2020.03.04
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ユニバーサルデザインを意識した国語授業~たぬきの糸車編~(後編)

今回も、ユニバーサルデザインの手法を使った授業提案をしたいと思います。教材は前回と同じ『たぬきの糸車』です。また、「魅力的なめあて」の必要性や物語に奥行きをもたせる重要性も書いています。

明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治

今回は、『たぬきの糸車』の授業実践の後編です。前回は、『たぬきの糸車』の授業で必ずおさえるべき論理的な読み方である作品の設定や視点、中心人物の変化について書きました。今回は、クラスの全員が参加しやすくなるための手立てを2つ実際の授業場面をもとに紹介していきます。

まず1つ目です。クラスの全員が参加したくなるには、「魅力的なめあて」が必要不可欠であると考えます。誰もが、めあてを提示するや否や「ハイハイ」「先生、だってなー」という前のめりになりそうなめあてが……。この魅力的なめあてには2つのパターンがあります。

1つ目は、「子ども発の疑問からつくられためあて」です。これが一番本質的なものです。以前に、この教育つれづれ日誌でも書きましたが、私は必ず初発の感想で「おもしろいところ・不思議に思うところ・驚き」の3観点を書かせます。その中から、私が考えていた授業デザインとばっちり合う疑問をみつけ、めあてに昇華していきます。こう書くと、中には、「教師の都合で子どもの疑問を取捨選択するのか」という否定的な意見もありそうですが、もちろん、教師の都合で取捨選択しなければなりません。30人以上の子ども達の疑問の中には、授業で使えそうにない、疑問もあるわけです。それらを全て取り上げていては、ゴールがぶれます。従って、単元計画をする中で、自分の中でぶれない1本の軸をもっていれば、どの疑問を取り上げ、どの疑問を軽く流すのかが見えてきます。その取り上げた疑問をめあてにすると、子ども達が考えたくなるような魅力的なめあてになります。  

今回のたぬきの糸車の授業では、中心人物の変化を学習する前の「きこり夫婦のたぬきに対するいかりレベルは?」という授業段階で、「いかりレベル考えてたらおかみさんの気持ちが変わってたよー」という子が数人いました。そこで、「ほんまかー。それならどこらへんでどんなふうに変わったか、次の授業で考えたら面白そうやね」ということを伝えました。当然、次の授業は、「おかみさんの気持ちは本当に変わったの?」です。中心人物であるおかみさんの気持ちの変化は、予め、私の中では、単元計画の中に含めていたもので、子ども達の疑問がなくても次の時間に取り上げる予定でしたが、このつぶやきがあったからこそ、子ども達にとっては、考える必然性ができ、「魅力的なめあて」になりました。

2つ目は、「教師が工夫した教師発のめあて」です。例えば、「冬の間、たぬきが糸を紡いでいた理由」を考えさせたいとします。しかし、なかなか子ども達からは、そのような疑問がでません。子ども達は、なんとなく、自分でも気が付いていない状態で「いたずら」か「恩返し」かという考えがあるのです。しかし、自分の中でも意識をしていない為に、疑問となりにくいのです。そこで、「冬の間、たぬきが糸を紡いでいたのはなんでだろう?」とめあてをいきなり提示しても「魅力的なめあて」になりません。まずは、考える幅が広すぎるのに加え、そもそも子ども達が、考えたくなるとも思えませんよね……。しかし、糸を紡いでいた理由は考えさせたい。ここで、教師である私が仕掛けた工夫は、「教師がいたずらかお礼か分からないとボケる」ことです。これをすることで、子ども達が無意識に、もっていた考えを意識化させ、考えたくなるようにします。「そういえば、いたずらなんかな?お礼なんかな?」という感じです。どうボケたかというと学年の先生に協力をしてもらい、あのM-1王者ミルクボーイの漫才の真似をしてもらいビデオに撮り、前時の振り返り(「たぬきは、冬の間、たくさんの糸を紡ぐことで、糸車を回すのが上手くなった」という振り返りです)が終わった後にみせたのです。以下は、そのやり取りです。

