2022.11.15
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

先哲に学ぶ〜着語を知っていますか?〜(1回)

私たちが行なっている指導法の多くは、先哲たちによって作り上げられたものです。その中でも今回は「着語」に焦点をあてて、お話しします。

木更津市立鎌足小学校 山本 裕貴

【先哲に学ぶシリーズ】

こんにちは。山本裕貴です。今回から新しいテーマで連載をしていきます。「何をテーマにしようかな」と迷ったのですが、これに決めました。

「先哲に学ぶ」

私たちが何気なく使っている指導法は、先哲たちによって築かれたものが殆どです。そのような背景を知ることが、教師としての修養につながると思います。
今回の連載が、少しでも皆さんのお役にたてるなら、それほどうれしいことはありません。

【どのように出合わせていますか?】

物語文の学習では「子どもと作品との出合い」が極めて重要となってきます。子どもが初めて読むときに、期待感を持ったり、わくわくしたりすることが大切です。それが、その後の学習意欲となるからです。
皆さんは、どのように作品と出合わせていますか。範読したり、朗読を聞かせたり、子どもと一緒に音読したりと、様々な手法があると思います。

多くの手法がある中で、私が必ず実践しているのは「着語(ちゃくご)」を取り入れた範読です。着語とは「教師による作品の解説や感想」です。着語を取り入れた範読は「着語読み」と呼ばれます。
意識せずに、このような範読をしている先生も多いと思います。何故なら、物語文の指導法として、大変効果的だからです。
着語について、もう少し詳しくお話しします。

【芦田惠之助】

芦田惠之助(あしだえのすけ)という方を知っているでしょうか。昭和初期に活躍した教育者です。芦田氏は、教育現場での経験をもとに、国語教育について研究をしていきます。中でも有名な実践が「芦田教式」と呼ばれる国語授業の形態です。
芦田教式とは別名「七変化(しちへんか)の教式」とも呼ばれることから、1コマの授業を7つの区切りで展開します。

1   よむ→教材を子どもに読ませる
2   とく→学習の課題を見出させる
3   よむ→範読をする(着語読み)
4   かく→視写をする
5   よむ→板書内容を読ませる
6   よく→内容について考える
7   よむ→振り返りをさせる

芦田氏は「3よむ」の段階で着語読みをします。しかし、私が着語読みをするときは、授業の最初に行います。それは次のような理由からです。

【2つの機能】

芦田氏は着語について次のように述べています。

「私は読んでいくうちに着語を所々に挟みます」
「単なる注釈ではなく、注釈者読後の直感といったものです」

つまり着語読みとは、解説だけでなく、教師の作品に対する感想も入れることが重要だということです。芦田氏はなぜ、このようなことをするのでしょうか。

「ただ読むよりも、所々に私の読後の生々した感じを挿し加えて語るのが、聞く児童も面白かろうと考えて、試みたのでした」

ただ作品を読むより、先生の感想を入れたほうが、子どもが興味をもつと芦田氏は考えていました。これは、私たちも納得できるのではないでしょうか。ただ淡々と読むよりも、読みながら先生が「この表現はいいよなあ」などと言葉を挟むことで、子どもは作品に興味を持ちやすくなるでしょう。
このことから、私は着語読みには2つの機能があると考えます。

機能①文章の理解を促す
機能②子どもの興味を高める

着語読みをすることで、子どもが作品を理解しやすくなったり、作品への関心が高まったりすると考えます。ですから、私は授業の最初に着語読みをします。そうすることで、子どもの作品に対する意識が変わります。
では、実際はどのようにすればよいのでしょうか。

【着語読みをする前に】

着語読みをするには、2つの要素が必要となってきます。それは「作品に対する知識」「作品に対する感想」です。知識がなければ、解説はできません。
例えば、モチモチの木で「峠」という言葉が出てきます。峠が山のどの部分にあたるか、知っておかねば解説はできません。
※ちなみに峠とは「山の上りと下りの境目」です。

また、作品を読んだ感想を、教師自身が持っていることも大切です。そうした教師の思いや、作品を愛する気持ちが子どもに伝わったとき、子どもも作品に興味を持つのです。
「作品に対する知識」と「作品に対する感想」を持つためには、素材研究が重要です。私の師である野口芳宏先生は「素材研究とは教師づらをせず、一読者として作品を読むこと」と仰っています。素材研究については、以前の連載で書かせていただきました。よろしければ、ご覧ください。

【やり方】

では、実際の着語読みとはどのようなものでしょうか。「モチモチの木」を例に説明します。

「」→本文   『』→着語

教師「モチモチの木」 
『モチモチの木だって。聞いたことあるかな。どんな木だろう。なんか美味しそうな木って感じがするなあ』

教師「まったく、豆太ほどおくびょうなやつはいない」 
『登場人物出てきたね。豆太はどんな子だと思うかな』

教師「もう五つにもなったんだから、夜中に一人でせっちんぐらいに行けたっていい」 
『豆太は何才かな。先生が五つのときはおくびょうだったかも』『せっちんというのは、トイレのことだよ。昔の家はトイレは建物の外にあったんだよ』

このように「解説」と「感想」を交えながら読んでいくことで、子どもは作品の内容を理解しやすくなり、興味関心も高まると考えます。是非、一度やってみてださい。

【子どもも教師も楽しく】

着語読みをするメリットは「教師も楽しくなる」ということだと思います。

私が初任者の頃、物語文の授業はひどいものでした。私が文章をそのまま読んでいるだけでした。きっと子どもたちはつまらないと思っていたでしょう。
読んでいる私自身も、その教材を面白いとおもっていませんでした。子ども向けの読み物と決めつけていたからです。素材研究が足りなかったのです。その教材の本当の面白さに気づくことができていませんでした。

着語読みに出合ってから、私の国語授業は変わりました。着語読みをすると、子どもが楽しそうにしてくれます。そして、私も楽しいのです。着語読みには「子どもも教師も楽しく」する効果があります。
​​​​​​​
というわけで、今回は「着語」についてお話ししました。ここまで読んで頂き、有難うございました。

参考資料
  • ・国語教育易行道 芦田惠之助 同志同行社 昭和10年

山本 裕貴(やまもと ゆうき)

木更津市立鎌足小学校
千葉大学大学院教育学研究科学校教育学専攻
木更津技法研所属

高校、特別支援学校、小学校算数専科を経て、現在小学校の学級担任をしています。
人を幸せにするには、どうすれば良いのか。たどり着いた答えが小学校の先生でした。
教育の根本・本質・原点を問い続けていきます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop