2018.07.04
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アクティブ・ラーニング時代の学校施設と学習空間/アクティブ・ラーニング用テーブル New Education Expo 2018 in 東京 現地ルポ vol.4

新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」いわゆる「アクティブ・ラーニング」を行うことが求められているが、このアクティブ・ラーニングをより活発に行うには、学校の施設や学習空間はどうあるべきなのだろうか。グループワークがしやすい大きなテーブルのあるスペースや、学習活動に応じて自由に使える多目的スペースがあれば、アクティブ・ラーニングをより行いやすくなるのではないか。第4回目の現地ルポでは、そんな視点から建築学を専門とする3人の研究者が国内外の事例に基づいて議論したセミナーをリポートする。あわせて展示ゾーンからは、アクティブ・ラーニングに役立つ様々な家具を紹介する。

アクティブ・ラーニングを行うため学校施設や学習空間はどうあるべきか

アクティブ・ラーニング時代の新しい学校施設を考える~国内外における事例を通じ~

千葉大学大学院工学研究院教授……柳澤 要 氏
千葉工業大学創造工学部准教授……倉斗 綾子 氏
呉工業高等専門学校建築学科准教授……下倉 玲子 氏

子どもが学習内容と学習空間を選択できる授業で、アクティブ・ラーニングを促す

千葉工業大学創造工学部准教授 倉斗綾子氏

千葉工業大学創造工学部准教授 倉斗 綾子 氏

まず、千葉工業大学創造工学部の倉斗綾子准教授が、国内の小学校の状況について、解説してくれた。
「1980年代に、“オープン・スクール”が日本に登場し、新たな学校のカタチとして注目されたのを、皆さんご記憶でしょうか」
と、倉斗准教授は問いかけた。ここで言う“オープン・スクール”とは、教室の壁を取り払い、多目的に使える開放的な空間(オープン・スペース)を備えた校舎のことである。建設当初はオープン・スペースを学習活動で活用する姿がよく見られたが、現在は下火になり、せっかくのオープン・スペースがただの広場になってしまっているケースが見られるという。

そこで倉斗准教授は教育学の研究者と共に、オープン・スクールの学校を対象として、アクティブ・ラーニング用の学習環境づくりの提案や研究、実践を行っている。

例えば、ある市立小学校では、算数2年「三角形と四角形」の授業(学年5クラス合同)で、こんな授業を行なった。教科書の流れに沿ったワークシートの問題を解きながら理解するコースと、紙を切ったり貼ったり、ものづくり、工作など体験的な活動を通して理解するコースの2つの学習コースを用意(好きなコースを子どもが自由に選べる)。そして、それぞれ自分の学習に応じて空間を自由に選べるようにした。つまり、自分の教室でワークシートに取り組んでもいいし、オープン・スペースに置かれた広いテーブルを使って紙の切り貼りを行ってもいいのだ。さらにオープン・スペースには、「ヒントコーナー」や「質問コーナー」、「丸付けコーナー」を開設。ワークシートや工作をしていてわからないことが出てきたら、まずは「ヒントコーナー」に置かれたヒントカードを見て、自力解決に取り組み、それでもわからなければ「質問コーナー」で待機している教師に聞く。そして回答を出せたら、「丸付けコーナー」にいる教師に提出し、その場で採点してもらうのだ。

こういった学習環境を用意することで、一人ひとりが自分の力に合わせて学習を選択し、自分のペースで学び、わからなくても自分で解決策を選ぶなど、主体的に学習できたという。
「今までの教室は、講義型の授業用に特化して作られていました。いわば『一斉授業がしやすいようにデザインされた、オーダーメイドの服』と言えます。しかし、アクティブ・ラーニングで多様な学習を行なうようになると、一斉授業用に作られたオーダーメイドの服では、少し窮屈です」
と、倉斗准教授は指摘し、オープン・スペースを活用して子ども達が学習に合わせて主体的に空間を選べるようにする、いわば多様な大きさ、仕様の服を取り出せる「クローゼット」のような環境を用意することがアクティブ・ラーニングには必要ではないかと提案した。

自由に選んで活用できる学習環境があれば、子ども達に多種多様な学習方法を提供できる。すると子ども達は、その選択肢の中から自分で最適な学習方法を選択し、主体的に学んでいくようになる。これを繰り返すことで、アクティブ・ラーニングの力がついていく。

「子どもを信じて、“時間と空間”を委ねることが、アクティブ・ラーニングにつながるのではないでしょうか」
と、ある現場教師の言葉を借りて倉斗准教授は結んだ。

欧米では、多種多様な学習空間を整備しアクティブ・ラーニングを促している

呉工業高等専門学校建築学科准教授 下倉玲子氏

呉工業高等専門学校建築学科准教授 下倉 玲子 氏

続いて、呉工業高等専門学校建築学科の下倉玲子准教授が、海外の事例を紹介した。日本を含むアジアは一斉授業が中心だが、欧米は個別学習が中心で、特に北欧は個別学習に重きを置く傾向が強いという。

