2022.05.18
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文学作品における「言語活動」によって培う「学力」とは?

今回は、文学作品における「言語活動」によって培う「学力」について紹介します。
これは、前回の記事「物語と道徳の違いを説明できますか?に引き続いてのものになっています。

明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治

前回は、文学作品を扱う授業において学習する目的に「文学的認識力の育成」と「言語化能力の育成」とがあるとした上で、「文学的認識力」についての下位概念について紹介しました。今回は、もう一つの「言語化能力」の下位概念について紹介します。

1.「言語化能力」とは

そもそも「言語化能力」という言葉は、浜本(1997)が感情や物の見方を言語で言い表す力と定義しています。つまり、「文学的認識力」を高めても、それを言葉にできなければ意味がありません。読む、書く、聞く、話すための技能である「言語能力」ではなく、形象的に捉えた「文学的な認識」を自分の「言葉」として具現化する「言語化能力」こそが「文学的認識力の育成」と往還する際には、重要であると考えています。

一つ目の文学的認識力を育むという、所謂「文学教材を教える」ものであるのに対して、この二つ目の「言語化能力の育成」は、「文学教材で教える」ものであると言えます。甲斐(1985)は、「文学教育と言語教育という二元論的見方は通用していない」[i]とし、「いずれか一つではなくて両方の学習指導が大切であって、両者をどのように構造化し、有機的に関連付けるかを深める段階にきているのである」[ii]と述べています。

また、先述したように、文学的認識力を育む上で、いくら人間の本質を捉えられたからといって、それを言葉にできなければ意味がありません。井上(2007)も「子どもは、生活の中でいろいろ経験したことを言語によって意識化し、さらに抽象化・一般化することによってそれを知識(科学的)概念として頭の中に定着させる。」[iii]と述べ、言語化することの重要性を説いています。また、浜本(1997)も、「感情や物の見方を言語で表す力を言語化能力と言い、ある言葉に新しい生命を吹き込んで蘇らせることを『言葉の新生』という。私たちは、言語化能力を育て、自らの内に『言葉の新生』を感じとる能力を育てたい」[iv]と述べています。現実世界や人間の本質を理解する際に、それを言語化することで、より確かに捉えることができます。

そういう意味でも、「言語能力の育成」ではなく、「言語化能力の育成」が重要になってくると考えています。

2.「言語化能力の育成」の下位概念

ここには、「論理的思考力」に加え「批判的思考力」「情意的能力」を下位目標に配置しました。まず、言語化能力の下位概念として2種類の「思考力」をもってきたのは、桑原(1996)が「言語活動をさらに分析すれば、聞く・話す・読む・書くといった四つの活動に分けられる。これら四つの活動は、人間の『考える』という内的な精神的活動に支えられている」[v]と述べていることからも、妥当であると考えられたからです。そして、詳しくは、次回以降の本記事で紹介する予定にしていますが、私の実践では、文章から読み取った作品の「思想」について「批評・評価」することを大事にしています。「批評・評価」するにあたって、その作品の「思想」に対して、「評価・批評」するという点から、「論理的思考力」や「批判的思考力」が働くと考えられます。

また、「言語化能力」の下位概念として「情意的能力」も位置付けています。田近(1983)は、「態度的なものについて言うならば、あいまいなものを学力から切り落とすというのではなく、あいまいなものを客観的実在としてとらえ直し、形成可能な学力として組み直すということである」[vi]とし、藤岡(1979)は、「対象の構造が確定していれば、計測尺度構成の可能性は原理的に与えられている」[vii]と述べています。これらのことからも、「情意面」といえども、どういった「情意」を測るのか、つまり「学力」の範囲内で対象の構造を明確に措定していれば、計測可能であると考えられる為に、「情意的能力」を学力の中に含めています。そして、それは、言語化され児童から表出されたものから測るということを鑑み、目的の一つの「言語化能力」の下位目標に位置付けました。

[v] 桑原隆「言語生活者を育てる=言語生活論&ホールランゲージの地平=」東洋館出版、1996年、p.14
[vii] 藤岡信勝「計測可能性と学力」日本教育方法学会『学力の構造と教育評価のあり方』明治図書、1979年、p.101

川上 健治(かわかみ けんじ)

明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。

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