2016.01.20
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探究的に読み深めていく子の育成をめざして(アクティブ・ラーニング実践編2)

京都教育大学附属桃山小学校 教諭 若松 俊介

子どもたちが「学び」のスタート

 初めて、その物語を読んで気になった「問い」、自分たちで生み出した「問い」をもとにスタートした子どもたちの学び。「問い」が子どもたちのものであればあるほど、子どもたちは主体的に学んでいきます。

 また、深層にせまる「問い」であればあるほど、新たな「問い」を生み出し、学びのサイクルは止まりません。勝手に読み始め、勝手に音読をし、勝手にいろんな人と議論し始めます。読み進めていくテーマも自分たちでどんどんつくり出します。現在、話題となっている「アクティブ・ラーニング」の姿もここから少しは見えてきているような気がします。

 それでは、前回の実践紹介(「大造じいさんとがん」椋鳩十 作)の続きです。「問い」をもとに個人・グループで読み深めてきたことを学級全体でどのように共有すれば良いのでしょう。子どもたちの「問い」があるからと言って、そのまま何も考えずに進めていけば良いのではありません。子どもたちの学びをより促進させていくために、どんな「問い」をどのように採り上げるのかが教師として大切な役割となってくるのではないでしょうか。 

どんな「問い」をどのように採り上げるか

 今回は、全体で共有した実践の1つを紹介したいと思います。共有テーマとして私が決めたのは、

「大造じいさんの『残雪に対する思い』が1番変化したところはどこなのかを明らかにしよう」

というものです。これは、子どもたちがはじめに持った「問い」をもとに3人組・6人組と話し合っていく中で最終的に残ったものの1つです。

 なぜ、私が今回この「問い」を採り上げたかというと、「1番」なんて決められないからです。「決められないのに採り上げるなんておかしい」と思われる方もおられるかと思います。ただ、私があくまでも大切にしたいのは、「探究的に読み深めていく子の育成」です。だからこそ、子どもたちの「問い」を大切にすると同時に、このような「問い」に行き着いた時にどうすれば良いのかを子どもたちと一緒に考えられればと思ったからです。作品を読み深めると同時に、これから自分たちで自分たちの「学び」をつくる力も育てたいと考えました。

 

子どもたちは、ひとり読みの段階では大きく次の6つの立場に分かれました。それぞれの主張とその理由は、

「が、なんと思ったか・・・」

→これまでの大造じいさんなら撃っていた。残雪のこともずっとつかまえたかったのに、そのチャンスを活かさなかった。ここに大きな変化のポイントがあらわれている。

「残雪の目には・・」「いきなり敵に・・」

→この残雪の姿によって、心が大きく動かされた。だからこそ、大造じいさんも打たなかったのである。これまでの大造じいさんなら、「チャンス!」と思って撃っていた。

「堂々たる態度」「最期の時を感じて・・」

→大造じいさんがいてもなお、頭領としての威厳を失わない姿に心を打たれた。「ここで撃ってはいけない」と感じた。最初に「たかが鳥」と思っていたが大きく変わった。

「強く心をうたれて・・・」

→直接大造じいさんの心情が描かれている。はっきりと分かるからそこが一番のポイント。「ただの鳥に対しているような気がしない」と、はじめとの印象が大きく変わっている。これまでの積み重ねで一番大きく変わった。

「おうい、ガンの英雄よ・・」

→「英雄」という言葉に、尊敬の思いまであらわれている。「たかが鳥」とか「いまいましい」とか思っていたけど、大きく変わっている。ひきょうな手を使わずに、堂々と戦いたいと思っているのが、大造じいさんの大きな変化。

「迷っている」

→「ここで一番変わった」ということは決められないのではないかという考え。様々なことが積み重なって大造じいさんの心情は変化している。直接心情が描かれているのは「強く心を打たれて・・」のところぐらいである。

 

です。どの子の主張もおかしくありません。なぜなら、

「残雪の行動」
「大造じいさんの言動・行動」
「大造じいさんの心情」

と、それぞれ何を根拠にして考えているかの違いで、「1番」の場所も変わってくるからです。また、「1番変化した」という「変化」を

「変化の角度」
「変化の幅」

で捉えているかによっても大きく違います。

 だからこそ、子どもたちの主張のズレ、根拠のズレを埋め合わせていく中で、大造じいさんの心の葛藤と、それを引き起こした残雪の行動、そして、これまでの大造じいさんの在り方との大きな変化などについて、本文に書かれていることを根拠にして読み深めていくことができます。これまで、個人・グループで読み深めてきたことも活かされるでしょう。新たな気づきが生まれ、また自分の「読み」を深めていくことにもつながります。

 それと同時に、このような収束しにくい「問い」について議論していく際に、どのようなことを大切にして考えていけば良いのかも見つかってきます。

子どもたちの様子

 実際、子どもたちはそれぞれの立場で自分の考えをみんなに伝えていきました。単なる発表会ではなく、相手の考えをしっかりと聴いた上で自分の考えを伝えていきます。分からないところがあればおたずねをし、意見が分かれると真実を見つけようと議論し始めます。

