2018.06.27
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2030年の社会に向けた教育の情報化とは?/最新のプログラミング教材 New Education Expo 2018 in 東京 現地ルポ vol.3

New Education Expo 2018 in 東京」が67日~9日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。新学習指導要領が告示され、国の教育施策も相次いで公表される中、その実施に向けたICT環境整備の拡充が急がれている。3回目の現地ルポでは、これからの教育と情報化戦略について考えるセミナーと、最新のプログラミング教材や理科教材を取り揃えた展示ゾーンについてお伝えする。

子どもの未来を支える教育とICT環境整備の在り方

トップが考えるこれからの教育と情報化戦略

富山大学 名誉教授、日本教育工学会 前会長……山西 潤一 氏
多久市長、全国ICT教育首長協議会会長……横尾 俊彦 氏
杉並区教育委員会 教育長……井出 隆安 氏
内田洋行教育総合研究所 顧問……大久保 昇 氏

トップのリーダーシップがICT環境整備を左右する

21世紀の社会は知識基盤社会であり、2030 年頃にはIoT(モノのインターネット)やビッグデータ、AI(人工知能)などの技術革新による第4次産業革命、グローバル化のさらなる進展が予想されている。新学習指導要領や「第3期教育振興基本計画」答申には、こうした変化が激しく、予測困難な時代を生き抜いていくために求められる資質・能力が示された。それを子ども達に育む新しい学習活動の実現には、ICT環境は必須。このほど文部科学省が策定した「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」(2018~2022年度)には、以下のような整備水準が目標として掲げられている。

文部科学省「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度)」
文部科学省「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度)」

自治体にとって、もはや待ったなしの重要課題である学校のICT環境整備。本セミナーは、教育の情報化に先駆的に取り組む自治体と教育委員会のトップ、研究者、企業が一堂に会し、ICT環境整備にまつわる問題点や効率的な導入方法などを明らかにして、整備に取り組む現場の一助にしようというものだ。

富山大学 名誉教授、日本教育工学会 前会長 山西潤一氏

富山大学 名誉教授、日本教育工学会 前会長 山西 潤一 氏

まずマイクを握ったのは、進行役を務める富山大学名誉教授、日本教育工学会前会長の山西潤一氏 。山西氏は、「資質・能力の育成とICTを活用した学習活動を重視する教育への移行は世界的な潮流」であるとして、海外の学校におけるICTの活用事例を示した。オーストラリアはコスト削減や環境保護の観点からデジタル教材の導入を推奨しているため、紙の教科書ばかりかノートも使わずに授業を行う学校が少なくないという。必要な教材がダウンロードできれば端末の機種やOSは問わないことから、BYOD(Bring Your Own Deviceの略。自分の端末を持ち込んで勉強や仕事に活用すること)による1人1台環境も実現されている。これはシンガポールの学校も同様で、子どもが自分のスマートフォンを授業や宿題に活用することは珍しくないそうだ。

一方、日本の状況はというと、「全体としてはICT環境の整備は進んでいるものの、地域によってかなりの差が生まれている」と山西氏は指摘する。文部科学省の「平成28年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」によると、例えば山西氏の住む富山県では、市区町村によって普通教室の無線LAN整備率が100%のところもあればゼロのところもあり、格差が大きい。都道府県によっても違いはあり、教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数では、最高は1台あたり1.9人、最低は同8.0人と大きな差が見られる。また、教員のICT活用指導力は伸び続けているが、こちらも都道府県別では最高94.7%、最低78.5%とばらつきがある。

「このICT環境と教員のICT活用指導力の差が、教育の差につながるといっても過言ではありません。事実、2003年のイギリスの調査では、ICT環境と教員のICT活用指導力が向上すると生徒のICTスキルが上がるというデータが出ています。いかに環境を整備し、教員を育てるか。それには、ヒト・モノ・カネを動かす自治体や教育委員会トップ、学校管理職のリーダーシップが重要。上層部を動かすために、教員や保護者も声を上げていかなくてはいけないと思います」(山西氏)。

