうする中で、少しずつ習慣化し、できるようになってきたタイミングで一緒に成長を喜ぶようにしています。つまり、子どもにとっては自然とできることが増え、その成長を周りの大人と一緒に実感できる環境が、「もっとやってみたい!」「何でもできそう」という主体的な態度につながっていると感じるわけです。これは、以前ブームとなった「仕掛学」の視点で行っている家庭教育の一場面です。「ついやってみたくなる仕掛け」のなかで子どもの学びをはぐくもうとしているわけです。家庭教育ができる個別最適な学びともいえるでしょう。

一方で、学校教育ではそういった学習環境をいつでもデザインできるわけではありません。「AできるためにAしなさい!」と、直接的な指導を行わざるを得ない場面も数多くあります。例えば「九九ができるようになるために九九の練習をしましょう」「漢字が覚えられるように漢字の学習をしましょう」という具合にです。こういった直接的な指導が功を奏することも多くあるでしょう。しかし、だからこそ、そうではないことへも目を向けなければならないと感じます。「九九を覚えろと言われても、覚えられないから困っているんだよなぁ…」「跳べと言われても跳び箱なんて跳べないや…」そういった子どもの姿に気付くところから心がけていきたいものです。

仕掛学の視点で学習デザイン

では、具体的にどのような学習がデザインできるのか?
ここまで読んでくださった読者の皆様からは、そのような声が聞こえてきそうです。実は私もそのことについて模索中なのです。しかし、ヒントをいくつか見出すことができました。最後に少しだけ紹介して初稿を終えたいと思います。

昨年度担当した第4学年の子どもたちからは、実に多くの学びを得ました。その中でも印象的だったのが総合的な学習の中での学びです。「地域の魅力」を軸に、1年間を通して子どもと一緒に学びを創ってきました。その中で、いろいろな子どもの声が聞こえてきました。

「新聞を書くときは、誰に伝えたいかを考えて、どこにどの記事を載せるかが大切。あと、文字の大きさとか、フリガナも意識しなあかんねん!」
「校長先生に提案したとき、もっと伝えたいことを重点的に対話したほうがよかった。次もしあったら、伝わるように作戦を立てないといけない。」

これらは、まさに「AできるためにAしなさい」といった直接的な指導からの脱却ではないでしょうか。新聞を書くために新聞を書くのではなく、本当に伝えたいことを伝えようとする中で文章の構成を工夫する。提案文書を書くために提案文書を書くのではなく、本気で提案したいことを校長先生に伝えるために、伝えたい内容を精選する。こういった「本気の場」をデザインすることは、教師として子どもの成長を支えるためにできることなのではないでしょうか。今年度も、そういった学習環境デザインに取り組み、その成果と課題を発信していきたいと思っています。

友弘 敬之(ともひろ たかゆき)

明石市立鳥羽小学校 教諭


「単元学習」をテーマに学び続けてきました。その中で、「学習デザイン」「実の場」「問い」と、興味を広げてきました。今は「そもそも学びってなんだろう?」という問いと向き合っています。それは、子どもの学びだけではなく、教師としての、また大人としての学びも含みます。この学びの場を通して、私の問いを解決していきたいです。

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