アメリカの学校:新年度におけるユニバーサルデザインと学級経営
アメリカでは、8月に入ると忙しくもワクワクする新年度シーズンが始まります。
子どもたちやその保護者にとって、夏休みは2ヶ月間もあります。
BACK -TO -SCHOOLを待ちきれない地区では、新年度の1ヶ月前になるとコミュニティを上げてカウントダウンを始めるところもあります。
2ヶ月しっかり休養をとり、心と体のバッテリーを充電させた教師にとっても新年度シーズンは心躍る時期です。
在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師 下條 綾乃
新年度をスムーズにスタートさせるため、教師たちは多くの準備に取り組みます。
アメリカの新学期準備は、単に物を揃えたり教室を飾り付けたりするだけではありません。
期待と希望、そして決意に満ちたこの季節、教師は魅力的な学習環境を整え、子どもたちに新たな挑戦と機会を与えるべく準備を進めます。
有意義な1年を築くための基盤を創ることは非常に大切です。
今回は、新年度のアメリカの学校におけるユニバーサルデザイン(UDL: Universal Design for Learning)を取り入れた教室づくりや学級経営の具体的な工夫・実践例を紹介します。
ユニバーサルデザインの基本理念
ユニバーサルデザインを取り入れたクラスルームでは、「誰もがアクセスしやすく、参加しやすい」学習環境を目指しています。
スペシャルニーズ(特別な支援)のある子どもだけでなく、英語を学習中の子ども(ELL: English Language Learners)、異文化背景を持つ子ども、学び方に違いのある子どもたちなど、すべての児童が対象です。
教室環境の工夫
・視覚・聴覚に配慮した掲示物
写真、図、ピクトグラム、アイコンを多用し、視覚的な情報提示を強化します。
音声指示に加えて書かれた説明も提供し、聴覚だけに頼らずに理解できるようにします。
・家具の柔軟な配置
車椅子や移動補助器具を使う子どもも自由に動けるよう、通路幅を広めに取り、机や椅子は簡単に移動できるようにします。
スタンディングデスクやクッションシートなど、子どもが自分に合った座り方や姿勢を選べる選択肢を用意することもあります。
・ノイズの軽減
音に敏感な子どもに配慮して、カーペットや吸音パネルを使用するなどの工夫が見られます。
教材・学習方法の工夫
・マルチモーダルな教材提供
文章・動画・音声・実物など、複数の手段で教材を提示し、子どもが自分に合った方法で情報を取り入れられるようにします。
例えば、読み書きが苦手な子どもには音声読み上げ機能付きの教材や、ビジュアル中心の資料を提供します。
・デジタルツールの活用
ChromebookやiPadなどのデジタルデバイスを活用し、読み書き支援アプリや翻訳ツール、タイピング補助などを用いることで、すべての子どもが学習にアクセスできるようにします。
・評価方法の多様化
紙のテストだけでなく、プレゼンテーション、ポスター、動画作成、プロジェクト発表など、子どもが自分の力を発揮しやすい形で評価を受けられるようにします。
学級経営の工夫
・行動期待の明確化と視覚化
ルールや期待される行動は「見える化」され、教室内に掲示されます。
例:"Be Respectful, Be Responsible, Be Safe"(敬意を持つ、責任を持つ、安全を守る)といったルールを、絵や写真を使って示し、子どもが理解しやすくします。
・選択肢を与える学級活動
朝の活動やグループワークなどでは、子どもがやりたい活動や参加の仕方を選べるようにし、自律性と安心感を育てます。
・社会的・情動的学習(SEL)の導入
感情の理解、共感、対人関係スキルの育成に重点を置く活動が日常的に組み込まれています。
感情を色で表す「ゾーン・オブ・レギュレーション」などもよく使われます。
この時期の教師の様子

新年度のために教室を準備します
・教室の準備
教師は、机の配置、学習センターの設置、学級ルール、児童を励ますポスターや児童に分かりやすいイラストを使った掲示板の飾り付けに何時間も費やします。
居心地の良い環境を作ることで、児童は初日から安心して意欲的に授業に臨むことができます。
・初職員会議、そして教員研修
児童が登校する約1週間前、教師は早く登校します。
1日目はPTAが主催したBREAKFAST MEETING(ブレックファースミーティング)で迎えられ、職員は朝食をとりながらこの1週間の日程を確認します。
そして学区が主催する約3日間の教員研修(PD)セッションに参加します。これらのセッションでは、多くの場合、最新のカリキュラム基準、テクノロジーの活用、教室運営戦略、公平性に基づいた指導方法などについて重点的に学びます。
・教室の準備、授業とカリキュラムの計画
教師は、教室のコミュニティを築き、ルールを確立するために、最初の1週間の活動を計画します。
写真のように教室を準備し、カリキュラムマップを確認し、授業計画を立て、歓迎の手紙やシラバス、保護者向けのニュースレターを印刷します。
・コラボレーション
学年または教科ごとにチームが集まり、目標を一致させ、リソースを共有します。
過去の児童データについて話し合い、さまざまなニーズを持つ学習者に合わせた個別指導を計画します。
・個人的な準備
予算が限られているので、多くの教師は時には自腹で、教室用品を購入しているようです。
教育実践の刺激となる個人的な目標と職業上の目標を設定し、これからの1年に向けて準備します。
BACK-TO-SCHOOL歓迎イベント
学校スタートの1週間前になると、カウントダウンが始まり、オリエンテーションやクラス張り出しイベント、そしてMeet & Greet(学校スタート前に家族と学校を訪れて、担任教師や教室の様子を見に行く日 )が行われます。
そして迎える新学年初日。パレードやスタートベルを鳴らす楽しい式典が行われます。
バルーンで飾られた学校校内や教室、大音量で流れる音楽、学校職員のペップトーク(子どもたちを励まし、やる気を引き出す短いスピーチ)で迎えられた子どもたちは続々と教室に入っていきます。
学校が始まって約2週間が経つと、オープンハウス(保護者が学校を訪れ、教室や授業の様子を自由に見学できる日)や新学期を祝うナイトイベントが開催されます。児童とその家族がは教室を行き来し、教師や学校スタッフと交流したりします。

下條 綾乃(しもじょう あやの)
在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師
日本語学校や領事館等で日本語を教えた後、米軍基地内の公立アメリカンスクールで日本語日本文化を教えて20年ほどになります。何年経っても毎日驚きと気づきがあり、それらの一部を皆さんと少しでも多くシェアできたら嬉しいです。外国の子供達に自分の話す言葉や習慣、文化を教えることの楽しさ、難しさ、面白さを呟いていきます。
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