子ども達が未来に誇れる質の高いICT教育を目指す

多久市長、全国ICT教育首長協議会会長 横尾俊彦氏

多久市長、全国ICT教育首長協議会会長 横尾 俊彦 氏

では、トップはどのようにリーダーシップを発揮し、地域のICT教育を推進していけばよいのだろうか。佐賀県多久市長であり、自治体の首長有志を中心とした全国ICT教育首長協議会の会長を務める横尾俊彦氏は、そのモデルとなる人物と言える。

「教育とは子ども達に未来への希望を抱かせ、物事にチャレンジする熱意や勇気を育むもの。古典や歴史などに学んで人間力を養うことは大切ですが、凄まじいスピードで変化するデジタル革命の時代を生き抜いていくために、ICTを活用して21世紀型スキルを身につけることも重要です」と熱く語る横尾氏。多久市長に就任するにあたり、「小さな田舎町だからこそ、子ども達が将来『ここで育ってよかった』と胸を張れるようなICT教育を提供しなくてはならないし、その責任が大人世代にある」と決意したという。

以来、多久市ではICT環境の充実に向けた様々な施策を実施してきた。2009年に市内の小中学校全10校(現在は統廃合により小中一貫校3校に集約)の全普通教室に電子黒板87台を整備し、ICT支援員を10人配置したこと。ICT支援員は公募で集め、厚生労働省の臨時的な雇用制度を活用して、まずは3年間の雇用を実現したという。

「ICT支援員の配置は、先生方のICT機器に対する苦手意識を克服することにも大いに役立ちました。今は総務省や文部科学省などのサポート制度があると思いますので、これからICT教育の加速度的な普及を目指す自治体や教育委員会は、導入や活用を考えてみてはいかがでしょうか」(横尾氏)

その後、2013年~2015年にタブレット端末を活用したデジタル教材などの実証研究に取り組み、2016年度には総務省の先導的教育システム実証事業に参画するなど、チャレンジを継続している点も注目に値する。「同事業で多久市立中央小学校(当時)の5年生を対象に行ったクラウドを活用した調べ学習では、子ども達が協働編集した資料をスカイプで市長に発表するという試みを実施。こうした協働学習を増やし、一斉学習の割合を減らす授業改革を進めています」と横尾氏。現場の声に耳を傾け、この4月からはICTを活用した教職員の働き方改革にも本格的に着手。業務の負担を減らし、教員が子どもと向き合う時間を確保できるよう業務改革やICT利活用、さらにはテレワークも可能にする環境整備に努めている。

しかし、多久市は決して財政的に豊かな自治体ではない。工夫して取り組んではきたものの、財源、人材、情報の不足は、常に痛感していたという。思うに任せぬ現状を打破しようと、横尾氏は2016年に全国ICT教育首長協議会を発足。会員アンケートから抽出された整備財源不足、ネット整備の遅れ、人材育成、プログラミング教育への対応といった折々の課題について解決策を協議し、政策提案として文部科学大臣に提出している。そして、文部科学省、総務省、経済産業省による未来の学びコンソーシアムにもメンバーとして参加して、よりよい教育を追究しているところだ。

「働きかけの甲斐あってか、今回、『教育のICT化に向けた環境整備5か年計画』実現に向けた経費として1805億円の地方財源措置が講じられることになりました。これからもICT教育の普及・充実に貢献できるよう、現場の課題を組みとっていきたいと思います」(横尾氏)

現在、横尾氏が問題視しているのは、佐賀県は整っているが全国的に見れば小中学校でどれだけタブレット端末に馴染んでも、高校では環境が整っていない、というケースが多いこと。「小中学校での子ども達の学びを大学、社会へとつないでいくためには、高校へのスムーズな連結が必要。私達首長も国に提案しますが、教育関係者の方々も解決策を大いに議論していただければと思います」(横尾氏)。

子どもの学びを無理なく広げる、戦略的な環境整備

杉並区教育委員会 教育長 井出隆安氏

杉並区教育委員会 教育長 井出 隆安 氏

続いて、東京都杉並区教育委員会の教育長として区のICT教育を牽引する井出隆安氏が、その貴重なICT導入事例を紹介してくれた。

人口57万人都市の杉並区は現在、65校の義務教育学校を擁している。区の年間予算は1800億円ほどで、教育予算はその1割にあたる約180億円。
「そのうち年間9億円を占めるICT関連の予算は、未来への投資。どれくらいの予算を用意し、それをどう配分して環境を整えていくかは、私達教育行政に携わる者の腕にかかっています」(井出氏)

