教科書の活用
社会科の授業において教科書はどのように、そしてどれくらい活用されているでしょうか?
この連載でも何度も社会科は「一から教材をつくりやすい」「教材をつくる楽しさがある」といった趣旨のことは書いてきました。そのため、もしかすると教科書をあまり活用していないと思われているかもしれませんが、もちろん大いに活用しています。ただ、様々な学校の研究会に参加しても教科書をメインとして授業づくりをされている授業や発表を見る機会が少ないような気がします。これは私が知らないだけかもしれませんが、ニーズは高いにも関わらず教科書の活用についてはそんなに語られていないように思います。
大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作
各学年での活用
基本的に3、4年生は各地域でつくられている副読本を活用し、5、6年生は通常の教科書を活用していると思います。3、4年生は、基本的に地域の学習になりますので、副読本なら資料がそのまま使えたり、テストやワークシートもそのまま使えたりするから使うのはごく自然な流れだと思います。となると、3、4年生の教科書は活用できないのかというとそういうわけでないでしょう。副読本で自分たちの地域について学習した後に、教科書に掲載されている地域と比較することがひとつ考えられます。また、単元の「調べ方」のページや「まとめ方」のページを参考にしたり、活用したりすることもできるでしょう。さらに、3年生の消防や警察の学習、4年生の水道(必ずしも水道でなく、電気やガスでもよいですが)の学習などは、地域ごとの相違点は比較的少ないので、副読本ではなく教科書を活用できるでしょう。
しかしそうは言うものの、やはり主に時間数の関係で私自身も3、4年生では、ほぼ……というかすべて副読本のみでやってしまっています。ただ、教科書を活用しないのはもったいないと思っています。
教科書の構成から
社会科の教科書は、基本的には見開き2ページが1時間として構成されています。教科書の紙面上は、中心に本文、本文の周りに写真、グラフ、絵、図などの資料で構成されています。また本文は、「問い」「関係する人の話」「説明」「キャラクターのつぶやきや対話」といった内容で構成されています。本文と周りの資料はそれぞれ関連があり、本文の内容と何かしら対応関係にあるでしょう。岡崎(2013)は、この本文を詳細に分析し、本文を以下の7つに分類できるとしています。
関心・意欲・・・学習者に興味・関心、意欲付けを示す記述
事実確認・・・社会事象や歴史事象に関する事実の確認を示す記述
知識解説・・・複数の社会事象や歴史事象が関連づけられ、知識として解説される事実
努力・工夫・・・生産や販売、労働等や歴史事象における人物等に関わる努力や工夫に関わる事実
価値・・・生産や販売、労働等や歴史事象の意義などに関わる記述
学習問題・・・単元及び本時の学習問題に関わる記述
学習指示・・・学習活動に関する指示等に関わる記述
岡崎氏は、この分類をもとに資料との関係を分析すると、本文に対する資料が圧倒的に不足していることを指摘しています。つまり、本文を理解するためには、その理解を助ける資料がもっと必要ではないかということです。現在、法的な問題で紙の教科書と同様のレイアウトではないとデジタル教科書にできないそうです。
教科書のみ
私が所属する「山の麓の会」という教育サークルで、一度、「教科書研究」をしたことがあります。その研究で教科書の活用モデルとして以下の4つを定義しました。
①教科書のみ ②教科書+α ③教科書比較 ④教科書使用なし
①教科書だけを使って授業をつくる
②教科書に少し資料など教材をプラスして授業をつくる
③教科書を何社か比較して共通点や相違点から授業をつくる
④教科書は活用せず自作教材で授業をつくる
ーーという意味ですが、面白かったのは①の教科書のみ、です。
結論から言うと「教科書のみ」の授業はかなり苦しかったということです。会のメンバーと何度も検討を重ねたのですが、やっていることは目標を見据えて「どの資料」を「どの順番」で「どのような発問」で問うのかを考えることだけでした。検討の際には「こういう資料があったらいいのに……」と思うことは何度もありました。岡崎(2013)の指摘する資料不足を実感したのでした。
個人的に研修をするときにも、教科書だけで授業をつくる演習をさせていただいています。その際にもやはり教科書のみでつくることは難しいと感じられるようです。昨年12月に大学生に演習をしましたが、その際にも「これ、この教科書に載っている資料だけですか?他はだめなんですよね?」と聞かれました。こうやって聞かれることが難しさを物語っていると思います。
ただ、これは一事例です。内容によっては、教科書のみだけでも子どもが興味・関心をもちながら深い学びになる授業は可能だと思います。教科書のみで授業をつくることができれば、社会科授業に苦手意識のある先生方や教材作成に物理的に時間をとることができない先生方の助けになるでしょう。
岡崎(2024)は、新しいデジタル教科書の提案として「インデックス法」を提案されています。「教科書の本文を学習問題(導入)、事実の説明、探究と3つの段階で目次化して捉え、各段階で不足している資料をデジタル教材として共有型アプリにデータとして提供し、目次化した本文と関連させて学習ができる」ようです。授業をつくる際には、3つの段階の資料を確認し、どれを活用して、どういう順番で提示して発問するのかといった教材研究が可能になり、持続可能な教材研究になるように思います。
今後はこのような面白く実用性の高い教科書も開発されていくように思います。
参考資料
- 岡崎均(2013)「社会科教科書のデジタル化に関する基礎的研究―メディア分析による教科書の構造の解明と課題ー 」兵庫教育大学 教育実践学論集 第14号,pp.111-122
- 岡崎均(2024)「インデックス法による社会科デジタル教科書・教材の設計と開発―共有型アプリ「ロイロノート」を活用した小学5年「新しい農業技術」の事例開発を手がかりにー」社会系教科教育学会,社会系教科教育学論叢第4号,pp.3-14
- 佐藤正寿監修・宗實直樹編著・石元 周作・中村 祐哉・近江 祐一著(2022)『社会科教材の追究』東洋館出版

石元 周作(いしもと しゅうさく)
大阪市立野田小学校 教頭
ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。
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