2020.03.24
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低学年における国語授業の一時間(第9回)

今回は、最後の記事ですので、5つの項をおこして「低学年における国語授業の一時間」をまとめていきたいと思います。

明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治

その1  大前提として・・・

授業を円滑に理想に近づけるためには、まずは学級を安定させることが必要不可欠です。これは以前にも書いたことですが、どんなにいい授業をしようと、どんなに魅力的なめあてを考えたとしても、そこに子ども達の横の繋がりや、自治的集団が形成されていなければ、主体的な学びにはなりません。これは、経験から言っても断言できます。だからこそ、4月の段階で、必死に子ども達の横の関係や自治的集団になっていくための種を撒いていきます。クラスが安定してくると授業が何倍も楽しくなります。少なくとも私は・・・。

その2  授業の流れのルーティン化をする(ハード面)

クラスが安定してくると、次は(細かく言うと並行していますが)、授業の流れを作っていきます(詳しくは第2回の記事へ)。私は、授業の流れを書いた司会の台本を渡し、それに沿って子ども達に授業の司会をさせています。理由は多々あるのですが、一番の理由は、子ども達に見通しをもたせるためです。例えば、私は司会の台本の最後に「振り返り」を入れています。しかも、その振り返りの内容は、「○○さんのおかげで分かったこと」「○○さんのおかげで新しく気がつけたこと」等々何をどういう観点で書くかまで決めています。1時間単位の授業のゴールがここにあるので、子ども達は友だちの意見を聞こうとします。なぜなら、聞かないと、授業最後の振り返りを書くことができないことを知っているからです。このように、授業の流れをルーティン化して、子ども達に受けてもらうことで、子ども達も何をすべきかが明確になって、集中できます。また、他にも、子ども達が司会をすることで、自分たちで授業を創っているんだという自治の醸成にも繋がったり、教師にも余裕が生まれ、その分、勉強のしんどい子のフォローもできたりします。私は、今年1年生の担任でした。流石に1学期は、無理ですが、2学期からは、じゅうぶんに始めることができます。そして、今の子達はきっと2年生になっても、自分たちで授業を創り上げる意識をもって授業に臨めることでしょう。そうすると、2年を受けもった次の担任も、もちろん子ども達も非常にやりやすくなります。教師は今学年から次学年へのバトンパスの連続だからこそ、むしろ、1年生の2学期から始め、これをどの学年にもバトンパスしてほしいものです。すると、6年生になる頃には、最高の学び手になっているはずです。

その3  魅力的なめあての作り方(ソフト面)

さて、授業の流れもルーティン化してくると、授業がスムーズに進みだします。しかし、自分たちで授業を創り上げるということとは相反していますが、淡々とした授業になる危険性があります。低学年の子だと、最初こそ、自分たちで進めるんだというワクワク感やドキドキ感があるものの、しばらくすると、それも薄れていきます。もちろん、そうならないような学び手であるべきですが、クラス全員がとなると非常に難しいです。そこで、クラスのどの子もが、主体的になれる「魅力的なめあて」を提示してあげる必要があると最近強く感じます。「めあて」は、「振り返り」前の「まとめ」に向かって、自分と、そして友だちと考えるべき課題です。この課題がつまらなく、なぜやっているかが子ども達に分からなければ、やらされている感満載になっていってしまいます。逆に、この課題が、子ども達にとって魅力的で今にも食いつきたくなるようなものであれば、自然に主体的になれます。これも考えたら当然のことです。当然のことですが、子ども達に提示するこの「めあて」をないがしろにしてしまいがちです。