区では「共に学び共に支え共に創る杉並の教育」を教育ビジョンとして掲げ、「他者と協働し、持続可能な社会の担い手として主体的に生きる人の育成」と、「AIと共存し、『正解』を求める教育から『解なき問い』に応えられる教育への転換」に取り組んでいる。具体的には、「主体的、対話的で深い学び」の実現による授業改善と学びの協働化、一人ひとりの学力・学習状況に応じた学びの個別化、校務改善による教職員の負担軽減を目的に、2007年から戦略的なICT環境整備を進めている。

「まず全教室にインターネット接続環境を整備し、プロジェクターや電子黒板といった皆で使う『大きなもの』から、タブレット端末のような個別に使う『小さなもの』へと順に入れていきました」と井出氏。授業に取り入れていく段階としては、主に教員が活用する「プロジェクター+書画カメラ」から、子どもも活用できる「電子黒板+デジタル教科書」、グループ1台での活用を想定した「電子黒板+タブレット端末」、1人1台で活用する「電子黒板+タブレット端末」へと展開していくのが望ましいという。

また、2009年にはある学校を区の研究指定校とし、ヒト・モノ・カネの経営資源を集中的に投入。成果を挙げてICT教育への宣伝効果を高め、次の導入計画につなげていった。同時に、研究指定校では異動先でICT活用を広める中核教員になれるような教員の育成も行ったという。コストを抑えて効率よく普及を図る、この「一点突破・全面展開」の戦略は、他の自治体でも大いに参考になると思われる。

さらには、「いつでも」「どこでも」「何にでも」使える環境を整えるため、固定型のPCは順次リースを解約し、モバイル型のタブレット端末への切り替えを実施。タブレット端末は、きちんと教員の指示に従って使うことができる小学校の5〜6年生から導入を開始し、段階的に上の学校種や下の学年へと広げていくことで、現場の負担を軽減している。
「2019年からは小学3年生から中学3年生までの7年間を継続して、学習時1人1台の割合で配備することを予定。最終的には小学1年生から使えるようにする計画で導入を進めています」(井出氏)

「今後の課題は、校長をはじめとする学校管理職のリーダーシップを高めること。管理職のICT活用意識や意欲の差により学校間で格差が生まれているので、『校長の限界』を『教育活動の限界』にしないための意識改革が必要です」と井出氏。同様に、研修やICT指導員の導入などによって教員のICT活用能力を高め、「『教員の限界』を『子どもの学びの限界』にしない」ことも重要であるとした。
「2030年の社会と、その先の未来を生きる子ども達のため、私達大人は責任を果たさなくてはいけません。何をなすべきか、この続きは皆で考えていきましょう」(井出氏)。

学びの限界を作らない・作らせないトップに

内田洋行教育総合研究所 顧問 大久保昇氏

内田洋行教育総合研究所 顧問 大久保 昇 氏

横尾・井出両氏の報告を受け、山西氏はICT支援員の導入と、学校管理職のリーダーシップの重要性を改めて強調。最後に、内田洋行教育総合研究所の顧問を務める大久保昇氏が本セミナーの所感を述べた。

大久保氏は、企業人として長くICT教育に携わってきた中でも、横尾氏や井出氏のようなトップは稀有な存在であると語った。その理由として、横尾氏については「現場の声を積極的に取り入れていること」と「都市部の自治体にも負けない教育環境を整えるという熱意」、井出氏については、「学びの個別化・協働化などのトレンドまで把握しているICT教育への造詣の深さ」と「現場に教育活動や子どもの学びの限界を作らせないという使命感」を挙げた。そして、「市長や教育長の限界がその地域のICT教育の限界になる」恐れもあるとし、そうならないためには何が必要かを両氏に問いかけた。

「大事なのは時代の潮流を察知し、思考をアップロードしていくこと。現場の声を聞いたり、現場に自分の声を届けたりすることも重要です。私は新任教員の着任式に出向いて挨拶をしたり、指導主事などを招いて話を聞いたりしています。皆さんも、そんな機会を設けてみてください」(横尾氏)

「新しいことや未来のことについては、若い部下を頼りにし、任せることも必要だと思います。そして、教育長は首長との連携を密にすることも大切。現場を見せ、未来予想図を示し、ICT環境整備の拡充を積極的に働きかけていきましょう」(井出氏)

両氏のように熱いハートと実行力を兼ね備えたリーダーが増えれば、日本の教育の情報化は飛躍的に進展していくに違いない。全国の市長や教育長の奮起を促すメッセージに会場からは万雷の拍手が送られ、セミナーは幕を閉じた。

展示ゾーン

[UCHIDA SCIENCE]理科の実験授業に役立つプログラミングスイッチをはじめ、注目の新製品が登場!

