子どもを見る目が180度変わった、イエナプランとの出会い―クラスがつらかった私を救った"リビングルーム"という発想
教員生活2~3年目、学級経営と子どもとの関係に悩んだ日々。
そこで出会った「イエナプラン」という考え方が、どのように私に希望の光をもたらしたのかを振り返ります。
合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員 川崎 知子
助けられてばかりの1年目、そして高学年担任へ
小学校教員初年度は2年生の担任でした。クラスが4つあり、学年の先輩教員が仕事をどんどん進めてくれ、新人教員として周りに助けてもらってばかりの毎日でした。クラスで困ったことがあった時や、保護者からクレームに近いような連絡帳が来た時には、すぐに私の指導教諭でもある学年主任の先生に相談に行きました。当時は無我夢中でしたが、今から思えば、かなり恵まれた一年目だったと思います。
2年目は5年生の担任になりました。「高学年女子は難しいから、なめられないようにね」など、たくさんのアドバイスを受けました。そして、力が入りすぎた結果、子どもたちに言うことを聞かせなければ、と注意するばかりの「嫌な先生」になってしまっていました。注意を受けるヤンチャな男の子たちから、「クソババア」「死ね」などと言われるようになりました。
(20年経った今でも、まるで様子をうかがうかのように「クソババア」と言われることがあります。最近は「まだクソおばちゃんくらいの年齢なんだけど…」と笑顔で返せるようになり、そうすると言った子も「クソでいいの?」と笑って会話が続くようになりました。たとえ「嫌い!」と言われても、「私は大好きよ」と返せるようになりました。)
学級経営に悩み、「退職」を考えた日々
その男の子たちとの関係がうまくいかないまま、持ち上がって6年生の担任になりました。教室に行きたくないなあ、という日もたくさんありました。クラスの様子について心配し、声をかけてくる保護者もいて、どうしたらいいか分からずに混乱することもありました。そんな時に私を支えてくれたのは、両親や友達、同僚の先生たちです。特に同期の先生とお互いの悩みを話し合えたのは大きな救いでした。学級経営に悩んだ時に助けてくれる同僚がいなければ、もしかしたら「退職」を選んでいたかもしれません。
たいていのクラスには、「勉強なんて嫌だ」という子たちと「真面目に勉強したいんだけど…」という子たちがいると思います。今の私ならば、両者の思いを受け止めて、学級経営をしていくことができると思います。ただ、当時は、両者の思いがぶつかり合うのをどうすることもできず、クラス全体がどんどんギスギスしていきました。今となっては、不甲斐なさと申し訳なさでいっぱいです。
「頑張れ!」から「安心できるリビングルーム」へ
このような辛くて、でも教師として確実に糧になったと思える2年間を過ごした後に出会ったのが、イエナプランでした。きっかけは、教育評論家の尾木直樹さんと、日本イエナプラン教育協会特別顧問のリヒテルズ直子さんの共著『いま、「開国」の時、ニッポンの教育』を読んだことです。オランダと日本の教育制度の違いに驚き、ちょうどリヒテルズさんが日本に帰国して講演会があるというので行きました。その講演会で、オランダの子どもたちの幸福度は先進国の中で1位であると教えてもらいました。特に主観的幸福度が高いという点に強くひかれました。
私は、質疑応答の時間に「オランダの子どもの幸福度が高いのがとても良いと思いました。小学校教員として、自分のクラスの子どもたちの幸福度を高めるためのヒントがあったら教えてください」と尋ねました。すると、「日本の学校の先生はすでに頑張っていらっしゃる。私から言えることはないわ」という答えが返ってきました。「頑張れ!しっかりやれ!」とばかり言われてきた私にとっては衝撃の答えでした。この一言に感銘を受け、リヒテルズさんの著書を読みあさり、帰国するたびに何回も講演会に行くようになりました。講演会で出会った友人と一緒に勉強会も開くようになりました。
当時、イエナプランの特徴で特に魅力に感じたのは、教室を「リビングルーム」と呼ぶということです。直訳すると「生活の場」であり、つまり、いわゆる学習だけでなく生活全般、さらに大きく捉えると生きることを学ぶ場ということになります。日本のリビングルームのイメージは、家族みんなでくつろぐ場所。「頑張れ!しっかりやれ!」とは正反対のイメージの場所なわけです。
自分がずっと言われてきた、いや、言われていると思い込んでいただけなのかもしれませんが、「頑張れ!しっかりやれ!」という言葉をそのまま子どもたちにも使ってしまっていたのではないかなと、ふり返り、反省するようになりました。
そして、オランダのイエナプラン20の原則の1つ目にある、
「どんな人も、世界にたった一人しかいない人です。つまり、どの子どももどの大人も一人一人がほかの人や物によっては取り換えることのできない、かけがえのない価値を持っています。」
今まで、私は子どもたちをクラスの一員、集団の一員としてしか見ておらず、一人ひとりのかけがえのない価値を考えていなかったなあと、またガツンと反省しました。
イエナプランはコンセプトなので、本を読んだり、セミナーに行ったりしてすぐに実践できるものではありません。けれど、「人生にとって寛ぐことって大事だよな」「どんな人もたった一人しかいない」「同じ人なんて一人もいないんだよなあ」と気がついたことを心の中に留めておきながら子どもたちに接することが、確実に私の教員としてのあり方を変えていったのです。
あの時、教室で悩んだ日々があったからこそ、「イエナプラン」との出会いは、私にとって大きな転機となりました。
教室を、子どもも大人も安心できる“リビングルーム”に。
そのヒントは、遠く離れたオランダにありました。
次回は、私がオランダで参加した1週間の教員研修と、その後の教室での実践についてご紹介します。

川崎 知子(かわさき ともこ)
合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員
元公立小学校教員。東京・広島の小学校で約20年勤務。
2017年からは家族とともにオランダに渡り、イエナプラン教育を学ぶ。日蘭イエナプラン専門教員資格を取得し、現地のイエナプランスクールでアシスタントとして2年間勤務。20校以上の小中学校を視察した。
帰国後は、広島県福山市立のイエナプランスクール開校に携わり、現在は日本イエナプラン教育協会理事。
不登校支援や特別支援教育、保護者との関係づくり、対話・探究・遊びを通して、子どもも大人も、安心できる学びの場づくりに取り組んでいる。
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