国語科におけるアダプテーション(翻案)~基本と授業への可能性(1)
私は日々の国語科の授業で「アダプテーション」という手法を取り入れています。
今回はアダプテーションの定義やきっかけ、意義などをまとめていきます。
千代田区立九段中等教育学校 廣瀨 紘太郎
はじめにーアダプテーションとは何か
近ごろ、国語の授業で「アダプテーション(翻案)」という言葉が耳目に触れることが増えてきました。アダプテーションとは、既存の作品を自分なりに読み替えたり、媒体を変えて語り直したりする取り組みを指します。例えば小説や漫画の映画化など「もう一度生み出す」営みと言えるでしょう。
カナダの文学研究者リンダ・ハッチオンは『アダプテーションの理論』の中で「先行テキストを再解釈し語り直す過程および創作物」と述べています。
難しい理屈を知らなくても、私たちは日常的にアダプテーションに触れています。書店に並ぶコミカライズ、映画館の実写版、スピンオフ小説など思い当たるものが、きっと一つはあるのではないでしょうか。
アダプテーションに惹かれたきっかけ
アダプテーションとの出会いは、大学の「近代文学」講義でした。芥川龍之介の『羅生門』『藪の中』と黒澤明監督の映画『羅生門』を見比べる授業で、黒澤明がテクストをどのように解釈し、映像化したのか深く考えました。
特に冒頭の「ある日の暮方のことである……」からの映像は小説の視点と合わせたカメラワークや構図で臨場感があり、別の部分では登場人物の心情を明暗で表現したり、カメラのアングルで立場の優位性を示したりしていました。教授の「天才が天才を表現するとこうなる」という言葉が、今でも強く印象に残っています。
それ以来、私は文章を読むだけでなく、テクストを「変換」することが、学びを深める大きなヒントになると感じています。
国語科におけるアダプテーションの意義
2017年の中央教育審議会では、「教材への依存度が高い」という課題を挙げつつ、思考・判断・表現を統合した質の高い言語活動の充実を求めています。
つまり、指導上のねらいを明確にした上で、知識及び技能を活用しながら思考力・判断力・表現力等を発揮できるような質の高い言語活動が求められていると言えます。アダプテーションは、まさにこの課題を乗り越える鍵になると考えます。
授業で取り入れる際の2つのアダプテーション

(表1)アダプテーションの種類 筆者作成
アダプテーションを授業で活用する方法は、大きく分けて二つあります(表1)。
このようにアダプテーションには
- アダプテーションされた作品を通じた学び
- アダプテーションすることを通した学び
があると考えます。
1人1台端末の導入で、②の創作は多様な方法で取り組みやすくなりました。生成AIを活用することも有効です。
おわりに―次回の記事につなげて
今回は、アダプテーションの基本と授業への可能性をまとめました。
次回は、具体的に単元をどのように設計し、「活動あって学びなし」に陥らない授業をどう組み立てるかをご紹介します。
参考資料

廣瀨 紘太郎(ひろせ こうたろう)
千代田区立九段中等教育学校
「活動あって学びあり」をモットーに、日々研究を重ねています。特に国語科教育では、アダプテーション(翻案)の手法を取り入れた授業を実践し、生徒の深い学びを目指しています。
教科の枠を超えて、多様な視点からものごとを捉え、表面的なことだけでなく、その背後にある本質に迫ることを大切にしながらよりよい教育のあり方を皆さんとともに探究していきたいです。
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