例えば、スウェーデンのKunskapsskolan Spangaという私立小・中学校では、なんと一人ひとり時間割が異なるという。担当教師と話し合って個別の時間割を毎週組むのだが、日本のようなクラス全員で受ける講義型授業は、各教科週1回のみ。それ以外は選択授業の時間で、個人学習やグループ学習などを行うそうだ。
「こういう教育を行うために、同校では多種多様な学習空間を整備している」
と、下倉准教授は報告してくれた。個人学習用のブースもあれば、少人数のグループ学習に向いている小型テーブルと4人掛けのベンチもある。ベンチの背もたれが目の高さほどのパーテーションになっており、人目を遮って学習に集中できる作りになっているのが特徴だ。この他にも、自由に動かせるテーブルと椅子も用意されており、大人数でグループワークする時はこれらをつなげて学習スペースを作れるようになっている。
「こういった多種多様な学習空間の中から、子どもは自分の学習に応じて適切な学習空間を選択し、主体的に学習に取り組んでいます」
と、下倉准教授は教えてくれた。

千葉大学大学院工学研究院教授 柳澤要氏

千葉大学大学院工学研究院教授 柳澤 要 氏

お二人の報告を受けて、千葉大学大学院の柳澤要教授が、英米の事例を紹介してくれた。多種多様な学習空間を整備するのは英米ではごく普通のことであり、教室の隣にアクティブ・ラーニング用のオープン・スペースがあったり、学校図書館内に学習用スペースが設けられたりしているという。こういった学習空間にはカラフルで座り心地のよいソファなどが置かれておしゃれなカフェのようになっており、子ども達が落ち着いて学べるようになっているそうだ。また教室内の机や椅子も、学習に応じて向きや並びを変えたり、机同士をくっつけたり離したりしやすい家具が多いという。
「欧米では学年が上がるにつれ、アクティブ・ラーニングの割合が増えていきますが、日本は逆で、学年が上がるにつれて減っていく傾向があると感じます」
と柳澤教授は述べた。多種多様な学習空間の有無も、影響しているのかもしれない。

アクティブ・ラーニングを行うために学校がすべきこと

最後に、御三方によるディスカッションが行われた。その要旨を、鼎談形式でお伝えしよう。

柳澤 アクティブ・ラーニングを行うのに、オープン・スペースは必要不可欠ですか?

倉斗 従来の教室でも子どもにアクティブ・ラーニングさせることはできますから、オープン・スペースが必須というわけではありません。しかしオープン・スペースのような多種多様に活用できる学習空間があれば、アクティブ・ラーニングの機会を増やせるとは思います。

下倉 教室の自分の席に一日中座っているのでは、子どもは受け身になりやすい。多種多様な学習空間を用意して、子どもが選択できるようにすれば、子どもはアクティブに学びやすくなると思います。

柳澤 しかしオープン・スペースのような学習空間があっても、それを使う方法を先生方が知らないと、活用できませんね。

倉斗 その通りです。私がオープン・スペースを持つ学校と共同研究した時は、教育学の専門家や校舎の設計者と一緒に学校訪問し、まずは校内各所のオープン・スペースの設計意図について、先生方に知っていただくことから始めました。その上で、オープン・スペースを活用した授業や環境づくりを教育学の専門家のご指導の下、先生方と一緒に考え、校内研修も行ってオープン・スペースの活用に必要なノウハウを学んでいただき、日々の授業でオープン・スペースを少しずつ活用してもらえるようにしていきました。

登壇者3人によるディスカッション

登壇者3人によるディスカッション

柳澤 では、これからの教育にアクティブ・ラーニングは必要だと思いますか?

倉斗 昔のように「読み書き算盤」と知識を覚えるだけでは、これからの時代に対応できません。アクティブ・ラーニングによって、自ら課題を見つけ、解決していく力を子ども達に育むことは既に避けられない時代になっていると思います。

柳澤 そうですね。近い将来、人工知能に多くの仕事が奪われると言われています。例えば建築家だって安泰ではありません。アイデアを生み出せるクリエイティブな建築家は大丈夫でしょうが、指示通りに設計図面を引くだけの力しかない建築士は、人工知能に取って替わられるでしょう。知識やスキルを習得するだけでなく、それらを活かして“創造”する、クリエイティブな力が必要になってきます。

下倉 日本に限らず世界各国の学校教育も、そういった力を育もうとしています。日本の将来を担う子ども達を育てるためにも、アクティブ・ラーニングは必要でしょう。

柳澤 機械ではできない、人間にしかできない力を育まなければなりませんね。だから新学習指導要領で学校教育が変わろうとしているのだし、そのためには学校施設や学習空間も変わらなければならないのだと思います。

展示ゾーン

[アクティブ・ラーニング・ファーニチャ]アクティブ・ラーニングを加速させるには、家具も大事!