 ただ、全体のめあてに「1番変化したところはどこなのか」となっているものですから、やはり「1番」を見つけようとします。当たり前ですよね。

 しかし、議論の中盤で「迷っている」「決められないのでは?」という考えが全体の場に出てきたのを皮切りとして、子どもたちの中で、「あれ?これでいいのかな?」「もしかすると、お互いがめあてとして考えていたことは違うのではないか。」となってきました。「変化」というものを幅で捉えているのか、角度で捉えているのかということや、それぞれの考えの違い、それらのつながりについても考えていきました。

 こうしたことに気づき始めた頃に、時間の終わりを迎えてしまいました。子どもたちの中に少しもやもやしたものが残ったまま、始めの1時間は終わりました。

 子どもたちは、ふり返りに、

「めあてをどう考えるかによって、みんなの意見が変わってくるのは当たり前ではないのか。そこを考えるとまた分かってくることが増えるはず。」

「自分の思っていためあてのとらえ方と、違うとらえ方の人がいた。もっとどう考えているのかを聞きたい。」

「最初は『1番』を見つけようとしていたけど、そうではではなく、もっと内容についての話し合いが必要。」ということを書いていました。面白いですね。「1番」を見つけようとしていたところから、視点が少しずつ変わっていきました。

 次の日、昨日の話し合いの続きから授業を始めると、子どもたちの中から

「これは、みんなでりんごの絵を描くようなもの。」

という意見が出てきました。「どういうこと?」とみんなで詳しく聞いてみると、

「1個のりんごをどこから描くかで絵が変わってくる。みんなそれぞれ見てるところから描くから、『どれが間違い』とか『どれが合ってる』とかないのと同じなんちゃうかな。みんなの絵を合わせれば合わせるほど、りんご1個のことがどんどん分かってくる。」

というものでした。正直「すごいなぁ。」と思いました。他の子どもたちもこの意見で「あぁ。ほんまやなぁ。」と納得していきました。そこからは、「1番」を見つけるのではなく、それぞれがどのようにこのめあてを捉えて、どのように考えたのかを聴き合う中で、この作品全体について読み深めていきました。細かな文章表現にも目を向けていきました。

 また、これまでよりも一層、お互いが「(意見を言っている人は)どのような視点で自分の考えを伝えようとしているのか」ということをとらえようとしながら相手の意見を聴けるようになっていく姿が見られました。

 教師が「そのようなことが大事」と言うことも大切です。しかし、何よりも「子どもたちが自分で気づく」ことが大切ではないかなと思います。そのためにどのような場づくりをするのかが肝心になってくるでしょう。「1番」を見つけるめあてからスタートしたとしても、そこからたくさんのことが分かるような、気づけるような場づくりをすることができます。ここで気づいたことは、グループで話し合いを自分たちで進めていく時にも活かされるでしょう。 

子どもの学ぶ力を信じる

 この全体共有の場面で私が心がけたことは、ただ単に子どもたちの意見を聴くのではなく、子どもたちが気になっているところで話題を絞ったり、それぞれ何を根拠にして話しているのかを分かるように板書して比較できるようにしたりするなどの支援をおこなうことです。

 また、一人ひとりの「読み」を把握した上で、どのようにつないでいくかをひたすら考え、なるべく「子どもたちの考え」で授業を共に創っていくことも大切にしました。このようにすることで、聴き合い・話し合いの場をもとにして、新たに「気づく」ことを増やしたり、そのことによって自分の「読み」を更に深めていけたりするようになればいいなと考えました。

 子どもたちは本当にすごいです。物事の本質をつかみ取っていく力があります。だからこそ、どこまで信頼して待てるか、その上でどのような場づくりをするのかが教師には求められるのだと思います。もちろんしっかりと教材分析・教材研究をした上で、何を教えて何に気づけるようにするかを見極める。教材の本質や系統的なつながり、各教科間のつながりなど、大切なことが分かれば分かるほど、その場で子どもたちの声を受け止め、つないでいくことができます。ただ、本当にいつも迷いますし、いつも「あぁ、こうすればよかった」の連続です。

 「アクティブ・ラーニング」が話題になっていますが、本当はとてもシンプルなのだと思います。子どもをしっかりと見て(受け止め)、教材もしっかりと見て(受け止め)、その上で「授業を一緒に創る」という視点で授業を進めていけるように、これからも学び続けていきたいと思います。

若松 俊介(わかまつ しゅんすけ)

京都教育大学附属桃山小学校 教諭
「子どもが生きる」授業を目指して、日々子どもたちと共に学んでいます。子どもたちに教えてもらった大切なことを、読者の皆様と共有していければ幸いです。国語教師竹の会所属。

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