学び、挑戦する学校へー桑田真澄さんの言葉に学ぶチームの力
前回の「どう働くのか?」では、「あなたの働き術はどこにありますか?」というテーマで、教員としての働き方や時間の使い方を振り返りました。
今回は視点を少し広げ、個人の働き方から、組織としての学び方へと焦点を移して考えてみたいと思います。
西宮市立総合教育センター 指導主事 羽渕 弘毅
野球の話から考える
私は、ときどき「野球」と「教育」を重ね合わせて考える記事を書くことがあります。
「『慣れ』から生まれるもの」では、オリックスの中嶋聡監督退任のニュースをきっかけに、「慣れ」という言葉を教育現場の視点から捉え直しました。
スポーツの世界も学校の世界も、日々の積み重ねの中で「慣れ」による安心を得る一方、変化への感度を失いやすいという共通点があります。
そんな中で…
そんな中で、巨人の二軍監督・桑田真澄氏が語った「学び、挑戦する組織」という言葉に強く心を動かされました。
野球という競争の厳しい世界で、選手やコーチの自主性や個別性を大切にしながら、チーム全体で学び続ける文化を築こうとする姿勢に、教育現場にも通じるものがあると感じたからです。
桑田氏の退任メッセージより
桑田氏は退任にあたり、次のように語っています。
「日々のチーム運営ではミーティングや面談、勉強会の文化を根付かせ、プロの感覚と客観的なデータを組み合わせた技術指導を目指してきました」
監督自身が動く前から、選手やスタッフが自発的に行動する組織に変わっていった。桑田氏はその変化を「大きな喜びだった」と振り返っています。
「選手には『失敗を恐れずに挑戦する』『プロフェッショナルとは』『自主性と個別性』といった言葉を語りかけてきました」
学ぶ余白をつくる
桑田氏の言葉には、学びの在り方そのものを問い直す視点が含まれているように感じます。
指示を待つのではなく、自ら考え、試し、動く。その変化を支えたのは、きっと学ぶ余白だったのでしょう。
学校現場でも、同じことが言えます。
研修や研究会では、つい「講師の助言を聞く時間」に多くの比重が置かれがちです。
しかし、助言を受け取るだけでは、行動は生まれません。
「やってみたい」「取り組んでみたい」という余白が残ってこそ、学びは次の一歩につながります。
この余白は、単なる時間的なゆとりではなく、心理的な余裕でもあります。
失敗しても受け止められる雰囲気、意見を言えば誰かが拾ってくれる関係性。
そうした文化があるとき、教師は外から与えられる学びではなく、自らつくる学びへと動き出します。
個別性が生きる組織へ
もう一つ考えたいのは、個別性の扱いです。
現場では、平等性を重んじるあまり、得意なことを生かす場面が少なくなりがちです。
研究発表も分担表も、同じ比重で割り振られることが多い。
しかし、組織の力は「みんな同じことをする」ことではなく、「それぞれの得意を活かし合う」ことで発揮されるのではないでしょうか。
桑田氏のチーム運営にも、その発想が見えます。
選手・コーチ・スタッフそれぞれが自分の強みを理解し、そこに責任と誇りを持つ。
教育現場でも、教員が自分の専門性や興味を活かして貢献できる仕組みがあれば、組織全体がもっと有機的に動けるはずです。
教師の主体性をどう支えるか
自主性と主体性は似て非なるものです。
自主性は「自分の判断で動く力」、主体性は「目的意識をもって学びや行動を自ら意味づける力」。
桑田氏の言葉を借りれば、「監督が動く前から行動する」状態が自主性であり、その行動の理由や価値を自分で見出しているとき、それが主体性になるのだと思います。
教師の主体性を育てるには、制度や研修だけでは足りません。
大切なのは、「なぜ学ぶのか」「なぜ挑戦するのか」を自分の言葉で語れる文化をつくることです。
失敗を恐れずに試行錯誤できる環境、学びを共有できる仲間、そして立ち止まって考えられる時間。
こうした条件がそろったとき、教師は自らの学びを再び動かし始めるのではないかと感じています。
もう一度
桑田氏の言葉を、もう一度教育現場に置き換えて考えてみたいと思います。
「学び、挑戦する組織」とは、特別な仕組みをつくることではなく、一人ひとりの教員が学びを語り合える日常を取り戻すことではないでしょうか。学ぶ余白をもち、個別性を認め合い、挑戦を支え合う。その積み重ねの先に、組織としての成長が見えてくるのだと思います。
次回は、こうした「学び、挑戦する組織」の基盤となる日々の授業研究について考えてみたいと思います。

羽渕 弘毅(はぶち こうき)
西宮市立総合教育センター 指導主事
専門は英語教育学、学習評価、ICT活用。高等学校や小学校での勤務経験を経て、現職。これまで文部科学省指定の英語教育強化地域拠点事業での公開授業や全国での実践・研究発表を行っている。働きながらの大学院生活(関西大学大学院外国語教育学研究科博士課程前期)を終え、「これからの教育の在り方」を探求中。自称、教育界きってのオリックスファン。
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