「怖い先生」だからちゃんとやる? 〜日大アメフト部のトラブルから考えたこと〜
日大のアメフト部での問題が話題になっていました。
今回、その事について、少し考えてみました。
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師 鈴木 邦明
「怖い先生」だからちゃんとやる?
今回の日大ほどではありませんが、小学校などにおいてもパワハラ的な学級経営をする教員はいます。以前にもそういったことを話題にした文章を書いたことがあります。興味のある方はお読みください。
「子どもの行動変容を促す方法 〜厳しい指導ではなく、子どもが納得できる説明を〜」
これまで、何度も話題にしてきた通り、学級経営において、また教師の基本的な考え方(スタンス、スタイル)において、「厳しい指導」をどのように捉えるのかということは非常に大事なことです。この問題の難しさは、パワハラ的な指導を行っている学級(部活)などが一見良い状態を保っているように見えるということです。「怖い」先生のクラスは、授業中、統制が取れています。朝会などに集まる際も静かですし、時間に遅れることもありません。
そういった状況を見て、クラスがぐちゃぐちゃで困っている教員(特に若い教員)は、真似したいと思い、管理職は問題が起こらないので頼りになると考えます。
本当にそれで良いのでしょうか?問題が露呈するのは、専科の教員の授業などにおいてです。音楽や家庭科などの専科の教員が授業をしている時に、子ども達が、普段とは違う行動をしたりします。勝手なことをする子どもがいたり、乱暴なことをする子どもがいたりという感じです。
そういった状況を担任(パワハラ的指導をしている)は、その専科の教員の指導力不足だと考えますし、それを口に出したりもします。職員室でそういったことを言うこともありますし、教室で子どもに対してそういったことを言う場合もあります。ますます子どもは専科の教員の言うことを聞かなくなってしまいます。
そのクラスで子どもがきちんとしているのは「先生が怖いから」です。なぜきちんとした方が良いのかを理解して、行動している訳ではないです。それなので、怖い先生のいない専科の授業ではきちんとできない子どもが出てきてしまうのです。本来、教育においては、「人の為になるから」「学ぶことで自分の可能性が広がるから」「より良い人生を過ごすため」などの理由で学びを行っていくことが大事です。
「助け合う社会の大切さを知り、人が困っていたら手助けをし、自分が困っていたら助けを求める」「英語を学ぶことで、様々な国の人と意見交換ができるようになる」「様々な人と議論することで世の中の多様性を理解する」「実験をすることなどから科学的な思考を身につける」などが学んだ後の望ましい姿の一例なのだと思います。「怖い先生がいるからきちんとする」ということがあまりにピントが外れていることが分かります。学びの本質を考えれば、パワハラ的指導が短期的、一時的に効果を上げたように見えても、それが間違っているということは容易に理解できます。
「家庭」での親子関係について改めて考えたい
改めて、今回の日大の一件を見てみると、あのようなことは、学校という組織だけで起こることではないのだと思います。会社でもそうですし、家庭でもそうです。最近、学校や会社については「いじめ」「パワハラ」などのキーワードで世間の関心も高くなっています。世間の関心の高さが抑止力となっています。
少しずつ「見える化」が進んできた「学校」「会社」と比べ、「家庭」は依然見えにくいというのが現状です。「虐待」「DV(ドメスティックバイオレンス)」は密室性が高く、なかなか外部には見えてきません。程度の差はありますが、家庭における不適切な関わりは子どもの育ちに大きな影響を与えます。最新の研究によるとぶったり、蹴ったりだけでなく、言葉での暴力も脳へ大きな影響を与えるのだそうです。実際の暴力以上に言葉での暴力は大きく脳の成長に影響を与えるのだそうです。
6月9日に新幹線内で起こった殺傷事件の容疑者は、子どもの頃から親との関係がうまくいかず、施設に入っていたそうです。その後、就職をしたけれども、周りの人との人間関係のトラブルで会社を辞めてしまったそうです。一般的に幼少期の親子の関係がその後の育ちに大きな影響を与えると言われています。今回事件を起こした容疑者もやはり幼少期の親子関係の不適切さがその後のことに影響を与えていると考えられます。
終わりに

鈴木 邦明(すずき くにあき)
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。
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