2018.07.18
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校務の情報化を成功させるポイント/タブレットを使った学習に役立つICT機器 New Education Expo 2018 in 東京 現地ルポ vol.6

「New Education Expo 2018 in 東京」のリポートも最終回。今回は、校務の情報化に関するセミナーの模様をお届けする。校務支援システムの導入に成功した3つの自治体から、導入や運営に携わった方々が登壇し、校務の情報化のねらいや成功の秘訣について語ってくれた。また展示ゾーンからは、タブレットを使った学習に役立つさまざまな製品をまとめて紹介する。

校務の情報化を成功させるには? 自治体の事例から学ぶ

校務の情報化による業務改善と教育の質的向上 ~情報化の効果的な導入と活用のステップ~

【コーディネーター】
柏市教育委員会教育専門アドバイザー……西田 光昭 氏
さいたま市教育委員会学校教育部教育研究所、主任指導主事兼ICT教育推進係長……細井 博幸 氏
市原市立加茂学園(小中一貫教育校)教頭……生田 勲 氏
静岡市立豊田中学校教頭……毛利 敏久 氏

校務支援システムを使ってもらえるように、研修や周知に力を入れた

柏市教育委員会教育専門アドバイザー 西田 光昭 氏

「現在校務の情報化が急務となっていますが、その目的は、校務を効率的に処理できるようにすることで教員の負担を軽減し、子どもと向き合う時間を増やして、教育の質を向上させることにあります」

セミナーの冒頭、コーディネーターを務める柏市教育委員会の西田光昭氏はこう念を押した。新学習指導要領では、小学校高学年で英語科が新設され、プログラミング教育が始まるなど、新たな教育内容が盛り込まれた。また「アクティブ・ラーニング」を取り入れるなど、「教育の質的向上」も求められている。さらに教員の長時間労働を是正する「働き方改革」も喫緊の課題だ。こうした状況に対応するには、「校務の情報化」によって校務を効率化し、教員に時間と余裕を生むことが不可欠なのだ。

そこで今回は、校務支援システムを導入して「校務の情報化」で成果を挙げている自治体の方々に、成功の秘訣を語っていただいた。

さいたま市では、平成21年度に校務用コンピュータを導入し、教員に1人1台の環境を整備していたが、十分な効果が上がっているとは言いがたかったという。コンピュータはあっても校務支援システムがないため、出席簿や通知表などの個人情報が連動しておらず、転記する手間に悩まされていた。また教員間・学校間でのデータ共有や情報交換も、行いにくかったという。

こういった課題を解決するため、市教育委員会は平成27年度に校務支援システムを導入したのだが、特筆すべきはそのスピードだ。たった半年で、導入の決定から整備、そして稼働までこぎつけたのだ。

さいたま市教育委員会学校教育部教育研究所、主任指導主事兼ICT教育推進係長 細井 博幸 氏

「とにかく時間がありませんでしたが、まずは学校への周知から始めました」

とは、さいたま市教育委員会の細井博幸氏だ。なぜ校務支援システムが必要なのか、どんなことができるようになるのかなどについて、校長会や教頭会で説明して現場の理解を得ることから開始。教務担当者等への操作研修会も行い、夏季休業中には各学校への巡回研修を合計162回も行なった。

さらに市教委では、「Q&A集」を作成。新たに導入される新校務支援システムはどんなものなのか、何ができるかを、Q&A形式でわかりやすく紹介した。
「校務支援システムにもマニュアルはありますが、とても分厚く、とっつきにくい。そこで教員が理解しやすいように、そして新校務支援システムを“使いたくなるように”、この機能を使うとこんなメリットがありますよと具体的に説明しました」
例えば、成績管理と通知表のデータが連動するので、今までのようにコピー&ペーストで転記する必要がありませんとアピールしたそうだ。

導入された校務支援システムは、教員からも好評。「通知表の作成時間を短縮できるようになった」「メール機能がとても便利で、さまざまな情報共有や連絡がしやすくなった」などの声が寄せられているそうだ。
「教員の校務の負担を軽減することができ、教員間の情報の共有化も進んでいると実感しています」
と、細井氏は手応えを語った。

教員が安心して働ける環境を整えた

市原市立加茂学園(小中一貫教育校)教頭 生田 勲 氏

続いて千葉県市原市の事例を、市教育委員会指導主事として校務支援システムの運用や支援に携わってきた生田勲氏(現・市原市立加茂学園教頭)が報告した。

校務支援システムを導入する以前、市原市は大きな課題に直面していた。ICT整備率は県内で最下位に沈み、校務用コンピュータは各校にたった6台しかない状況。多くの教員は私物のパソコンを学校に持ち込んで校務や授業で使うのが常態化しており、セキュリティ面にも不安があった。

