2015.12.31
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探究的に読み深めていく子の育成をめざして(実践編1)

京都教育大学附属桃山小学校 教諭 若松 俊介

「問い」と「問いづくり」とのつながり

 今回は、5年「大造じいさんとガン」(椋鳩十 作)での実践を少しご紹介させていただければと思います。以前に書かせていただいた「『問い』と『問いづくり』」と「探究的に読み深めていく子の育成をめざして」の内容がつながってきます。

 この学習は、子どもたちの「問い」をもとにスタートしました。子どもたちが気になったこと、もっと読み深めていきたいことをテーマにすることによって、子どもたちがより主体的に学習に取り組むことができると考えたからです。さらに、「問い」を持つことで、より文章に向き合ったり、こだわったりしていこうとしたり、「問い」→「追究」→「問い」→・・と、あらゆる学びのサイクルを自らつくり出したりすることにもつながっていくと考えました。

 しかし、ただ単に子どもたちの「問い」だけで進めていき、教師が何もしないのあれば、それはただの「放任」ですね。子どもたちの学習の質を高めるために、教師がどのような支援や場づくりをするかがとても大切になります。

 今回は、単元を通して「大造じいさんとガン」を読み深めていくとともに「問いづくり」にも注目していきました。作品をより読み深めていくための「問い」とは何かを考え、自分の中に獲得するからこそ、今後あらゆる作品と出会う時にも、質の高い「問い」を持って読み進めていくことができます。そのためにも、教師がどのような支援や場づくりをしたのかということを大切にしながら、実践をご紹介させていただきます。

学習の流れ

 以下のような流れで学習を進めていきました。

  1. 初読の感想を書く時にたくさんの「問い」を持つ
  2. 「なまえつけてよ」での学習経験をもとにして、「問い」についての基準を考える。
  3. 2.を元に精選した「問い」について自分なりの読みを持つ。(ひとり読み)
  4. 3.を元に聴き合い、話し合いながら「問い」をもとに3人組で追究する。(交流)
  5. 4.の後に挙げた「他のグループとも聴き合いたい『問い』」をもとに6人組で追究する。(交流)
  6. 5.の後に挙げた「みんなで聴き合いたい『問い』」について、自分なりの読みを持つ。(ひとり読み)
  7. 6.を元ににして、「みんなで聴き合いたい『問い』」をみんなで追究する。(交流)
  8.  改めて,物語を読み深めていく「問い」について考える。

 3人組、6人組の編成については、子どもたち一人ひとりの「問い」や交流での様子をもとにして私が決めています。より「読み」が深まるように、また、自分たちで聴き合い話し合う力を高められるように、と考えています。

 そのためにも、子どもたちが「ひとり読み」にじっくりと取り組むこと、交流の後にも毎回「ふり返り」をきちんと書くこと、これらをしっかりと教師が読んで、一人ひとりの「読み」を把握することが大切です。

子どもたちの中で残っていく「問い」とは?

 自分たちが生み出した「問い」だからこそ、3人組でも、6人組でも子どもたちは積極的に聴き合い、話し合います。(大きなホワイトボードを活用しています。)たとえ自分が考えた「問い」でないことが話題になったとしても、一緒に学ぶ仲間が考え、気になったものだからこそ、本気でじっくりと共に追究していこうとする姿がたくさん見られました。自然と自分の「問い」へと変換させていますね。

 子どもたちが3人組、6人組で追究していった内容は、

  • 「感嘆の声」の意味は「感心する」なのに、どうしてくやしいところで出したのか。
  • 「じゅうを下ろしてしまいました」の大造じいさんの気持ちの変化を知りたい。
  • 物語を通しての大造じいさんの気持ちの変化を知りたい。
  • 大造じいさんと残雪はライバルなのか。
  • どうして題名は「大造じいさんと残雪」ではないのだろう、 

・・など実に様々です。聴き合い、話し合っている中で「問い」がまた生まれてくるようです。

 一人ひとりが「ひとり読み」で自分の「読み」をしっかりと持っているからこそ、聴き合い話し合う時には、自分の「読み」と仲間の「読み」を比較しながら、改めて文章に立ち戻って真実を追究しようとします。決して、自分の意見を曲げない「討論」や、意見を言うだけの「発表会」にはなりません。

 また、3人組、6人組とグループでの聴き合い、話し合いを進めるにつれて、すぐ消える「問い」と残る「問い」が生まれてきます。文章から考えられないものや、すぐに教科書から答えが見つかるものは、話し合ってもどうしようもないのですね。すぐに消えていきます。子どもたちは自分たちの経験から「問いの質」を学びます。その中で、残る「問い」とは、「議論が平行線で終わらない」ということではなく、「もっと色んな人の考えを聴きたい」というものです。

 子どもたちは、3人組での交流を終えた後、「一人では何回読んでも気づかなかったことに、友達と聴き合う中で気づくことができた。だから聴き合うことは面白いし、一人で読む時にももっと色んな言葉を大切にできるようにしたい」というふり返りを書いていました。まず、ひとりできちんと読んだからこそ、この「ふり返り」が生まれます。そして、こうした経験をもとにして、聴き合い・話し合うことが、子どもたちにとってより大切な時間となっていくのでしょう。

 グループでの交流を重ねた後に残った「問い」をいよいよ全体で共有していきます。どのように共有するのか、というのがとても大切になってきます。全体共有については、次回にご紹介させていただきます。よろしくお願いいたします。

 それでは皆様、よいお年をお過ごしください。

若松 俊介(わかまつ しゅんすけ)

京都教育大学附属桃山小学校 教諭
「子どもが生きる」授業を目指して、日々子どもたちと共に学んでいます。子どもたちに教えてもらった大切なことを、読者の皆様と共有していければ幸いです。国語教師竹の会所属。

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