「先生、あのね」子どもの声を見逃さないアンケートの誕生(前編)
人間関係や学業不振など、子どもたちは様々な悩みを抱えています。社会の変化とともに、その悩みは多岐にわたり、私たち大人が子ども時代のそれとは様変わりしてきています。そんな子どもたちに、少しでも寄り添ってあげる方法はないかと考え、生まれたのが「先生、あのね」です。
東京都品川区立学校 平野 正隆
成長への一歩を
悩みをもつことは、素晴らしいことだと思います。「悩み」は「成長」するための道標となるからです。しかし、それをどう解決すればよいかが分からず、未来を見通せない状況が続けば、悩みはストレスに変わります。ストレスの正しい解消法が分からなければ、成長に向けた一歩を踏み出す勇気すら失ってしまいます。悩んでいることを話せる人、一緒に解決方法を考えてくれる人がいれば、きっと「悩み」は成長へ導いてくれることでしょう。私は、教師として、その選択肢のひとつになれればと思っています。
相談アンケートにひと工夫
各自治体や学校では、相談ダイヤルを設置したり、相談アンケートを定期的に実施したりしています。もちろん、そういった組織的な対策は大切ですが、もっと気軽に話せる環境づくりはできないかと私は考え、まず学校で月1回実施している相談アンケートにひと工夫加えました。
もともとアンケートの質問は「困っていることはありますか」「身近に困っている人はいませんか」「相談したいことはありますか」といった内容でした。もっと肯定的に子どもたちの変化に気付きたいと考えた私は、そのアンケートの裏面に「最近、楽しかったことや嬉しかったことはありますか。最近気付いた友達の良いところはありますか。あれば1つ書いてください」という質問を載せ、記述式でそれにも答えてもらうことにしました。すると、いつもその質問に必ず書いてくるような子が、「ない」と答えるときがあることに気付きました。そんな時は、その子を注意深く観察しながら、他にも何か変わったことがないかを見たり、直接声をかけて話を聞いたりしました。
新たな2つの壁
この方法を数年続けていましたが、当初私が考えた「気軽に話せる環境づくり」とは少し違いました。「担任しているクラスの子ども達と、もっと気軽に話せるようにすることが根本的な解決につながる」そう思った私は、新たな2つの壁にぶつかりました。
一つ目は、積極的に関われる子はいいが、そうでない子が話したくても話せないでいることです。もっと言えば、「話したいけど話せない子」と「話したいわけではない子」の違いも難しいと感じていました。
二つ目は、次の授業の準備などで、一人ひとりとうまく時間をつくれないことです。もちろん、「先生、相談があります。」と言われれば、なんとしてでも時間をつくりますが、それだけでは何も変わらないと感じていました。
「ちょこあいす」がきっかけ
そんなとき、ふと思い出したのが、教員一年目の初任者のときのことです。当時、私は一年生の担任をしていました。国語の授業で「せんせい、あのね」という作文の指導をした際、「せんせい、あのね あさごはんにちょこあいすたべたよ」といった、他愛ない話題を書いた子がいました。それを読んで、みんなで笑い合ったのを今でも忘れられません。環境さえ整えば、子どもたちは何かしらの発信をしてくれるのではないでしょうか。
「先生、あのね」誕生
「環境さえ整えば」そう思った私は、学年に関わらず、担任・( 教科担任として )担当した子に、単元テストのあとに学習の振り返りを兼ねてアンケートを実施し、その設問の一つに自由にコメントできる「先生あのね」を実施することにしました。
下の写真は実際のアンケートです。
平野 正隆(ひらの まさたか)
東京都品川区立学校
研究会での実践報告や校内での若手教員育成などの経験を通して、自分の経験や実践が広く皆様のお役に立てるのではないかと考えております。大人・子どもに関わらず、「明日から頑張れそうです」「明日が来るのが楽しみです」と言ってもらえるのが私の喜びです。
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