国語科におけるアダプテーション―『平家物語』の実践(2)
本稿では、中学2年生を対象とした『平家物語』のアダプテーション実践を紹介します。
朗読中心の従来型学習から一歩踏み出し、韻律と表現技法を生かした歌詞創作と楽曲制作に取り組むことで、生徒が古典世界を主体的に再解釈し、言語感覚を磨ける授業デザインを提案します。
千代田区立九段中等教育学校 廣瀨 紘太郎
古典に対する生徒の意識
「古典は不要ではないか」という声は、今なお少なくありません。
私が重視するのは、生徒が古典の世界に親しむ入口をいかに用意するかです。
時代の壁を取り払い、遠い昔のテクストを身近に感じさせる手法としてアダプテーションを取り入れました。
『平家物語』で育てたい資質・能力
私は『平家物語』を通じて、生徒が古典のリズムに親しみ、その学びを自己の生き方に結び付けてほしいと願い、本単元を構想しました。
具体的には、
・七五調・対句・押韻などリズムに着目し、自ら創作者となって表現を工夫すること
・無常観や武士の矜持を自己の価値観に照らし、考えを深めること
をねらいとしました。
実践の概要
・基本事項・内容の確認
『平家物語』冒頭・「扇の的」「弓流し」を音読し、七五調・対句表現などの特徴を整理しました。また、琵琶法師の平曲も視聴し、古くから“耳で味わう文学”であることを体感させました。
・アダプテーション(作詞)
原文の趣を保ちつつ、現代でも口ずさめる歌詞へ翻案しました。校内で使用しているAIツールを初稿作成の補助に用い、表現の特徴や内容と合致しているかを軸に必ず推敲を実施しました。
・アダプテーション(作曲)
完成した歌詞を生成AI「Suno AI」で楽曲化しました。生徒はジャンルやテンポを協議し、歌詞と旋律の親和性を検証しながら音源を完成させました。
・「平家物語リミックス」鑑賞会・振り返り
各自の楽曲を掲示板にアップロードし、クラス全員で鑑賞会を実施しました。相互評価と原文との照合を行い、読みの深まりを確認しました。
まとめ
本実践では、『平家物語』の韻律や表現技法を生かしたアダプテーションを通して、生徒が古典固有のリズムを体験的に味わうことができました。
特に七五調や対句を意識した歌詞創作では、語の長短や語順の微調整が意味と響きをどう変えるかを肌で感じ取る姿が見られました。
また、生成AIを“たたき台”として活用したことで、初稿と推敲稿の差異が可視化され、生徒は「AIを鵜呑みにしない」という情報活用についても意識できました。
以上より、アダプテーションは旧来のリライトだけでなくICTを活用することで様々な言語活動を実施することができます。
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廣瀨 紘太郎(ひろせ こうたろう)
千代田区立九段中等教育学校
「活動あって学びあり」をモットーに、日々研究を重ねています。特に国語科教育では、アダプテーション(翻案)の手法を取り入れた授業を実践し、生徒の深い学びを目指しています。
教科の枠を超えて、多様な視点からものごとを捉え、表面的なことだけでなく、その背後にある本質に迫ることを大切にしながらよりよい教育のあり方を皆さんとともに探究していきたいです。
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