そこで市原市では、平成26年度に、校務支援システムを市内全小中学校に一斉導入。校務用コンピュータも、1人1台整備した。
「校務支援システムによって教員が働きやすい環境を整えて負担を軽減し、教育の質的向上につなげるのが、システム導入のねらいでした」
と、生田氏は言う。

市原市の校務支援システムで特に目を引くのが、自宅等からの「リモートワーク」に対応している点だ。USBキーで認証することで、自宅のパソコン等から校務支援システムにアクセスできるようになっているほか、教職員全員にOffice365のメールアドレスを配布し、自宅のパソコンやスマホからメールで業務連絡できるようにした。さらには教員が自宅のパソコンにインストールする用のOffice2013を各校に配布し、学校と同じ環境で自宅でも作業できるようにしたという。その理由について、生田氏はこう説明した。
「今後は若い教員がどんどん増えています。子育て中の教員も多い。リモートワークできる環境があれば、定時に退勤して子どものお迎えに行ったり、家事などをして、そのあとに自宅で仕事ができます。子育て世代が安心して働けるための環境を整えました」

またリモートワークを可能にしたことで、USBメモリでデータを持ち運んで紛失・盗難に遭う危険を解消できた。リモートワークで利用できる情報や機能は限定されており、通知表など重要な個人情報はアクセス不可となっているため、個人情報を安全に扱えるようにもなったという。

市立小中学校全校一斉に校務支援システムを導入したのも市原市の特徴だ。段階的に導入していくことも検討したそうだが、「市内全校一斉に導入しておけば、将来教員が異動しても、同じ環境なので安心して仕事ができる」との理由で、一斉導入を選択した。

校務支援システムは教員にも好評で、校務支援システムのおかげで仕事が楽になったと答えた教員は7割を超えている。校務支援システム導入以前は、校務用コンピュータをほぼ毎日使っている教員は47%に過ぎなかったが、導入後の平成28年には90%と倍増した。教員は日常的に校務支援システムを活用し、その恩恵を受けているようだ。

これまでの課題を解決できるシステムを、行政や企業と協力して構築した

静岡市も、全校共通の校務支援システムを導入する以前は、大きな課題を抱えていた。各校が独自に成績処理ソフト等やサーバを導入して運用していたため、学校によっては使い勝手が悪く、校務の効率化につながっていなかった。また校務用コンピュータはインターネットにつながっていなかったため、メールの送受信やネットでの調べ物もできず、学校間の情報のやり取りは電話やFAX、手紙に頼っていた。そして通知表や指導要録などの重要文書は紙ベースで管理することになっており、作業効率は良くなかった。

静岡市立豊田中学校教頭 毛利 敏久 氏

このような状態が10年以上続いていたが、「改善しなければ」という認識が行政側になかったと、市教育委員会で校務支援システムの導入に携わった毛利敏久氏(現・静岡市立豊田中学校教頭)は当時を振り返った。

そこでまずは、市教育局内の理解を推進することから始めた。企業の協力も得て、複数の学校で校務支援システムの実証実験を開始。教員にアンケート調査を行って、「成績処理の負担が減った」などの効果を数値データ化した。これを論拠として、
「校務支援システムがあれば教員の負担が減り、子どもと向き合う時間を創出できる。結果、教育の質を向上できる」
と周知していった結果、「全校共通の校務支援システムが必要」との理解が市教育局内からやがては市役所全体に広まっていったという。

市全体の足並みを揃えた上で、校務支援システムを整備した。市内の学校を結ぶセキュアなネットワークを構築し、全校共通の校務支援ソフトやグループウェアも導入した。教員からは「学校間で、メールで連絡を取れるのはとても便利。電話と違って、メールなら気軽に情報交換でき、ファイルを添付できるので情報共有がはかどる」との声が寄せられている。また、ペーパーレス化も推進。「出席簿が電子化され、集計や共有が簡単になり、担任の負担が減った」と好評だそうだ。

最後に、コーディネーターを務めた柏市教育委員会の西田氏が、これら3自治体の報告から重要なポイントを挙げてくれた。

  1. どの自治体も、校務の情報化は「目的」ではなく、教員の校務の負担を減らして教育の質を高めるための「手段」と認識している。
  2. 行政と学校の両方に「校務の情報化」への理解と協力を求め、行政・教委・学校が一体となって進めている。
  3. システムを導入するだけでなく、各種研修に力を入れ、「教員が使ってくれるように」働きかけている。
  4. 眼の前の課題を解決するだけでなく、もっと先を見据えて、教員が使いやすい・働きやすい環境を整えている。