株式会社内田洋行の最先端の理科教育機器を体験できる展示ブース「UCHIDA SCIENCE」。ここで今年、最も注目を集めていたのが新製品の「プログラミングスイッチ」シリーズだ。

手前にあるのが、レゴ(R)のプログラミングブロック教材「WeDo2.0」に接続する「プログラミングスイッチWeDo2.0用DP-L」

手前にあるのが、レゴ(R)のプログラミングブロック教材「WeDo2.0」に接続する「プログラミングスイッチWeDo2.0用DP-L」

「プログラミングスイッチ」は、小学校6年生・理科の電気回路について学ぶ授業(文部科学省「小学校プログラミング教育の手引(第一版)」PDF )での使用を想定した、プログラムによって回路の入・切を制御できるスイッチ。これまで電気回路上に配置していた手動スイッチの代わりにプログラミングスイッチを接続するだけで、簡単にモーターの動きやLEDの点灯などを制御できる。

「プログラミングスイッチ」には、既存教材に対応した3種類が用意されている。プログラミング学習用言語「Scratch」で制御する「プログラミングスイッチScratch用DP-S」には、明るさと温度のセンサーを内蔵。例えば、「温度が上がった」ら「スイッチを入れる」とプログラムし、スイッチのセンサーを手のひらで温めると回路が「入」になる、といった仕組みだ。ワイヤレスの電子タグとアプリからなるソニーのプログラミング教材「MESH(TM)」に対応した「プログラミングスイッチMESH用DP-M」は、明るさや温度を含め最大5種類のセンサーをMESHの画面で制御可能。レゴ(R)のプログラミングブロック教材「WeDo2.0」に接続する「プログラミングスイッチWeDo2.0用DP-L」は、組み立てたレゴ(R)のモデルとモーションセンサーを使ってスイッチを制御できるようになっている。いずれもScratch用と同様の学習が可能だ。

実際に触らせてもらった所、操作は簡単で、部屋の温度に応じてオン・オフするエアコンなどの電化製品の仕組みが体感的に理解できると感じた。3つのプログラミングスイッチには、それぞれ黒板やホワイトボードに貼って使えるマグネットシートや、ノートに貼ってはがせる学習用付箋といった補助教材もあり、「板書とノートで学習内容を整理したり、ホワイトボード上でプログラムの設計図を議論させたりすることで活動がスムーズになり、子どもの理解も上がります」と担当者。前述のセミナーで横尾俊彦氏が全国ICT教育首長協議会で抽出された課題としてプログラミング教育を挙げていたが、「プログラミングスイッチ」ならプログラミングの要素を教科の授業に取り入れやすく、大いに役立ってくれることだろう。

もう一つ注目を集めていた新製品は、様々な理科実験器具をすっきりと整理できるアクティブトレイ用の収納カート「アクティブトレイ収納」。運搬に便利なキャスター付きで、少々乱暴に扱ってもビクともしない、しっかりとした造り。「アクティブトレイ用ストッパー」を取り付ければ、トレイを最後まで引いても落下しないため、子どもでも安全に実験準備や後片付けを行える優れものだ。

このほか、全国各地(2018年6月現在27校に設置)の気象データを比較・閲覧できる「IoT百葉箱(R)」、一人での観察にもグループでの共有に対応できる「モニター付きデジタル顕微鏡Dシリーズ」、装着するだけで既存のアナログ顕微鏡がデジタル顕微鏡に早変わりする「デジタル顕微鏡カメラSCD-50U」といった人気製品の展示も多数。ICTを活用した授業改善に取り入れてみてはいかがだろうか。

取材・文:吉田教子/写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

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