2022.12.26
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先哲に学ぶ~斎藤喜博から学ぶこと(3回)

斎藤喜博は、現在の学校教育に大きな影響を与えた教育者です。授業の重要性を説き、斎藤実践は全国に知れ渡りました。では、どのような人物だったのでしょうか。今回は斎藤喜博についてお話しします。

木更津市立鎌足小学校 山本 裕貴

【実践することによってだけ、自分を変えていくことができる】

斎藤喜博(さいとうきはく)を知っていますか。斎藤喜博は20世紀の後半に活躍した日本の教育者です。TOSSの最高顧問である向山洋一先生は『斎藤喜博を追って』(昌平社)という題名の本を書いています。では、斎藤喜博とはどのような人物なのでしょうか。

斎藤は1911年に群馬県で生まれました。小学生のときから、小学校教師を目指していたそうです。群馬県師範学校を卒業後、夢を叶えて玉村尋常高等小学校の教師となりました。
斎藤の名が全国で有名になったのは、島村小学校に校長として着任してからです。ここでの教育実践が注目を浴び、島村小学校には、全国から多くの参観者が集まりました。
1969年に退職したあとも、教師や教職を目指す学生に指導をするために、全国を巡りました。このことから、斎藤が与えた影響は、現在も学校現場に残っています。

齋藤は次のように述べています。
「教師でも子どもでも、実践することによってだけ自分を変えていくことができる。授業は、そういう意味での実践の場である」
授業は学校教育の中心です。「教師は授業で勝負」と言われることもあります。私たちのこのような意識は、斎藤の影響を受けているのかもしれません。
では、斎藤は授業についてどのように考えていたのでしょうか。

【創造と発見】

斎藤は自身の教育実践を『授業』という本にしています。この題名を眺めるだけでも、斎藤の教育観がわかります。そこで授業について、次のように語っています。
「授業は、教師や子どもに創造と発見の喜びを与え、子どもに、厳しい思考力とか追求力とかをつけ、教師や子どもをつぎつぎと新鮮にし変革させていくものである」
授業は「教師と子どもを変革させるもの」なのです。この言葉は、深く納得できます。私たち教師は、授業をすることで成長します。そこには「創造と発見」があるからです。自分はそのような授業をできているのか考えさせられます。

しかし、そのような授業をするには条件があります。それは「授業に対する考え方を根本的に変えていかなければならない」ということです。
従来の授業に対する考え方とは、教師のみが正しいことを知っていて、それを一方的に子どもに教えるというものです。齋藤はその考え方に異論を唱えたのです。
「真理とか正しさとか、それらに向かおうとする気持ちとかは、教師だけが持っているものではない。高さとか深さの違いはあるとしても、子どもにもそういうものはある」
これは、現在のアクティブ・ラーニングの源流となるものではないでしょうか。たしかに、教師に比べたら子どもは、文章の読み取りが浅かったり、間違っていたりします。しかし、真理や正しさに向かいたいという気持ちは、教師も子どもも一緒です。

「教材研究、指導法を工夫すると同時に、自分というものをふくらませ、高め、鋭くしていかなければ、指導とか授業とかの質を変え、高度化することは不可能である」
鋭い言葉です。教材研究や指導法も大切です。しかし、教師自身が向上しなければ、良い授業はできません。私の師である野口芳宏先生は、教師には修養の機会が欠けていると言います。たしかに、校内「研究」は数多くあります。しかし、校内「修養」は聞いたことがありません。私たちはもっと積極的に修養をすべきです。
では、齋藤の授業とはどのようなものだったのでしょうか。

【そんなところは出口ではない】

斎藤の有名な実践に「出口の授業」があります。次の文章を読んでください。

「あきおさんとみよこさんは、やっと森の出口に来ました。ふたりは、助け合いながらやっと家が見えるところまで来ました。つかれきって速く歩くことができません」

さて、出口とはどの場所のことでしょうか。この授業の中では、子どもたちは出口を「でるくち」という一般的な解釈をしました。すなわち「森と、そうでない部分の境」が出口だという結論です。その授業を見ていた斎藤は子どもたちに問いかけます。

「そんなところは出口ではない」

斎藤が考える出口は「森の中で、境に近い部分」です。これを聞いた子どもたちは驚き、教室は緊張につつまれます。そして自分たちの意見が真理に近いことを証明するため、猛烈に反論します。まさに、教師と子どもが議論し、創造と発見をしていく場面です。

「子どもたちが結論を出した解釈も正しいし、私の解釈も間違いではない。教育においては、どれが正しいかということではなく、つぎつぎと高い解釈、新しい解釈を発見し創造し、新しい別の地点に到達していくことに意味がある」

このような授業をすることが、子どもの思考力、追求力を高めることになるということです。斎藤の常に子どもを高いところへ連れて行こうとする姿勢から、学ぶことは多いと感じます。

というわけで、今回は「斎藤喜博」についてお話ししました。少しでも参考になれば嬉しいです。最後までお読みいただき、有難うございました。

山本 裕貴(やまもと ゆうき)

木更津市立鎌足小学校
千葉大学大学院教育学研究科学校教育学専攻
木更津技法研所属

高校、特別支援学校、小学校算数専科を経て、現在小学校の学級担任をしています。
人を幸せにするには、どうすれば良いのか。たどり着いた答えが小学校の先生でした。
教育の根本・本質・原点を問い続けていきます。

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