p4cの最終目標は?
以前の記事でも紹介しているとおり、「p4c」とは「philosophy for children(=子どものための哲学)」のことで、クラス全員が車座になって正解のない問いについて対話します。これまでに何度か、p4cの実践に関する報告をする機会がありました。そのときによく質問されたり、話題になったりしたのが、最終目標(=理想的な対話の形)は?といったことでした。様々な場面でp4cを取り入れてみて、その最終目標について考えたことを書いてみました。
前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭 山形県立米沢東高等学校 教諭 高橋 英路
p4cについて
p4cの基本的な流れや実践例は過去の記事に書いていますので、以下をお読みください。
①「授業に対話(p4c)を取り入れる」
②「問いを考えさせる」
③「セーフティの大切さ」
さて、この手法を取り入れたとして、最終的な目的、ゴールは何だと思いますか?
どこを目指す?
(1)何を目指すのか?
(2)セーフティな空間になっただけで満足して良いのか?
セーフティが確立され、各自が思ったことを遠慮なく話せるのは素晴らしいことです。ただ、相手と反対の意見を持っていても、ぶつかり合わず「なあなあ」で終わってしまって良いのか?ということでした。
これに関しては、「p4c」のルールに「否定しない」とはありますが、それは相手と反対の意見を述べていけないというわけではありません。他の人と違った意見でも安心して言える、さらには、自分と反対の意見に対して根拠や真偽を確認するような問いかけを遠慮なくできる、そういった空間が本当のセーフティだと思います。
(3)「自由とは?」「人はなぜ相手によって態度を変えるのか?」といった道徳的な問いだけでなく、「消費税増税は妥当か?」など、時事的な教科・科目に関する問いを議論するところを目指さないのか?
こちらもよく聞かれるのですが、以前の記事にも書いたとおり、私は問いを生徒に考えてもらうことに意義を感じています。「学習内容を踏まえて」とか「この記事を読んで」といった条件をつけることはありますが、そこから教科・科目の高度な知識が必要な問いが出ることもあるでしょうし、逆に教科・科目の専門性は薄れ、創造性が求められるような問いになることもあります。出てくる問いの性質にもクラスや学校によって特徴があり、それもまたp4cの面白さではないかなと思います。
(4)ボールなしで話せるのが最終目標では?
これもよくあります。ボールがないと話しにくいから便宜上ボールを使っているだけで、それがなくても話せる状態が理想なのでは?実社会の対話にはボールなんてないし……ということです。ボールを持ってなくても、もっとテンポよく話したい人もいるだろうし……とか。これらは、その通りではあるのですが、「p4c」では、そうした実社会で行われる普通の会話とはまた違った不思議な空間であることが魅力のような気がするのです。実社会ではどんなに仲が良くて気兼ねなく話せる間柄の友人グループであっても、その中での性格の違いや声の大小はあるわけで、話している途中に遮られることもあると思います。「p4c」では、おそらくそのような大親友のグループ内で行ったとしても、普段とは全く違った対話の展開が見られるかもしれません。
いただいた質問から、p4cの最終目標を考えてみたのですが、正直あまり思いつきませんでした。というより、p4cを導入した目的があるわけですから、その先生がそれを達せられたと感じたり、何らかの成長が見られた時点で、十分意義があったと言えると思います。こういう対話の形になるのが理想だ!とあまりガチガチに固めてしまうと、それこそ正解のない問いに向き合ってあれこれ模索する、知的な愉しみの部分が消えてしまうのではないかと思います。こういうモヤモヤした言い方は発表や報告に向かないのかもしれませんが、せっかくのp4cの醍醐味が薄れてしまっては意味がないので、自分が大事にしたいと思ったことを備忘録的に書いてみました。
高橋 英路(たかはし ひでみち)
前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭
山形県立米沢東高等学校 教諭
クラス担任と、地歴科で専門の地理を中心に授業を担当。生徒達の「主体的・対話的で深い学び」が実現できるよう、p4c(philosophy for children)やKP(紙芝居プレゼンテーション)法などの手法も取り入れながら日々の授業に取り組んでいます。
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