会場で聞き入っていた多くの教員も、なるほどと大きくうなずいていた。これから校務支援システムを導入する自治体にとって参考になるセミナーだった。

展示ゾーン

子どもがタブレットで学習する時代に役立つ様々なICT機器

株式会社アクティブ・ブレインズの展示コーナー

株式会社アクティブ・ブレインズの「AIAIモンキー」は、今話題の人工知能(AI)を用いて、「対話的な学び」を活性化してくれるソフトだ。

例えば、社会科の授業で、「温暖化を防ぐ方法」について話し合い活動をさせたいとしよう。「AIAIモンキー」の教師用の画面で「温暖化を防ぐ方法を考えよう」と設問を入力すると、子ども達のタブレットにその設問と入力欄が表示される。この入力欄に子どもが意見を書くと、人工知能が全員の意見からキーワードを抽出し、その登場回数を“ビジュアル化”してくれる。

例えば、「二酸化炭素」というキーワードが多く使われていたら、大きな円で「二酸化炭素」という言葉が表示され、「クールビズ」という言葉が1回使われていたら小さな円で表示される。全員の意見の傾向をひと目で把握できるのだ。さらにキーワードをクリックすれば、そのキーワードを用いた意見が一覧表示されるので、子どもの意見を板書する手間が省け、すばやく学級全体で共有できる。その上で議論の的を絞って再度話し合いをさせれば、「対話的な学び」はより深まるだろう。

また、誰がどんな意見を書いたかの履歴も残るので、一人ひとりの学習状況把握や成績管理等にも役立つ。小学校から大学まで、幅広い学校種で導入されているそうだ。

電子黒板コーナー

株式会社内田洋行が提供する電子黒板ブースでは、2つの新製品が注目を集めていた。

「e-黒板アシスタントリンク」は、電子黒板機能と授業支援機能が一つになった大型提示装置用ソフトウェアだ。指導者用のタブレット等にこの製品を導入して手持ちの電子黒板につなげば、書き込みや拡大表示などの機能を並べたツールバーが電子黒板上に表示される。よく使う機能だけを厳選してあるので、使い勝手がとても良い。特筆すべきは、授業支援システム的な機能も搭載されている点だ。子ども達のタブレット画面をリアルタイムで電子黒板に表示でき、10分割表示やその中から複数の画面を選び並べて表示することも可能なので、子ども達の意見や発表をスピーディに学級全体で共有できる。また子ども達のタブレットにファイルを一斉に配信・回収する機能や、子どものタブレットを一斉にロックする機能も便利そうだ。

世界中で導入実績のある電子黒板「SMART Board」でも、新製品が登場した。モニタ下のトレイに4色のタッチペンとイレイサーが収納されており、いちいちペン機能や消しゴム機能を選択せずとも、ホワイトボードに消し書きする感覚で使えるのが特徴だ。専用のアプリを使えば、子どものタブレットと相互通信が可能。電子黒板の画面を子ども達のタブレットに表示したり、逆に子どものタブレット画面を電子黒板に表示できる。Bluetoothのほかインターネット経由でも通信できるため、遠く離れた学校にいる子どものタブレットともつながる。遠隔授業でも使えそうだ。

株式会社MISと株式会社内田洋行が試作参考出品した無停電電源装置「PowerUPS」

学校現場が頭を悩ませているのが、タブレットの“バッテリー”問題だ。授業の途中でバッテリーが切れて使えなくなった、何十台ものタブレットを充電する電気代が馬鹿にならない等々……。そんな問題を解決するのが、株式会社MISと株式会社内田洋行が試作参考出品した無停電電源装置「PowerUPS」 だ。

これは、タブレット等を急速充電できるモバイルバッテリーと、そのモバイルバッテリーを同時に複数台充電できる電源装置がセットになったもの。夜間電力を使って電源装置内の大容量リチウムイオン電池に蓄電し、そこからモバイルバッテリーに充電する方式のため、電気代を節約できる。モバイルバッテリーはとても軽く、タブレットに接続して充電する時も熱くならないので、子どもが取り扱いしやすい。

もともと「PowerUPS」は自治体などへの導入実績があり、災害支援等で巡回する職員が予備バッテリーとして携行し、高評価を得ているという。教育現場でも、活躍が期待できそうだ。

取材・文:長井寛/写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

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