では、どうしたら「魅力的なめあて」になるのか。大きく2つ紹介します。

1つ目は、子ども達の一読後の感想から疑問を抽出し、それを起点にめあてを考えていくパターンです。「○○さんが△△のような疑問もってたんだけど、みんなで力を合わせて解決しない?」というような感じです。しかし、これも全てを子ども達の疑問に合わせてしまったら、本来習得すべき国語の力が習得できません。そこは、よく吟味をして、取捨選択する必要があります。また、習得させたかったり、気づかせたかったりする必要があるのに、子ども達はそこをスルーしてしまうパターンもあります。そんな時は、教師が作り出します。そこでは、丁度、少し前に読んだ「仕掛学」(2016.東洋経済新報社)の考えを参考にしています。この本の著者である松村真宏さんは、この本の中で
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仕掛けによって行動を変えた結果、本人の意図にかかわらず問題が解決される。トイレの的の例では、本人はただ的を狙いたいから狙っているだけだが、結果的にトイレを綺麗に使うことに貢献している。
このように人に何かしてもらいたいときに、直接お願いするのではなく、その人の興味と行動を結び付けて結果的に問題を解決させるほうがうまくいく場合は多い。面倒だったり、面白くなかったり、相手の気が進まない場合には特に効果的である。
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(松村真宏『仕掛学』東洋経済新報社 2016.10.p54-55)
以前は、ここでビデオ視聴の方法を紹介しました。また、敢えて書き間違えた文を提示して、そこから「何で間違っていると言えるの?」と問い返すパターンや人物像をウェービングマップで洗いざらい出させ、気持ちの変化を視覚化させてから「何で変わったの?」というように子ども達の文脈からめあてを作り出す方法もあります。常に、子ども達はこのめあてを提示した時に「どういう反応をするだろうか」「食いついてくれるだろうか」ということを意識して考える必要があります。ただし、低学年は楽しすぎると違った方向にいってしまい、本来の目的からずれてしまうので、そこはクラスの状態を見ながら留意しなければなりません。

その4  グループトークもルーティン化(ソフト面)

魅力的なめあてが提示できれば、自然に子ども達は考え出します。ここでは、まだまだ子ども達の考えはまとまっていないので、いきなり話し合い活動にはうつさせません。まずは、伝えたくてはやる気持ちを抑えつつ、一人学びの時間を5分間とります。そこで、ノートに自分の考えを書き出してから、グループトークにうつります。グループトークについても、私のクラスでは「グループトーク㋪攻略本」と称した台本を班長に渡し、ルーティン化させています。
その台本を図として載せています。これもルーティン化させると、子ども達は、時間がきたらさっと準備をし、動き出します。もちろん、1年生からスタートする場合は、練習が必要です。私の場合は、「好きな食べ物は何か」からグループトークの練習をしました。そこで、上手にグループトークをしている班を抽出し、みんなでその班のグループトークの様子を見学します。そこで、私が途中で、「今のここが良かった」という価値づけをしていきます。しばらくの間、毎日のように繰り返し練習してから国語の授業でも使い始めました。1年生でもじゅうぶんにできます。また、図でも分かるようにこのグループトークでは、「お尋ね」をすることを必須条件としています。この「お尋ね」がなければ深い学びにはならないと考えます。(詳しくは第3回参照

その5  次に繋がるまとめ

ルーティン化されたグループトークも全体交流も終わり、いよいよまとめの段階にきました。まとめをしない授業やまとめが「今日の授業は楽しかった」のようなものを散見することがあるのですが、私は、「めあてに対する答え」がまとめだと考えています。例えば、「たぬきの糸車」の授業で「きこり夫婦のいかりレベルは?」というめあてを提示したとします。これに対する「まとめ」は「きこり夫婦はたぬきにかなり怒っている」といった感じになります。この「まとめ」を自力で書かせることが、その授業の評価にも繋がっていきます。グループトークや全体交流を通してめあてに対する答えが自分なりの言葉でしっかり書けたらA評価になります。
以上、低学年の国語授業の流れについて紹介させて頂きました。高学年も基本的には変わりません。変わるのはレベルです。またの機会に高学年バージョンも紹介できればなと思います。今期はこれで終わりになります。微力ながらどこかの先生方の参考になればと思い書いてきました。半年間どうもありがとうございました。

川上 健治(かわかみ けんじ)

明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。

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