愉しい授業を創る 歩いてみる編
生活科や総合的な学習の授業を、皆さんはどのように創っていますか?
学校で決まっているカリキュラムに沿って、進めていく。
もちろんそれは大切ですが、私が考えてみたいことは.........。
浜松学院大学地域共創学部地域子ども教育学科 教授 川島 隆
通勤方法を変えました
私は昨年度まで、何の迷いもせずに自家用車通勤を続けてきました。
しかし今年度から、電車バス通勤に変更しました。
勤務時間を気にせず仕事をしていると、つい遅い時間になり、車を運転して帰るのが面倒になってしまうことが度々あったのです。
また、電車やバスなら車内で本を読んだり、ちょっとした書きものをしたりして、時間を有効に使えるのではないかと思ったのです。
30分程度の通勤時間ですが、朝の時間は貴重です。限られた時間をどうやって生かすかを考えた結果でした。
通勤の仕方が変わって、どうなったか
朝、家を出る時間には変化はありませんが、見える景色が変わりました。
車は一人車内で過ごすよりほかありませんが、歩いて駅に向かうと通学通勤の人たちの姿が目に入ります。
電車の中では、座って作業に入ってしまうので、
あまり周りを注意深く見ることはありませんが、
周囲に人の気配を感じながら、時間を過ごすようになります。
多くの人がスマートフォンに目をやり、操作しています。
今どきの光景といってよいでしょう。
高校生が参考書に赤シートを置いて勉強している姿も見かけますし、時々、文庫本のページをめくっている人もいます。
でも、かなりの少数派です。
そして、バスを降りると職場まで歩きます。
歩いてみて、見えてくるもの
暑い夏でも、早朝や薄暮のころ、涼しい風を感じながら歩くのは、悪いものではありません。
街並みのいろいろな所に目をやりながら歩くと、車からは見えないものがたくさん見えてきます。
「こんなところに、こういうお店があるんだ」
魚屋、古本屋、畳屋、雑貨屋。そして、通りから入ったところには美術館。徳川家康ゆかりの松や、みかんの木などなど。
つい立ち止まって見入ってしまう、そんなものが道々にあるのですね。
そして、街そのものから伝わってくるものがあるのです。
何とも言葉では言い表し難いのだけれど。
歩いてみないと分からないものがあるのです。
そして、そういうところに子どもたちが生活をしている。
子どもたちは、自らの生活の場を、道を、街並みを、お店やさまざまな施設を肌で感じながら、生きているのですね。
学びがいのある授業を、愉しい授業を創っていくために
生活科や総合の授業は、まさにそうした子どもの生活の場を知ることが、授業づくりの第一歩だと思います。
それを知らずして授業はできないなと思うのです。
子どもたちが何に興味を持つかは、一言でいえば、地域、生活の場によると思うのです。
生活科・総合的な学習の研究で全国的に有名な横浜市立大岡小学校に、何度か足を運んだことがありますが、地域やそこにある商店街がいいんですよね。
歩いてみて、実に魅力を感じる街なんです。
だからこそ、地域学習も面白く、魅力あるものになるんじゃないかと感じました(もちろん先生方や子どもたちの授業を創る姿勢もあるのでしょうけど)。
ちょっと違った見方をすると、その地域の魅力を見い出すこと、歩いてみて感じ取ることが大切じゃないかと思うのです。
逆に、課題もあるかもしれません。
それらをひっくるめて、子どもたちが生活の中で、どのように感じ取っているかをキャッチしておくことは大切かなと思います。
その意味でも、やっぱり「歩いてみる」ことは、大切にしたいことです。
むすびに
ずいぶん前になりますが、元文部科学省初等中等教育局主任視学官・嶋野道弘先生が静岡で講演されたことがありました。
そこで、「生活科と総合の授業づくりのポイント」として、こんなお話をしてくれました。
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教師が、もっと積極的に地域を知るということです。
できれば年に何回か教師自身が地域を歩いて、何を発見するだろう、何に驚くだろう、何に疑問を持つだろうとやってみる必要があります。
この家はこんな果物を作っている、など地域の様々な姿を教師自身がつかみます。
それには歩くのが一番です。
自転車では、少し視野が狭くなります。オートバイでは、さらに狭くなります。車で行けばまったく見えません。
できるだけ子どもと一緒に歩くのです。
生活科では、子どもと一緒に歩くということを学習活動の一つに入れていいと思います。
総合の場合も、子どもが目をつけたことを拾い出しながら徐々に問題を作り出していきますが、その際、先生だけが思うのではだめです。子どもに置き換えなければいけません。
自分がおや?と思ったことを、子どもだったらどうするだろうと考えることが必要です。
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つまり、教師がまず自ら歩いてみること。
子ども視点をもちながら、さまざまなものを見て、聞いて、感じて、
「うちのクラスのこの子なら、これを見て、なんて言うだろう?」
「あの子だったら、これをどう感じるだろう」
そんなふうに想像をめぐらしながら、単元の導入やら、展開、目指すところを考えたりする。
もちろん、自分自身が何をどう感じるのか、それも大切にして。
熱中症が心配されるこの頃ですが、あんまり構えずに、ふらっと「歩いてみる」。
すると、思いのほか、驚きや発見があるんじゃないかと思います。
そして、それが愉しい授業の糸口になっていく。歩いてみた実感から、そんなことを考えました。

川島 隆(かわしま たかし)
浜松学院大学地域共創学部地域子ども教育学科 教授
2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。
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