探究を探究する―子どもの「やりたい」から始まる総合的な学習の時間の実践記録―(vol.6)
前回は、5年生総合的な学習の時間「究極のひよカフェ」の実践について、イチゴを育てる個の活動の様子から、その学ぶ姿をお伝えしました。
当たり前を疑うこと。問うこと。問い続けること。その個の思いを実現していく過程で、探究する学びがあります。
今回も、その個の思いがふくらみ、切実な問題を解決する中で探究する姿を紹介したいと思います。
「メロンを育ててメロンソーダをつくりたい」と考えた個を契機に、互いに協働しながら活動し学ぶ、その個らの姿を紹介します。
※文中に出てくる「個」という表現は、そこにいる子どものことを指します。その場にいるのは、その子だけなので、個という表現を使っています。
兵庫教育大学附属小学校 箱根 正斉
メロンソーダをつくりたい
メロンを育てたい ―雌花が咲かない―

メロンの花を探す個の姿
メロンを育てている個。
メロンの花は、咲きました。しかし、雄花か雌花かについては、知識としては知っているものの、実物を見ても見分けがつきません。実際に雌花を見て確かめたことがないからです。こうした姿が、朝の水やりをしているときに見取ることができました。するとその個は、朝の会で学級のみんなに伝えて、実際の写真をモニターに映しながら、インターネットの情報と見比べて確かめ、知識を自分のものにしていったのでした。
その後、毎日観察しましたが、雄花はたくさん咲くものの、雌花が一向に咲きません。そんな困り感からその個は、また朝の会でみんなに相談しました。そこで、「メロンは日光を好む」ことがわかり、日当たりの良い場所へ移動させることにしたのです。すると次の日、雌花の蕾が現れました。その個は、蕾の段階でも一目見て雌花だと判別しました。その姿から、どれだけこの雌花を心待ちにしていたかを感じることができました。そして、その個は雌花をみて興奮しながら
「日光にあてた甲斐があったなあ」
とつぶやいていました。
この一言にどんな意味がこめられているのでしょうか。
この個は植物の育て方で、心配なことや、わからないことがあるとインターネットで調べ、育て方を考えていました。今回も「日光にあてる」ということを調べて、自ら考え試してみたのです。
メロンを移動して一日で効果が出たのでしょうか。おそらくその個は、日光に当てた時間が短く、その情報が正しいかどうかわからないと考えていたように思います。
しかしそれ以上に、その個は雌花が咲いた喜びを体全体で感じていました。自分の行動がメロンへの愛着を深め、自己の関わり方を振り返らせていたのです。
このように、その個の情意が高まり、対象(メロン)への関わりが気づきを生み、学びを確かなものとしていく。思いを実現する過程において、体験を通して得た知識が、自分のものとして統合されていく姿を確認することができました。
スイン?メロカ? メロンとスイカを組み合わせると、どうなるのだろう

7月7日「メロンに花がついた」クラスへの報告会の板書記録
メロンを育てている個らは、雌花がついたメロンを綿棒で人工授粉させていました。
そして、朝の会では「スイカにも雌花と雄花がある。メロンとスイカを組み合わせるとどうなるのか」と、わくわくしながら試そうとする姿が見られました。
「スイン?メロカ?」
スイカとメロンの雄花と雌花を交配する。誰もしたことのないようなことを実現したい。そんな夢を語るような話へとつながっていきました。
いちごソーダをつくる ―炭酸は自分でつくりたい―
7月になると、収穫したイチゴが500gを超えました。初めに収穫したいちごは冷凍していたのですが、夏休みに入る前に一度試作品づくりをしたいと子どもたちは考えました。
メロンソーダを考えていた個は、いちごシロップを作って、いちごソーダにすることにしました。前日には、ほしいものをアプリの共有ノートに書きこみ、担任が買い物をして材料をそろえました。その共有ノートには、「炭酸ジュース」という材料がありました。
しかし、次の日になると、炭酸ジュースを作ろうと考えていた個が
「自分が書いた材料が、誰かに消された」
と、悲しい顔で担任に訴えてきました。
どうしても作りたいとこだわるその個は、泣きそうになりながら、
「食用重曹とクエン酸が欲しい」
と担任に願い出ました。
実はその共有ノートは、作り方を簡単にするために、友達が材料を書き換えていたのでした。その結果、その個は「炭酸を一から作る」という願いを実現することができませんでした。
当日、その個はほかの仲間といちごシロップを作り、炭酸水で割って飲んでいました。仲間のみんなと、いちごソーダを作ることができました。
この活動を通して、この個はさらに「自らの究極」を目指して活動することとなるでしょう。
そこまで炭酸づくりにこだわるその個から考える
ここまで立ち上がってくる、この個の思いは何なのか、考えてみました。
その個は、自分で究極に迫ろうと自ら動く姿を見せます。授業中の姿は非常に素直で、興味・関心があると自ら調べ、行動するのです。
1学期の最後には、おばあちゃんの家でとれたメロンを持ち込み、学級の仲間と味見しました。
また、
「生の果物は、あまり好きじゃない」
と授業中に素直に語ることで、学級全体に果物の加工を提案し、訴えていける個なのです。
こうしたこの個の「本音で語る存在」が、学級でも本音を語れる個をどんどん増やしていきます。本気で探究できる活動と本音で語れる場、認め合える仲間の存在が、この個の生活を支えているのだと思います。
その個が、その個らしく生活する
今回、メロンを育てている個の姿を紹介しました。自らの思いを実現する中で、さまざまな問題に出合い、解決に向けて活動していきます。さらに、自分のタイミングで立ち上がり、仲間と協働することで、活動を加速していく姿も見られました。
この個は、なぜ、そうせざるを得ないのか。
その個をつき動かすものは何なのか。
その個を見ていると、その思いだけでなく、心の奥にある願いは何かを考え続けることで、本当の「その個らしさ」が見えてくるのではないでしょうか。
その個らしく生活できるか。日々、その個その個をみていきたいと思います。

箱根 正斉(はこね まさなり)
兵庫教育大学附属小学校
個がくらしを見つめ、その個が育つことを考えて実践に取り組んでいます。個が立ち、協働し、探究する。個がくらしをつくり、個が生きる。
生活科・総合的な学習の時間を中心として、その個が自分の思いを膨らませながら、自らの願いを実現し、自己実現を更新していく。
そんな個の育ちを目指して実践しています。
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