2025.12.20
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愉しい授業を創る「聴き合う学級が授業を支える関係づくり編」

愉しい授業を創っていくためには、学級集団における関係づくりが欠かせません。
視点を変えながら、関係づくりの在り方について考えてみました。

浜松学院大学地域共創学部地域子ども教育学科 教授 川島 隆

ある日の電車の出来事です

ある日、私用のため休みをとって、いつもは乗らない電車に乗りました。
電車が発車するまでは数分の時間がありましたので、持っていた文庫本を開き、読み始めました。
すると、少し慌てたふうで乗り込んできた高齢の女性が、私から少し離れたところにいた女性の隣に座りました。
そして、その高齢の女性が先に座っていた女性に、こう問いかけます。
「この電車は、熱海行きですか?」
問われた女性は、穏やかな口調で「そうですよ」と返します。
そして、「どちらに行かれるのですか」と逆に尋ねました。
すると、高齢の女性は、「静岡に行くのです」と答えます。
さらに女性は、「どんな用事で行かれるのですか」と問いかけます。
高齢の女性は「娘に会いに行くんですよ」とにこやかに答えるのでした。 
電車はいつの間にか動き出していましたが、2人の会話は、この後も絶え間なく続いていきました。
時折笑い声も響きます。

ところで、この2人は言うまでもなく全くの初対面で、偶然に同じ電車で居合わせたのですが、話している姿はそのようには見えません。
まるで気心の知れた、古くからの知り合いのように見えてくるのでした。

参観した国語の授業から

これまた、ある日、参観した授業のワンシーンを紹介します。

それは5年生の国語の授業でした。 
「固有種が教えてくれること」(光村図書)を教材として、図表などの資料がどのような効果があるのかについて、子どもたちがそれぞれに考えたことを、聴き合い、深めていくという授業でした。 
幾人かの発言が続いた後のことです。
一番後ろの席の女の子が、こんな発言をしました。
「でも、この資料だけ見ても、何を伝えたいかは文章がないと分からないと思います」 
すると、その前にいた男の子が、「確かに」とつぶやきました。 
自然なそのつぶやきに、この2人の関係性がうかがえるような気がしました。
女の子にも、このつぶやきが聴こえないはずがありません。
自分の耳に入ってきた、この言葉をどのように受け止めたでしょうか。
「自分が話したこと聴いてくれていて、よかった」
「私の言ったこと、ちょっと不安だったけど、受け止めてくれた。賛成してくれたんだ」 
そのように感じたかどうかは分かりませんが、少なくとも肯定的に受け止めていたことでしょう。

もちろん、友達の発表の聴き方について、
「友達の発表を聴いたら、反応しましょう」
「うなづいたり、声に出してみたりしよう」
そういった指導をしている教室もあります。
しかし、その「反応」が画一的に、表面的に行われていることも少なくありません。
発表の後、皆が「うん、うん」とうなづきの大合唱という教室もあります。

大事にしたい関係性

「聴き手」が「話し手」を育てると言います。
上手に話すことを指導するには、まず上手に聴く子どもを育てることが大切であるとも言われます。 
また、「聴き上手は、学び上手」でもあるのです。
いくら上手に話せる子どもでも、たくさん発言する子どもであったとしても、他の子どもたちが聴いていないことがあります。 
その子は一体、何のために発言しているのでしょうか。
誰に向かって話をしているのでしょうか?
話し手は、聴き手があって初めて、話すことの意味を感じるのではないでしょうか。
しかも、先ほどの女の子と男の子2人のように、「話す」と「聴く」ができる関係があって、初めて成立するものではないでしょうか

この人なら、「聴いてもらえる」「話しても大丈夫」という関係こそ創っていかなければならないのでしょう。
「○○さんが、話します。だから、聴きましょう」
という指導だけでは、本当の意味で「聴かない」ですよね。
子どもは、聴いているように見せますが。

よい体育の授業とは

さて、スポーツ教育学の研究者である高橋健夫氏らは、よい体育授業を成立させる条件として二重構造を提案しています。
体育授業では、その授業で何を学ぶのか、どのような資質・能力を身に付けるのかという明確な学習目標や内容をはじめとする「内容的な条件」が大切です。
一方で、「基礎的条件」として、「マネジメント(学習時間の確保)」や「学習規律(子どもたちの学ぶ姿勢)」によって生み出される《学習の勢い》と、「肯定的な人間関係」や「情緒的解放」によって保障される《学習の雰囲気》が整っていることも、よい授業を成立させていくには欠かせません。 

このことは、体育の授業に限ったことではありません。
他の教科にも、当てはめて考えることもできるのではないかと思います。
つまり、「基礎的条件」、言い換えれば、よい学級づくりができていても、学ぶべき内容が詰まっている授業でなければ、子どもたちにとって愉しい授業にはならないでしょう。

逆に、「内容的な条件」が十分に検討され、適切なものであっても、「基礎的条件」が十分に整っていなければ、よい授業にはならないでしょう。

「内容的条件」と「基礎的条件」、言い換えれば、「授業づくり」と「学級づくり」の双方を、授業や学校生活全般を通して進めていくことこそ、肝要であると考えられます。

ちょっとした場面からの関係づくり

そして、この「基礎的条件」を整えていくためには、つまり、学級づくりを進めていくためには、子どもと子どもの関係づくり、教師と子どもの関係づくりを、ちょっとした場面から創っていけるんじゃないかと思うのです。

例えば、冒頭の場面で紹介した2人の女性のやり取り。
見知らぬ者同士、初対面であっても、ちょっとした言葉かけから「関係づくり」はできるということです。
学校生活の中でも、「あいさつ+1」という言葉がありますよね。
「おはよう」に続けて「プラス・ワン」の言葉かけがあることで、関係が深まるきっかけになります。
そこから関係ができていれば、国語の授業で見られた男の子のように、友達の発言に対して、自然な受け止めができるんじゃないかなと思います。

電車内でいえば、自分のスマホ画面ばかりに視線を集中していると、互いに声も掛けられないのですよね。
いつ言葉を掛けられてもOKだっていう姿勢、雰囲気があることがまず大事じゃないかって思うのです。
電車に先に乗っていた女性には、そうした雰囲気があったのかも知れません。
教師自身が忙しそうに席でノート点検をしていると、声を掛けるのを遠慮しちゃう子どももいるでしょう。
いつでも、welcomeの姿勢をつくっていることって大事だなって思います。

むすびに 

「人間関係づくりプログラム」というものが
作成され、活用を奨励している都道府県や市町があります。
もちろんそうしたプログラムの活用をとおして、関係づくり、学級づくりを進めていくこともよいと思いますが、意外と生活のちょっとした場面に関係づくりのヒントやきっかけがあるように思います。いかがでしょうか。

電車内の2人。
先に乗っていた女性が下りる駅に着きました。
女性は、「では、お気をつけて」と高齢女性に一言あいさつをして、電車を後にしました。  

川島 隆(かわしま たかし)

浜松学院大学地域共創学部地域子ども教育学科 教授


2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。

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