2025.01.13
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オンラインで可能性が広がる

20年ほど前に教育工学の全国大会で、オンラインを活用して遠くの小学校同士が交流をする授業を参観しました。
その時にはとてもこのような授業を自分が行うのは無理だなと思っていました。
ICTの技能に弱いので、機器の仕組みも分からずにやり方について考えることもしませんでした。

さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当 菊池 健一

遠方の方もオンライン活用で

リモートでの授業の様子

「あのような授業は特殊なものだ」と思い込んでいました。

しかし、コロナ禍でGIGAスクール構想が急激に進み、学校のデジタル化が大きく進展しました。児童も一人一台端末が実現し、いつでも手元でタブレットを使えるようになりました。この変化が、授業にも大きな影響を与えたことは周知のとおりです。授業の様子もだいぶ変わりました。インターネットにも手軽にアクセスでき、調べ学習も楽になりました。また、コロナ禍で学校に児童が来られないときにはオンライン授業を行うことも可能になりました。

そんな折、気が付きました。
「昔、参観したようなオンラインでの遠隔授業が可能なのではないか」。そして、そんな機会もめぐってきました。オンラインで遠くの方と交流することで、子どもたちの学習がグーンと広がるのを感じました。

ゲストティーチャーを招聘する

オンラインを利用した授業として最初に取り組んだのは東日本大震災の被災地とつないだ授業です。福島第一原発の事故で避難を余儀なくされた大熊町。町民の皆さんは会津若松に避難して長い間生活されました。そして、数年前から帰還が始まり、新しい小学校も作られました。その小学校「学び舎ゆめの森」の子どもたちと交流をする授業を行いました。
これまでずっと会津若松で学習し、大熊町にできた居住地に帰る子たちはどんな気持ちでいるのだろう……そんなことを交流を通して学びました。また、授業には、大熊町の町長も参加され、これまでのことや、これからの大熊町のことをお話しいただきました。本当に貴重な機会となりました。担当の子どもたちにとっても良い経験になりました。
子どもたちとは引き続き、大熊町の様子について調べていきました。実際に話をした相手がいる大熊町について子どもたちは大変興味をもっていました。きっとこの活動により、これからも被災地について関心をもっていくのだと思います。

次に取り組んだのが、東日本大震災の被災地である石巻の方との交流です。被災地で語り部をしている方にZoomを使ってお話を伺うことができました。これまでは被災地の方をなかなかお呼びすることができず、手紙などで交流をしていました。Zoomが使えるようになり、実際にお話を聞くことができるようになりました。

昨年度、ゲストティーチャーをお願いしたのが、あの大きな津波被害を受けた大川小学校の保護者で元中学校教師であった佐藤敏郎さんです。佐藤さんは津波で次女のみずほさんを亡くされました。佐藤さんはその後、大川伝承の会の共同代表などを務めながら、全国で防災についての講演などをされています。私も直接大川小学校の校庭で佐藤さんから震災当時の話を聞いたり、様々な研修会でご指導いただいたりしてきました。その中でぜひ受け持っている子どもたちに話をしていただきたいと思うようになったのです。

また、今年度は石巻の日和幼稚園遺族有志の会代表である、佐藤美香さんにもオンラインで児童に話をしていただきました。佐藤さんは東日本大震災で娘の愛梨ちゃんを亡くされました。当時、愛梨ちゃんは6歳…幼稚園の卒園を控えていました。もうすぐやってくる小学校生活を楽しみにしていた矢先の出来事でした。しかも、通っていた幼稚園の乗るはずのなかったバスに乗車したことによる事故でした。佐藤さんは、震災以降、命の大切さを伝えるために語り部の活動をされています。私もそのお話をお聞きし、ぜひ児童にも聞かせたいと強く思いました。その願いが叶い、児童に話をしてもらうことができました。

これからも児童と学んでいく

これまでもたくさんの方を教室に招き、児童と共に学習を深めてきました。「児童に本物と出会わせてあげたい」という思いは教師になって以来ずっと変わっていません。そして、教師として常に学び続ける必要性もこれまで以上に強く感じています。今回、オンラインでの授業が実施できるようになり、新たな可能性を感じています。これまではできなかったことも工夫次第で実現できます。まだまだ授業でやってみたいことがあり、協力していただきたい方もたくさんいます。その一つ一つを実現していきたいと考えています。

これからも児童と共に震災に限らずたくさんのことを学んでいきたいと思っています。そして、その学びを発信することで、全国の子どもたちや先生方にも伝えていけたらと考えています。次の取組の構想もできてきました。さらに実践を続けていきます。

菊池 健一(きくち けんいち)

さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当
所属校では新聞を活用した学習(NIE)を中心に研究を行う。放送大学大学院生文化科学研究科修士課程修了。日本新聞協会NIEアドバイザー、平成23年度文部科学大臣優秀教員、さいたま市優秀教員、第63回読売教育賞国語教育部門優秀賞。学びの場.com「震災を忘れない」等に寄稿。

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