国語科におけるアダプテーション‐漢文の実践(3)
今回は、『論語』の授業実践を紹介します。
漢文の訓読を土台としながらも、教科書に載っている現代語訳をそのまま受け止めるのではなく、生徒自身が訳者になって自作のポストを創作(アダプテーション)しました。
複数資料をもとに現代語訳を考えることで、自分の考えを深めていきます。
千代田区立九段中等教育学校 廣瀨 紘太郎
漢文の授業で感じるモヤモヤ
漢文の授業というと、素読や音読、訓読を中心に進めることが多いですよね。もちろん声に出して読むことには大きな価値がありますが、「読み方」に偏った授業で終わってしまう場面もしばしば見られます。
また、生徒は教科書の現代語訳を「これが唯一の正解」と思い込みがちです。しかしよく考えると、その訳は訳者の主観が反映された一つの解釈にすぎません。だったら、生徒自身が訳してみたらどうだろう。論語を自分の言葉で表現してほしい。そんなねがいから今回の活動を設計しました。
実践の概要
基本事項の確認
はじめに基本的な訓読のルールや句形を押さえ、読み下せるようにしました。
漢和辞典で意味を探る
キーワードとなる漢字を漢和辞典で調べ、語源や用例を踏まえて意味の幅をつかみました。
複数資料を比較して現代語訳(意訳)を考える
教科書・参考書・ウェブ上の解釈など複数の現代語訳を並べ、「語順」「語感」「訳者の視点」の違いに注目しながら、自分の生活感覚や価値観を反映した「ポスト」をつくりました。
掲示板で共有し読み合う
自作したポストを読み合い、①共感した点②疑問に思った点③別の表現案……の三観点でコメントを付け合いました。
振り返り
もらったフィードバックを基に訳をブラッシュアップし、「なぜ自分はその言葉を選んだのか」「原文のどの魅力を残したかったのか」を振り返りシートにまとめました。
成果物
実際に生徒が創作したポスト
①「之を知る者は好む者に如かず。之を好む者は楽しむ者に如かず」
(現代語訳:それを知っているだけの者は、それを好む者に及ばない。それを好む者は、それを楽しむ者に及ばない。)
この一節を扱った生徒のポストは次の通りです。
「知ってる仕事をする/好きなものを仕事にする/好きな仕事をたのしみながらする/どれがいいかって話」
この生徒は、「楽しむ者が最上位」というメッセージを前面に出さず、読者に質問を投げかけています。また、「仕事」へ焦点を当て、将来を見据えた内容に仕上げていました。
②「学びて思はざれば則ち罔し。思ひて学ばざれば則ち殆し」
(現代語訳:学んだだけで自分で考えなければ、明確には理解できない。自分で考えただけで学ぶことができなければ、独断に陥って危うい。)
別の生徒は、文字を一切使わず絵文字だけでこの一節の訳を表現しました。
ノートやバツ印、怒りのマーク、ひらめき(電球)、輝き(キラキラ)などを使って、考えることや学ぶことを表しています。
視覚的に意味を伝える工夫が光り、アダプテーションの多様性を示す好例となりました。
まとめ
本実践では、原典を軽視することなく、複数の資料や漢和辞典を参照しながら内容をじっくり咀嚼し、生徒が自分の言葉で表現できるように「ポスト」の創作活動を行いました。
原典と対話しつつ、自分なりの訳を生み出すプロセスは、国語科において極めて重要です。生徒が主体的に、生き生きと学びに向かうために、アダプテーションは大きな力を発揮すると実感しています。

廣瀨 紘太郎(ひろせ こうたろう)
千代田区立九段中等教育学校
「活動あって学びあり」をモットーに、日々研究を重ねています。特に国語科教育では、アダプテーション(翻案)の手法を取り入れた授業を実践し、生徒の深い学びを目指しています。
教科の枠を超えて、多様な視点からものごとを捉え、表面的なことだけでなく、その背後にある本質に迫ることを大切にしながらよりよい教育のあり方を皆さんとともに探究していきたいです。
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