2020.02.13
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ユニバーサルデザインを意識した国語授業~たぬきの糸車編~(前編)

今回は、ユニバーサルデザインの手法をふんだんに使って、1年生最後の物語教材「たぬきの糸車」の実践を紹介したいと思います。まずは、前編です。

明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治

最近でこそ、広く「ユニバーサルデザイン教育」という言葉が広く知れ渡りました。私がユニバーサルデザイン教育と出会ったのは今から7年前です。それまで、私は、塾の国語講師として、文章読解のテクニックを中心に小中学生を指導していました。例えば、逆接の後は、「筆者の意見がある」、「指示語を具体化して考える」等々です。そんな中、塾講師から小学校教師になって、最初は国語の授業に常に違和感を抱いていました。それは、例えば、「~の気持ちを読み取ろう」というめあてに対して、子どもに取り組ませたとします。子ども達が、色々な解釈を言います。そして、授業が終わっていきます。事後研では、「たくさんの意見が出ていて良かったです」という感想……。「そりゃ学校の勉強が分からないと言って塾に来るな」と思ったのを今でも強く覚えています。つまり、「次に何も繋がらない単発の読み取り」だけを行っていたのです。そこには、「次の物語に出合ったときに自力で読める方法」を教えることはありませんでした。しかし、私も小学校教師の経験も浅く、どう改善していけばいいか悩んでいました。そんな中、筑波大学付属小の桂先生が立ち上げた「授業のユニバーサルデザイン研究会」に出合いました。曖昧な部分が多い国語の授業に「論理」を目標とするという言葉は私の中にもすとんと落ちました。また、授業レベルを下げるのではなく、特別支援教育の視点を入れつつ、ねらいを絞ることで、「どの子にも分かる」授業を作るということにも興味が湧きました。それからは、ユニバーサルデザインの考え方を基盤として日々、授業研究をし続けています。
そこで今回は(も?)、今まで勉強してきた全てを出し切り、1年生最後の物語教材「たぬきの糸車」に挑みます。前置きが長くなりましたが、そんな授業実践を紹介させて頂きます。
まず、指導にあたっては、お気に入りの昔話を紹介するという単元のゴールを決めます。その為に、他の昔話を自力で読み取れなければなりません。そこで、自力で読み取れるためにも、
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① 作品の設定
② 視点
③ 文学特有の表現技法
④ 中心人物の変化
⑤ 主題
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の5つの文学の論理的な読み方(西尾市立西野町小学校『文学授業のユニバーサルデザイン』2014.東洋館出版社)の中から、本単元では、①作品の設定・②視点・④中心人物の変化を学習していくことにしました。また、論理的な読み方を習得する手立てとして、以下の10の教材のしかけの一部を用いました。
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① 順序を変える
② 選択肢をつくる
③ 置き換える
④ 隠す
⑤ 加える
⑥ 限定する
⑦ 分類する
⑧ 図解する
⑨ 配置する
⑩ 仮定する
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(授業のユニバーサルデザイン研究会沖縄支部『教材に「しかけ」をつくる国語授業10の方法』2013.2.p2)
国語授業に上記の「しかけ」を使うのは、あくまで、論理的な読み方を習得して、より深く豊かに物語を読み取れるようにするためです。「しかけ」が目的にならないように留意しなければなりません。
さて、まずは作品の設定ですが、時・場・人物の3観点を中心におさえます。たぬきの糸車は全部で5場面、場所は山奥、中心人物はおかみさんであるということを第一次で確認していきます。その際は、視点も合わせておさえます。視点とは、誰目線でこの物語を語っているのかです。たぬきの糸車では、おかみさんになります。この際は、しかけの「③置き換える」を使うと分かりやすくなります。つまり、実際に教室の前方にきこり夫婦、たぬき、ナレーターの4役を出させ、「ナレーターは誰の後ろに立ってこのお話を読んでいると思う?」と聞きます。子ども達は、教科書という紙面上での読み取りから映像での読み取りに切り替わり、イメージがつきやすくなります。また、お話を映像化するというのは、深い読み取りにはとても重要なことで、お話に奥行きを与えてくれます。この奥行きの話は、また後編に出てきます。
そして、中心人物の変化を捉える際には、⑧の図解することが圧倒的に理解し易いです。人の気持ちを捉えるには「気持ちの変化前、きっかけ、気持ちの変化後の3点セットをおさえる」ことが大事なわけですが、これを箇条書きにしても、中々子ども達はイメージできません。しかし、下のように図解することで、子ども達も頭を整理しながら理解できるのです。

中心人物の変化を捉えることは、後々の主題を捉えることにも繋がっていきます。そんなときに、中心人物の変化のフレームの捉え方を分かっていなかったら主題が捉えられなくなります。そんな読み手にはなってほしくないので、1年生から、このフレームで図解すると分かりやすいことを伝えます。
今回は、論理的な読み方ができる3つの方法を中心に簡単に説明していきました。後編では、実際の1時間の授業とたぬきの糸車の指導案を紹介させて頂きたいと思います。

川上 健治(かわかみ けんじ)

明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。

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