あいさつ指導から考える 教員研修の理想と実践
「最近、子どもたちのあいさつがどんどん小さくなっとるな」
「もう少し、先生たちもあいさつをしてほしいんよな」と、ベテラン教員の声が聞こえてきます。
しかし、無理やり促せばすぐにあいさつができるようになるとは限らないし、ベテラン教員の一言でほかの教員の意識が変わるとは限りません。
それでは、どのような研修を通して、児童や教員にあいさつを促していけばよいのでしょうか。
岡山県和気町立佐伯小学校 教諭 角田 直也
教育の中のあいまいさ

目的や目標が曖昧なまま指導を進めると"やらされ感"が強くなってしまう(筆者作成)
教育は、「思いやり」や「意欲」などの抽象的な概念を児童に伝えていくものです。そのため、教員間の暗黙の了解のまま進めていくと、目的も目標もあいまいになってしまいがちです。そのため、若手教員とベテラン教員の間で認識が違い、心の乖離が起きてしまいます。
ここでは、あいさつを例として考えてみます。あいさつがあふれる学校を目指している場合でも、「あいさつとは何なのか」「あいさつをするとどうなるのか」などの「あいさつ観」が曖昧であると、教員の意識もバラバラになってしまいます。そのような場合は、いつの間にかベテラン教員の「元気で大きな声のあいさつ」が理想のあいさつの型になってしまい、あいさつ観が違う教員や児童にとっては「やらされ感」が強くなってしまいます。
本校では、あいさつについてベテラン教員と若手教員が自由に意見を出し合い、あいさつを考え直す研修の時間を設けました。その研修で、抽象的な概念を一般化することで、若手教員とベテラン教員が一体となって児童への指導を加速させていくヒントがたくさん得られました。
研修の実践

抽象的な“あいさつ”の解像度を上げて、目標と目的を共有する(筆者作成)
①「あいさつ観」の共有
あいさつについてのとらえ方は、今までの生活環境や経験の差が影響しているようで、三者三様での意見が出ました。
「自己を奮い立たせるため(スイッチの切替)」
「グループへの所属意識」
「自己アピール」
「他者受容を通した自己肯定感・有用感」
このような意見の中で、あいさつの起源が話題となりました。狩猟時代、獲物を家に持ち帰るときの話です。貴重な食料を、通りすがりのほかの村の人に略奪されることを防ぐために、敵ではないことを示そうと交わした言葉が、後のあいさつになったそうです(諸説あり)。言い換えれば、あいさつは互いを認め合い、集団の所属を表すために生まれたツールだそうです。そうであるならば、あいさつをしない人に対して、敵意や嫌悪感を感じることは本能的に仕方がないことなのかと合点がいきます。
このような話し合いのもとに、本校では、あいさつを「互いの存在を認め合うツール」ととらえることにしました。
②あいさつは必要なのか
互いの存在を認め合うためにも、あいさつは必要であるという意見がありました。しかし、場合によっては、「あいさつがなくてもよいと思う」という意見もでました。児童の中には、昨日の出来事を教員に話したくてたまらず、あいさつを省略し、怒涛の勢いで話しかけてくる児童がいます。この児童の場合は、すでに教員の存在を認め、仲間であることが前提になっています。そのため、本校で考えるあいさつの本質はとらえていることになります。
あいさつが不要な場合もあると考える一方で、送迎に来た保護者や、1日のうちであまり言葉を交わすことがない教職員に対しては、共通の話題も少ないためあいさつを用いて、互いの存在を認め合うことも必要であることも確認できました。
学校現場では、児童が集団に属していることは心の安心や、自己肯定感の向上にもつながります。そのため、あいさつがあふれる学校は、児童が安心して生活を送ることができる条件の1つになり得ます。そのような学校を目指していこうと意識統一することができました。
③良いあいさつとはなにか
続いて、良いあいさつについて話題になりました。ここでも、「互いの存在を認め合うツール」という認識をベースとすることで、誰に向けてあいさつをしているのか明確にすることが大切であると共通理解を図ることができました。「◯◯さん、おはようございます」「いつも、お掃除をありがとうございます」などの相手を意識したあいさつは、互いの存在をより認め合うことができる理想形です。
クラスでは、理想のあいさつができている児童に、「どうしてそのようなあいさつができるのか」と問うことで、良いあいさつについてクラスで提案したいと考える教員もいました。
④あいさつを増やすために
「あいさつは強制的にさせるものではなく、自発的にすることを目指したい」「誰かに押しつけられた価値観で行動するのではなく、自分から行動できたことに価値を付加したい」とイメージを共有しました。
朝のあいさつ運動では、児童が自らあいさつできる環境を作るために、教員による「あいさつスポット」を増やし、児童のあいさつの回数を必然的に増やしていくことにしました。
理想の研修の型
このたびの教員研修を通して、教育現場に古くからある「暗黙の了解」や「言わずもがな、わかっている」という感覚は、一度見直す必要があると考えます。働き方改革が進み、会議や研修の効率化が図られる一方で、細かい教育観の擦り合わせが割愛されているケースが増えています。
世代間や生活環境で価値観が違う全教員による対話によって、全員の納得解で教育を進めていくことが求められています。今後は、そのような研修を丁寧にできるように働き方改革を進めていき、効率的に目標に向かって話し合えるように、教員のファシリテート力を磨いていく必要があると感じています。

角田 直也(かくだ なおや)
岡山県和気町立佐伯小学校 教諭
特別(聴覚)支援学校、青年海外協力隊(マラウイ)、公立小学校に勤務。
近年は、総合的な学習の時間に行う地域をフィールドにした活動を軸として、教科横断的なカリキュラム編成を実践・検証し、地域学習と教科学習の双方の深化について研究しています。
また、先輩教員のノウハウと新しい"観"の教育を融合しつつ、若手教員と共に学ぶ新しい研修方法を実践しています。
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