私「昨日、T1先生とT2先生が、分からんことあるって話し合っててん。その様子ビデオに撮ったからちょっとみてくれん?」

ビデオを流す
T1「あのさーたぬきの糸車の授業で分からんことがあるんだけど」
T2「たぬきの糸車で分からないことがあるってどういうことですか?」
T1「色々考えたんですけど、全然分からないんです」
T2「そしたら、一緒に考えたるから、何が分からないか言うてみて」
T1「いや、あのね。たぬきが、冬に糸を紡いだのは、いたずらだったんかということです」
T2「いたずらやがな」
 「だって、いたずら好きのたぬきやで」
 「すぐ分かるよ。こんなもん」
T1「いや、私もいたずらや思っててんけど、一人でいたずらするかな?」
T2「ほな、いたずらと違うか」
 「一人でいたずらは、寂しいもんな」
T1「でも、いたずらが好きやろ」
T2「ほな、いたずらやんか」
 「いたずらで決まりや」
T1「いや、たぬきは、おかみさんにも助けられてたやろ?お礼というのもあるかもしれんやろ」
T2「ほな、いたずらちゃうやんか。お礼で決まりや」
T1「でもな……。いたずら好きやろ」
T1.2「分からんなー」

私「なんか、解決できなかったみたいやから、みんなで考えて答え出してくれへん?」

以上の流れから「たぬきが糸を紡いでいたのは、いたずら?」というめあてを提示しました。すると、子ども達は、前のめりに考え出します。好きな学年の先生が、しかも、今を時めくミルクボーイの漫才風なことをしているとなると、少なくとも、「冬の間、たぬきが糸を紡いでいたのはなんでだろう?」というめあてよりも主体的になれます。

教師の一工夫で、「魅力的なめあて」になるのです。魅力的なめあてを提示することで、クラスの子ども達全員が考えたくなります。考えたくなって考えた自分の意見には、こだわりがもてます。こだわりがある者同士の交流は、深い学びを産む可能性が高くなります。だから私は、これからも、「魅力的なめあて」を考え続けます。

ここまで、「魅力的なめあて」の提示について書いてきましたが、考えたくなっても、なかなか考えられない子がいるのも事実です。物語に入り込み、その話の中を生きられない子の多くは、物語文をただの文字としか捉えられていないのです。だから、「可愛いと書いているから可愛いと思います」という意見が出てしまうのです。つまり、文字という表面上の捉えでしかなく、物語を奥行きのもったものとして捉えられていないのです。そこで、「物語に奥行きを」という考えで、登場人物を出来るだけ、動作化をさせ、リアルな感覚で考えてもらいました。特に、このお話で、ないがしろになりがちな「きこり」の存在を際立たせてやることで、このお話は何倍も奥行きが出ます。具体的な実践でいうと、「もし、きこりがそこにいたら……」という架空の設定を使いました。きこりは、たぬきに罠を仕掛けた張本人です。それを利用して、「おかみさんがたぬきを逃がした、その夜に行われたであろうきこり夫婦の会話」について考えさせました。きこりを登場させることで、きこりはまだ怒っているのに対して、おかみさんはたぬきをかばうようなセリフが出てきます。

き「なんで、逃がしたんじゃ」
お「まぁまぁいいじゃないですか」

といった感じです。きこりを登場させ、この会話を考えさせることで、「おかみさんのたぬきに対する思い」を際立たせることができます。この所謂「脇役」に注目し、物語に奥行きをもたそうと思えたきっかけは、長崎伸仁先生と桂先生がお二人で書かれた「文学の教材研究コーチング」を読んでからです。この本には「脇役」の重要性が書かれています。 
確かに考えてみると、ドラゴンボールにはクリリンやベジータがいます。コナンには、蘭姉ちゃんや小五郎さんがいます。どんなアニメでも、脇役がいてこそ主役が引き立ち、話が、より面白くなります。しかし、学校の国語の「授業の物語」となると、ついつい中心人物に目がいき、脇役をないがしろにしてしまいがちになります。これは、お話を文字でしか読んでおらず、頭の中でより具体的にイメージをしていないからだと思います。今回の「きこりが罠を仕掛ける場面」でも、おそらく、ドラマやアニメでは、単独のカットがあり、結構な重要なシーンとして描かれるでしょう。しかし、教科書の本文になると、1行程度でしか扱われていない為に、ついサラッと読んでしまいます。そこを、教師があえて取り上げ、動作化させたり、会話をさせたりすることで、「あっ。脇役のきこりのことまで考えて読んだら、前より面白くなったぞ。次のお話も、出てくる登場人物全てを意識して読んでみよう」と子ども達が思えたら、この授業をする価値があったと思います。

以上、今回は、全員参加できる授業にする為に、たぬきの糸車の授業を基に手立てを2つ紹介させて頂きました。指導案もPDFで載せているのでご参考になれば幸いです。

川上 健治(かわかみ けんじ)

明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。

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