2018.11.30
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学校における働き方改革と部活動(4)

旭川市立大学短期大学部 准教授 赤堀 達也

学校における働き方改革と部活動について3回に渡ってお伝えしてきました。今回が最後の章「これからの部活動」になります。是非お付き合いください。

前回、「学校における働き方改革と部活動(3)~新しい部活動の姿~」で、部活動改革を進めていく上で推測される問題点をいくつかあげました。
①教員も指導ができ、コーチ(外部コーチ・スポーツクラブのコーチ)もいる場合
②強化している私立学校
③これまでトップレベルで指導を行ってきた教員のいるチーム
④部活動指導を行いたい教員
⑤とにかく勝ちたいチームが出てきた場合(複数校)
前回の部活動改革の流れでも、ここについては同じように問題になっていたはずです。今回はこれらの問題点にどう向き合うかについて述べていきます。

※教員以外で指導に携わる方を、総称して「コーチ」とします。(外部コーチ・スポーツクラブのコーチ等)

①から見てみます。教員とコーチでどちらかがメインでどちらかがサブと役割が決まればいいのですが、このような場合どちらもメインとして指導したいケースが多く、指導が二分され選手たちが迷ってしまうといったことを実に多く聞きます。このような問題が想定されるため、「もしかしたら次年度に配属されるかも」と考え、コーチの要請をためらうケースも多いようです。このような問題があちらこちらで聞かれるようになるかもしれません。そのため、指導体制を2人体制ではなく3~4人体制にしていくべきだと考えます。コーチを要請するから教員を1人にするのではなく、教員は教員で複数人体制を整えた上で、コーチを要請する形がいいと思います。

②③を見てみます。公立でも私立でも「この先生に教わりたい」「このチームに入りたい」といって選手が来ます。部活動以外で「ここの学校の先生の授業が良いから行きたい」という声はほとんど聞きません。このようなすばらしい人材や環境を生かしきれなくなってしまう改革になるのではないかと危惧しています。そしてこのような教員や学校は、練習だけでなく、ミーティングを多く取り入れたり、哲学的な思想を勉強したり、DVDを見て振り返りながら自主練習を行ったりなどして、いつも練習をしているわけではありません。むしろ良いチームほどそのように取り組んでいる傾向にあります。(中には練習しかしていないところもあるかもしれませんが…)しかし今回の改革では、「社会に返す」ということが言われているため、これらの時間も全て含めたうえでの練習時間となっているようです。せっかく東京オリンピックが開催されるのに、競技力の低下を招くのではないかと心配しています。

それに関連して④を見てみます。このような教員が育たなくなるケースが多くなるのではないかとこちらも危惧しています。現在でも「部活動をやりたいから教員になる」と思う学生がいます。満足にできないとなると別の就職へ流れていくこともあるでしょう。また部活動をやりたいと思っている教員は情熱家で生徒指導に向いていることが多いです。その教員が減ってくるとなると生徒の問題行動に対応できる教員が減ってしまう可能性も出てくるかと思います。更には次世代の部活動を担う教員が減り、部活動が衰退してしまう可能性もあるかもしれません。

⑤を見てみると、目先の勝利のために合同チームを考えるところも出てきそうです。現に昔とある競技ではこのことが問題になっていました。その競技は、もともと単一校でチームを構成するのが慣習でしたが、少子化に伴いそれが厳しくなりました。そこで複数校でチームを編成するようになっていったのですが、何校も合併したり、遠くの学校と合併したり、合併する必要のないところが合併したり、毎年異なる学校と合併したりするなどあり、どのレベルまでの合併をよしとするのかが議論となっていました。そのことからも後々揉めることになりかねないため、上から打ち出した方がいいと思います。

以上のことが考えられます。今回の改革で完成するものではなさそうです。今後もいろいろとスポーツ庁から出されてくることでしょう。そうは言っても、私自身、部活動は大賛成です。昔海外のコーチが次のようなことを言っていました。「日本を象徴とする花は『桜』。桜は一つの花でもきれいだが、たくさんそろって咲くことで、そのきれいさを増す」これが日本の精神であると思います。部活はそのような「非認知能力」を学ぶことができる最も有効な教育手段の一つです。そのため、私は教育課程内に組み込んで行うべきだと思っています。
全てがクラブになってしまうと、その教育的な精神が薄れてしまう可能性もあります。そのため、日本の目指していく部活動の形態は世界に類を見ない「部活動と社会体育クラブの両方の要素を持つ形態」ですが、是非成功してほしいと思っています。

赤堀 達也(あかほり たつや)

旭川市立大学短期大学部 准教授・北海道教育大学旭川校女子バスケットボールヘッドコーチ
これまで幼児・小学生・中学生・高校生・大学生と全年代の体育・スポーツ・部活動指導してきた経験から、子どもの神経に着目したスポーツパフォーマンス向上を図る研究を行う。

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