2025.10.21
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教育書から学ぼう ーデューイとビースタから「なすことによって学ぶ」の意味を捉え直すー(3)

座学よりも活動的な学びが重要。生きて働く知識は動くことを通して得られる。
教育哲学者のジョン・デューイの言葉とされる「なすことによって学ぶ(learning by doing)」は、特別活動・生活科・総合的な学習の時間の学びを支える重要な理念だろう。特に小学校期においては、教科の授業でも体験的な活動が有効である。そんなふうに今まで自分は捉えていた。
しかし、『よい教育研究とはなにか』(ガート・ビースタ著,亘理陽一ほか訳)の読書会で、活動と知識との関係を改めて考え直すことができた。

静岡大学大学院教育学研究科特任教授 大村 高弘

椅子やテーブルは出来事

著者のビースタは、博士課程でデューイの研究に励んできた人だ。
だから、授業実践の世界で違和感なく受け止められている捉え
「知識の対象はわたしたちの「外側の」世界に存在する「物事」だと考えられ、それらはわたしたちに発見され描写されるもの」という考え方を否定する。ではどう考えるのか?

文中には「椅子やテーブルも出来事なのである」と出てくる。
ー えっ「出来事」! 「物体」じゃないの? ー

幼児と椅子・テーブルとの関係で考えてみよう(ビースタの主張と合っているかは分からないが)。
家族がそこで食事する姿を幼児は目にする。テーブルにパソコンが載っているのを見ることもあるだろう。成長していく中で、自分も頻繁にそれを使うようにもなる。こうして椅子・テーブルとのやりとりを繰り返しながら「椅子は体を載せるもの」「座ると楽だ」「テーブルでの作業はやりやすい」などと、子どもは意味づけをしていく。
だから椅子やテーブルは「物体」というよりも、その子にとっては「機能(はたらき)」として存在する。

デューイは、「物事は、それらが何として経験されるかによって、どんなものであるかが決まる」と言う。だから知識は意味のある出来事の結果であり、「探究過程の成果」と考えるべきだと。
なるほど、これは対象・子どもという二元論に立つ「空間的」な概念ではない。上の具体例で考えれば、知ることは「時間的」な概念と言える。

因果関係を超えて

上の一連の流れは相互作用的だ。でもこれは、わたしたちがよく聞くインタラクション(Inter-action)とは異なるものだとビースタは言う。
「働きかければ応答がなされる」というように「因果関係のなかで関係を調整している」のがインタラクション。
自然科学の場合など、原因と結果で物事を説明すればわかりやすい。しかし、教室の授業においては、多くの偶発的なことが起こっている。また、子どもは社会的な関係のなかで学んでおり、その関係性は1対1と言えず複数とのやりとりだ。
コミュニケーションを中心に進められる授業実践において、因果関係だけでは、複雑で微妙な文脈のなかにある学びを説明するのは難しい。

デューイは、この流れをトランザクション(Trans-action)という言葉で表現する。
トランス(Trans)とは「一方から他方への移行」である。関係性の中で、常に変化し生成される動的なものと捉えるのである。
よってビースタはトランザクション(Trans-action)を、「環境との絶えざる相互作用の連続を一つの過程として」捉え、「関係性の中での変わりゆく出来事として」理解すべきと述べる。
バラバラに切り離すのでなく、かかわり合いの全体を、流れの中で捉えていくということだ。
子どもがこうして自己を更新していく営みを、学びと呼ぶのだろう。

「なすことによって学ぶ」(learning by doing)の意味は?

ここまでを踏まえると、「体験や身体を通すことが重要」との捉えは、 doingを「なすこと」「行動すること」とイメージすることからくる偏った見方かもしれない。
算数の時間、子どもが教室で未修の課題に向き合って思考し「わかった!」と思えたとき、そこには教材・教師・級友・学習環境などとのトランザクションが進んでいる。
座学であっても活動(活きて動くこと)は成立している。重要なのはdoingと言ってよい「対象との絶えざる相互作用の連続」ではないか、と考えるようになった。

大村 高弘(おおむら たかひろ)

静岡大学大学院教育学研究科特任教授


教員不足の問題がいろんな機会に取り上げられています。
でも教職は実に愉しくやり甲斐ある仕事ではないでしょうか。
その魅力を読者の皆さんといっしょに考えていきたいと思います。

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