アクティブ・ラーニングを進めるには、子ども達に多様な学習空間を用意してあげることが重要になってくる。今年のNew Education Expoでも、そんな学習空間づくりに役立つ机や椅子、書棚などが展示されていた。

四角い天板のものが「Lisy(リジィ)」。軽量なのでシーンに合わせたレイアウト変更が簡単

四角い天板のものが「Lisy(リジィ)」。軽量なのでシーンに合わせたレイアウト変更が簡単

アクティブ・ラーニングではグループでの話し合い活動を行なう機会が多くなるが、そのたびに机を移動させ、くっつける必要がある。そこで株式会社内田洋行では、脚にはキャスターが付いて移動させやすく、天板側面にマグネットが付いていて机同士を隙間なく接続できるアクティブ・ラーニング用テーブル「commune(コミューネ)」を提供し、好評を博してきた。この流れを組む新製品「Lisy(リジィ)」が、今回登場した。

「学校現場から寄せられた、『キャスターのない机も欲しい』、との要望にお応えした製品です。6kg台と軽量なため(幕板なしの場合)、子どもでも楽に机を運べます。また、机を隙間なくぴったりくっつけられるように、天板と脚のデザインを工夫しました」
と、同社のスタッフが説明してくれた。片付けたい時は、机を4台まで重ねて積めるようにもなっている。

「ミーティング(R)テーブルFT-1600シリーズ」

「ミーティング(R)テーブルFT-1600シリーズ」

「Lisy(リジィ)」以外にもグループワークに最適な「ミーティング(R)テーブルFT-1600シリーズ」も登場した。勾玉型やリボン型の天板が特徴で、写真のように様々な組み合わせが可能だ。こちらはキャスター付きで天板を折りたたんで運ぶことができる。

教室外の「オープン・スペース」の活用も大事だ。学校内のちょっとした空間をアクティブ・ラーニング空間に早変わりさせる家具なども、注目を集めていた。

まず、空間構築システムユニット「WooDINFILL」。これは、木の柱や梁を組み上げて建物内に新たな空間を作り出す製品で、広さに合わせて自在に設計できるのが特徴だ。New Education Expoでは毎年展示されているが、今年はアクティブ・ラーニング空間の構築例が披露されていた。中央にはグループ学習用のテーブルが置かれ、ホワイトボードや大型テレビ、書棚なども並ぶ。木の香りと木目が暖かな雰囲気を醸し出し、木の壁が周りの音や人目を遮ってくれるので、子ども達が落ち着いて学習できそうだと感じた。

木の温もりのあるアクティブ・ラーニング空間を作り出す「WooDINFILL」。建築に手を加えることなくIT環境も整えられる。レイアウト変更も容易だ

木の温もりのあるアクティブ・ラーニング空間を作り出す「WooDINFILL」。建築に手を加えることなくIT環境を整えられる。レイアウト変更も容易だ

オープン・スペースやちょっとした空間を「ミニ学校図書館」に変える書架やソファなども、参考出展されていた。書架は圧迫感がないように背丈が低く、絵本や大判の事典なども置けるようになっている。その書架と一体化されたロングソファや、床にモノを広げて資料を読んだり話し合ったりしやすいように置かれた丸いテーブルも、居心地が良く学習に集中できそうだ。

これら製品の開発コンセプトは、「学校図書館を、教室のもっと近くに!」とのこと。調べものをしたい時に、いちいち学校図書館へ移動したのでは時間も手間もかかり、それが原因で調べるのを断念することもある。こうした家具を使って学年のフロアごとに「ミニ学校図書館スペース」を用意してあげれば、調べ学習もはかどるし、調べ学習を行なう頻度も増えるだろう。

他にも、オープン・スペースでグループワークを行う時に便利なテーブルも、注目を集めていた。「BWシリーズ」は台形や半円形などのテーブルで、複数のテーブルをつなげやすいデザインになっているのが特徴だ。例えば台形テーブルを2つくっつければ六角形、3つなら三角形と、グループの人数に応じて自在に接続できる。

こういった家具を活用して、教室内や教室外の学習空間を整え、子ども達のアクティブ・ラーニングを活性化してはいかがだろう。

アクティブ・ラーニング用テーブル 、WooDInfillの詳細

取材・文:長井寛/写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

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